Special Interviews

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HIVの抗レトロウイルス薬(ARV)治療について説明するスタッフ=2019年撮影、マラウイ © Isabel Corthier/MSF

現場のリアリティに基づき取り組む医療へのアクセス

1999年、国境なき医師団(MSF)が医薬品の公平な普及を訴えるアクセス・キャンペーン(旧名「必須医薬品キャンペーン」)を立ち上げた当時、MSFの活動地で、薬が高価で手に入らない、薬自体が存在していないなど、さまざまな問題がありました。その後のMSFの変遷をふりかえると、すべての患者が必要な医療を受けられることを求めるアクセス・キャンペーンの開始はとても革新的であったと言えます。

最初の大きな成果は2001年、HIV/エイズの治療薬の価格を大幅に引き下げたことでした。必要な国が治療薬を低価格で入手できるようになっただけではなく、医薬品の知的財産保護が障壁にならなければ手頃な価格の薬を作ることができる、と、医薬品開発そのものの考え方を変えることに成功しました。

同時期に、長年の働きかけの結果、世界貿易機関(WTO)加盟国によるドーハ宣言で、公衆衛生は医薬品の特許権保有者の利益よりも優先されるべきと各国政府によって合意され、医薬品を誰もが確保できることの重要性が確認されたのです。その後は、市民団体と協働で、C型肝炎の新薬開発にかかる知財権保護の課題に取り組み、薬価引き下げに成功しました。一方で、結核の新薬についてはまだ多くの課題が残り、広く普及されるまでには至っていません。

私が2009年にアクセス・キャンペーンに参加した当初、MSFの活動現場では栄養失調が重要な課題でした。中程度の栄養失調の子どもたちが重症に陥らないようにするため、予防と治療の方法を変え、必要な栄養素を適切に含んだ治療食(RUTF)を届けるための政策提言を行いました。

この活動は、MSFが当時ニジェールで行っていた重度の急性栄養失調への対応と深くつながっています。また、治療のみならず予防にも力を入れ、国連世界食糧計画(WFP)をはじめ栄養治療食を提供するさまざまな団体に対して、質の向上を働きかけました。MSFの現場での経験が、より広く国際援助の変革へつながった例であり、記憶に残る活動です。

アクセス・キャンペーンは政治への働きかけが中心ですが、MSFの活動現場における医療ニーズや課題をくみ取った上で、医薬品などのアクセスに関する政治課題の解決を目指しています。MSFの強みは、現場のリアリティに基づき政治的分析を行い、医療アクセスを阻んでいる制度そのものに変化をもたらせる点です。医療・人道援助の現場と国際政治の舞台という異なる2つの次元で取り組むことで、より持続可能な変革を実現しようとしているのです。

photo© MSF

アクセス・キャンペーン
リージョナル・アドボカシー責任者
ナタリー・エルヌー

2009年よりMSFアクセス・キャンペーンに参加し、患者の命を救うために必須の薬が、価格が高すぎたり、MSFが活動する国・地域では使えなかったり、存在していなかったりすることで必要な人に届かない問題に取り組む。2010年より、アジア太平洋地域、東アフリカ南部地域、ブラジルのリージョナル・アドボカシー責任者を担う。

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