海外派遣スタッフ体験談

30年の企業経験、誰かのために役立てたい──物流のプロとしてアフリカへ

2024年03月13日

久冨 俊

職種
ロジスティシャン(サプライ・ロジスティシャン)
活動地
リベリア
活動期間
2023年4月~10月

大学卒業後、1989年にコンビニエンスストア会社に入社。以来、物流業務を担う。社内の国際ボランティア休職制度を利用し、2023年から国境なき医師団の活動に参加。

50代になり考えた、これまでとこれから

日本のコンビニエンスストア業界で、約30年にわたって物流の仕事をしてきました。さまざまな商品を安定して店舗に届ける物流業務の全体を担い、タイやフィリピンでの海外駐在も計7年経験しました。
 
そして迎えた50代。自分はこれまで何をしてきたのか、そしてこれから何をすべきなのか──。改めて自分に向き合って考えるようになりました。そんな時、ネットで国境なき医師団(MSF)の求人情報を目にしたのです。MSFで働くことで、病気や災害、戦争で苦しむ人たちのために役に立てるのではないか。ぜひ挑戦してみようと心を決めました。ちょうど会社が国際ボランティアの休職制度を始めたことも大きな後押しになりました。
 
しかし、応募の段階で直面したのが語学の壁です。英語力が足りず、試験には2度落ちました。それでも諦めずにオンラインレッスンなどで勉強をして、ついに2022年にMSFの海外派遣スタッフとして登録されることができました。

文具から車両まで約1000アイテムをカバー

フォークリフトがなく人力での荷下ろし © MSF
フォークリフトがなく人力での荷下ろし © MSF
初めての派遣先となったのは、西アフリカのリベリアです。国内の複数のプロジェクトを統括する首都のコーディネーション・オフィスで、物資調達を担うサプライ・マネジャーとして活動しました。調達担当や倉庫担当のリベリア人スタッフ4人をマネジメントする役割です。
 
驚いたのは扱う物資の幅広さ。発電機や車両といった大きなものから、病院で使うベッドや文具、トイレットペーパーといった生活用品まで、倉庫に在庫されているだけでアイテム数はおよそ1000近くに上りました。
 
その物資に対し、現地スタッフ4人と私という限られた人数で、発注から調達、保管、仕分け、出荷まで行います。日本と比べるとはるかに少ない人数で業務をこなしており、現地スタッフたちの匠のような仕事ぶりに感心しました。
 
毎朝、各部門から上がってくる注文書をチェックするのが仕事の始まりでした。内容に問題がなければサインし、調達担当に引き継ぎます。今度は調達担当から購入の申請が届くので、量や金額を確認してサインします。それらの工程ごとに、「UniField」というMSFのシステムに情報を入れていきます。

チームのモチベーションが向上 そのきっかけは

物資によっては国内で調達ができず、フランス・ボルドーのMSFロジスティック(医薬品を含むさまざまな物資の拠点) の倉庫から国際便で飛行機や船で運ぶことも。その際は受け側として通関業務を行います。保健省でNGOとしての免税手続きをするなど、無事に物資を受け取るまでにはさまざまなプロセスがあります。日本では通関業務は経験していなかったので、学ぶところから始めました。
 
また、物資購入や在庫管理の仕事がどのくらいの精度でできているかを数値化して、正確度や生産性をKPI(重要業績評価指標)として明らかにする仕組みを導入しました。改善すべきことだけでなく、「90%の精度とはすごい」「こんなに良くなっている」といい結果を共有することで、チームメンバーのモチベーションが上がるのが目に見えて分かりました。彼らの表情が変わっているのが分かって嬉しかったです。
 
物品を購入した後の、荷受け、保管、仕分け、配送という物流の流れは、基本的に日本もMSFの現場も同じです。分からないことがあれば、これまでの経験の引き出しから探すことができました。日本のコンビニエンスストアでの30年の物流担当の経験を、十分に生かすことができたと思います。

さまざまな物資を保管するテント倉庫 © MSF
さまざまな物資を保管するテント倉庫 © MSF

英語の壁、同僚たちに支えられ

応募時に苦労した英語は、現場でも苦労しました。毎朝、仕事を始める前に英語を勉強する時間を作りましたが、まだまだ足りません。宿舎ではウガンダやパキスタン、アフガニスタン、アメリカ、ドイツなど、さまざまな国から集まったスタッフとの共同生活でしたが、そこにも初めは苦労しました。(ある時、出身国を数えたらおよそ15カ国でした)
 
英語で一日仕事をするとぐったり疲れてしまい、夕食を皆と食べる気力もなく、一人で部屋にこもってしまう時期もあったほどです。日記には、「今日もだめだった。でもがんばらなければ」ということを毎日毎日書いていました。
 
そんな私を他のスタッフが気にかけて、「タカシ、今夜はカードゲームパーティーだ」「週末は一緒にプールに行こう」などと連れ出してくれました。その後、「今自分にできることをやるしかない」と割り切ることができ、積極的に同僚たちの輪の中に入っていけるようになりました。

世界中から集まったメンバーと共同生活を送った © MSF
世界中から集まったメンバーと共同生活を送った © MSF

小さな赤ちゃんに衝撃

仕事をするのは基本的にオフィスの中でしたが、MSFが支援している小児科の病院に何度か行く機会がありました。そこには、両手に納まってしまうほど小さい栄養失調の赤ちゃんが入院していて、改めてMSFが活動する現場の現実を突きつけられました。ベッドなど、購入した物品が実際に使われている様子を見られたのも貴重な経験でした。
 
別の国にいたら助かったかもしれないのに、リベリアにいることで助からない子どもたちがいます。でも、寄付の力で助かることがある。必要な薬や支援があれば救える命が現実にたくさんあり、命を守る活動が寄付に支えられているのだと実感しました。

MSFはリベリアで小児医療に取り組んでいる © MSF
MSFはリベリアで小児医療に取り組んでいる © MSF

MSFで得た視点は日本でも役立つ

MSFの現場は、多様な人たちが集まった、まさにダイバーシティー(多様性)の現場です。そして、さまざまなものが限られる環境で、何を優先して何を選択するのか、答えが与えられるのを待つのではなく、自分から判断していく必要があります。MSFの活動で得られる考え方や新しい視点は、日本に戻ってきてからも役立つはずです。
 
私は今58歳ですが、会社の若い後輩たちにも海外に関心を持っている人たちがいるかもしれません。家族の事情などですぐに行くことはできないとしても、生きる道の選択肢の一つとして、海外で自分の経験を生かすことを考えてくれたらと思います。
 

「写真で着ているのはリベリアの伝統衣装です。活動を終える際に、チームのメンバーから感謝の言葉とともに頂きました」

共に働いた仲間たちと © MSF
共に働いた仲間たちと © MSF

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