Special Interviews

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南スーダンの病院で開腹手術を受けた少年を診察するクリストゥ医師=2013年撮影 © Isabel Corthier/MSF

尊厳と敬意をもって接する援助
患者が希望を取り戻すために

国境なき医師団(MSF)は設立から50年、常に患者に寄り添い続けてきました。必要な医療を提供することで、人びとの苦しみを和らげようと努めてきました。

今日、MSFを取り巻く状況は大きく変化しています。特にこの1年半、新型コロナウイルス感染症の大流行により、貧困などで危機的状況に陥る人が増え、これまでMSFが活動するとは予想もしていなかった地域で援助が必要となりました。また数十年前と違い、私たちの活動がすべての活動地で必ずしも受け入れられるわけではありません。地中海の捜索救助活動では人命救助が犯罪と見なされ、人を助けるという最も人間的な行為が非難されることもあります。それでも変わらないのは、私たちが向きあっているのは患者のニーズであり、尊厳と敬意をもって医療を提供することです。

2004年、私はアフリカ南部の国ザンビアで、当時深刻になっていたHIV/エイズとの闘いの最前線に医師として派遣されました。それまでさまざまな感染症の流行に対応してきたMSFも、HIVのように社会的・政治的な問題をはらむ疾病と向き合うのは未経験で、患者がいかに治療を続けられるかが大きな課題でした。薬の服用を怠ったり時間を守れなかったりすると、ウイルスに耐性ができて、薬が効かなくなってしまいます。患者だけでなく、医療関係者も巻き込んで、都市から遠く離れた農村部でも、患者が暮らす地域で治療を続けられるようにしました。

派遣から1年が経ち、帰国が近づいたある日、一人の患者さんから私がいなくなるならもうこれ以上治療を続けられない、と切り出されました。私は自分がいなくなっても代わりの医師が来る、私も人間だから家族のもとへ帰らなければ、と説明しました。すると彼は言いました。「先生はただの人間ではない。私の祈り、私の希望です」。

MSFの医療・人道援助の現場では、この言葉をよく聞きます。それは、MSFが命を救うだけではなく、活動を通じて患者に寄り添うことで、彼らが人としての尊厳を取り戻し、そこから続いていく人生の希望を見いだせるからだと思います。

患者への敬意は、証言活動でも貫かれています。団体の主張は常に活動現場で目にしたことに基づいており、鋭い言葉で表明することもあれば、あえて「声を上げない」こともあります。それが公であれ、直接交渉であれ、証言することで深刻な結果を招いたとしても、私たちは患者のために声を上げるのです。患者の声を世に届けるために声を上げ続けるのです。

photo© Isabel Corthier/MSF

外科医/インターナショナル会長
クリストス・クリストゥ

2002年よりMSFの活動に参加し、最初の任務で故郷ギリシャでの移民・難民への援助に携わる。2004年と2005年にザンビアでHIV/エイズのプロジェクトに参加。その後、外科医としての訓練を受け、2013年からは南スーダン、イラク、カメルーンなど、多くの紛争地域や情勢不安な状況下での援助活動に救急医・外科医として参加した。2005年からMSFギリシャで初代事務局長に就任。その後、MSFギリシャ副会長を経て会長を務める。2019年9月より現職。

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