会長・事務局長メッセージ

国境なき医師団日本 会長メッセージ

身近な人道援助に関心を持って

医療・人道援助を必要としている人びとは、一体どんな人たちなのでしょうか。それは遠い国の、私たちとは全く違う人たちではなく、私たちと同じようなことに笑ったり泣いたりする人たちです。たまたま政情不安定な国や紛争のさなかにある国に生まれてしまったり、災害に遭ってしまったりして命の危機に晒されている、私たちと同じ人間なのです。国境なき医師団(MSF)の活動現場で彼らに実際に会って話してみると、本当に身近に感じられるような人びとです。いまの世界では、日本に暮らす私たちの状況が、いつ彼らと同じような状況になっても全く不思議ではありません。

紛争地域で生まれてしまったことで大変な思いをして、自分も家族も命の危険に晒され、十分な医療も受けられない人たちがいるのはどうしてだろう、なんて不条理なことだろうと、私は幼少時から感じていました。戦争や災害などを経験せず、自分や家族の安全や命の心配をせずに日々の生活を送ることができるのは、実は幸運なことであり、その恩恵を受けている私たちが、困っている誰かのために行動をすることは、せめてもの「できること」だと思います。

国境なき医師団(MSF)日本 会長 救急専門医
中嶋 優子(なかじま・ゆうこ)

MSFは2022年に設立から51年目、MSF日本は30年目に入りましたが、依然として世界中で医療・人道援助の需要は変わっていません。むしろ増大する援助の必要性に駆られ、MSFは時代や世界情勢の複雑化に合わせて大きくなってきました。そして現在、現場により良い医療を提供できるよう、MSF全員での取り組みに向けて組織変革のさなかです。

そんな中、私は皆さまのご支援によりMSF日本がさらなる国際社会への貢献をできると信じています。会長として、支援者の皆さまと力を合わせて、日本から世界中のMSFの活動に貢献できる「うねり」を一緒に作っていきたいと思います。

「人道援助」は困っている人の役に立ちたいという想いがあれば、それが始まりです。まずは関心を持って、何ができるのかを一緒に考えていただけるだけでも良いのです。実は身近な人道援助に関心を持つ人が増え、社会全体が、世界中で困っている人に優しくなって、人道援助に取り組んでいくようになることを強く願っています。

MSF日本会長。東京都立国際高校卒業。札幌医科大学卒業後、沖縄米海軍病院で初期研修。浦添総合病院麻酔科・救急総合診療部、都立墨東病院麻酔科などを経てUSMLE(米国医師国家試験)合格。米国Yale大学病院Emergency Medicine Residency卒業後、米国救急専門医取得。UC San Diego EMS・災害医療フェロー、クリニカルリサーチフェローを経て2017年からEmory University Department of Emergency Medicine Assistant Professorを務める。同年日本人初の米国EMS専門医を取得。現在はMetro Atlanta Ambulance Service Medical Directorも兼任。
2009年にMSFに登録、現在は米国を拠点にMSFの活動に参加。2017年~2020年、MSF日本理事。2019年~2020年、同副会長。2022年3月より現職。

国境なき医師団日本 事務局長メッセージ

「人道主義」への支持を広め、日本から世界に向けたうねりを

MSFは1971年の設立以来、資金面で政治からの独立性を保つことにより組織運営の独立性を維持してきました。これにより、「人種、宗教、信条、政治的な信条の違いを超えて、差別することなく、現地の人びとが求めている援助を届ける」という人道主義の原則にのっとった活動を続けており、その方針はいままでも、そしてこれからも変わることはありません。

私自身、2005年から海外派遣スタッフとしてMSFに参加し、その人道主義の原則に沿ってシリアや南スーダン、イエメンなどでいくつもの活動を指揮・統括してきました。そこには、国籍や人種などさまざまなバックグラウンドのスタッフが、「緊急援助が必要な人を助ける」という同じ目的で集まっています。政情不安定な国や地域でこそ、女性や子どもをはじめとする人びとの医療や人道援助へのアクセスが必要ですが、近年「テロとの戦い」の名の下、紛争地の前線では医療機関への攻撃や特定地域に住む一般市民への援助活動の制限が正当化・合法化されており、多くの救えるはずの命が救えなくなっています。問題はこれらの行為が、国際人道法を順守する責任があるいくつもの国家(政府)により行われていることです。21世紀は、医療倫理や人道主義が危機を迎える時代になるのではないかと危惧しています。
ですから私は、日本のより多くの皆さまに「独立・中立・公平」の人道主義の原則に関心を持っていただき、日本から世界中のMSFの活動に貢献できるうねりをつくっていきたいのです。それがひいては、世界中で苦しみの淵にある人びとを一人でも多く救うことにつながると確信しています。

国境なき医師団(MSF)日本 事務局長
村田 慎二郎(むらた・しんじろう)

MSFにおける日本人初の事務局長。静岡大学を卒業後、外資系IT企業での営業職を経て、2005年にMSFに参加。現地の医療活動を支える物資輸送や水の確保などを行うロジスティシャンや事務職であるアドミニストレーターとして経験を積む。2012年、派遣国の全プロジェクトを指揮する「活動責任者」に日本人で初めて任命され、シリアや南スーダン、イエメンなどで援助活動に関する国レベルでの交渉などに従事。以来のべ10年以上を派遣地で過ごす。2019年夏より、紛争地で人道援助が必要な人たちの医療へのアクセスを回復・維持するために医療への攻撃を止めさせるアドボカシー戦略を練ることをゴールに掲げHarvard Kennedy School(ハーバード・ケネディスクール)に留学。John F. Kennedy Fellow (ジョン・F・ケネディフェロー) として行政学修士(Master in Public Administration=MPA)を取得した。2020年8月より現職。