特集 シリア内戦10年 10年終わらぬシリア内戦 避難1300万人の危機
- シリアの人びとが突然、日常を奪われてから10年。世界で最も多くの避難民を出したシリア内戦は、“第二次世界大戦後、最悪の人道危機”といわれます。いまも終わりの見えないこの内戦は、どのような10年を辿ってきたのでしょうか。
更新日:2021年11月30日
5つの数字で知る シリア内戦10年の被害
空爆、砲撃、包囲攻撃……。2011年に内戦が始まって以来、シリアでは一般市民の命が危機にさらされ続けてきました。また反体制派が統制する地域では、医療従事者さえも命を狙われています。「反政府=テロリスト」と認定され、政府による迫害や攻撃の対象となっているからです。

- (出典)1枚目:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と東京都ホームページ(2021年3月現在)/2枚目:国連児童基金(UNICEF)調べ(2021年3月現在)/3枚目:UNICEF「FAST FACTS SYRIA REGIONAL CRISIS 10 YEARS ON」レポート(2021年3月)/4枚目:Physician for Human Rights調べ(2021年3月現在)
シリア内戦の10年とは?
内戦の始まり

2011年3月、東日本大震災が日本国内を揺るがしていたちょうどその時、シリアでは中東諸国で起きた「アラブの春」が波及。民主化を求めて立ち上がる人びとが現れました。
それまで40年にわたり、独裁政権が続いていたシリア。壁に反政府の落書きをした少年たちの逮捕と拷問をきっかけに、抗議デモが瞬く間に各地で広がりました。政府は平和的なデモを武力で鎮圧しようとしたため、抵抗する市民らも次第に武装化し、内戦状態に陥っていきました。

なぜ終わらない?
内戦はその後、さまざまな国がそれぞれに異なる目的で介入し、混迷を深めていきます。トルコやサウジアラビア、米国などの国々は政権打倒をめざす反体制派を支持する一方で、現状維持を望むイラン、ロシア、中国はシリア政府を支援。2012年には戦闘が全土に拡大し、政府や多数の武装勢力、そして諸外国の思惑が錯綜するなか、終結への道筋をつけることがもはや困難となりました。
さらに2013年頃からは、「イスラム国」などの過激派組織が台頭し、統治の空白を埋めるかたちで北部ラッカなどを掌握。各国は「対テロ戦争」の名の下、軍の部隊を派遣しました。紛争はさらに泥沼化し、代理戦争の様相も帯びるようになったのです。
2015年以降は、政府を支援するロシアが空爆を本格化させたため、反体制派は劣勢となり、最後の拠点である北西部イドリブ県に追い詰められています。

© Mahmoud Abdel-rahman/MSF
苦難が続くシリアの現在
2011年以降、戦火や迫害から逃れるために自宅を追われたシリア人の数は、1300万人以上(※1)。内戦前の人口の半数以上にあたります。国内で避難する人の数は670万人で、その多くが先行きの見えない、不安定なキャンプ暮らしを余儀なくされています。残りの660万人のシリア人は、主にトルコやレバノンなどの周辺国で難民となり、そのうち7割以上の人が国際貧困ライン以下の生活をしているとされます(※2)。
さらに2020年以降は、経済危機と新型コロナウイルスの感染拡大がシリア全土を覆い、これらによる深刻な影響も続いています。
- ※1 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計
- ※2 世界銀行とUNHCRによる共同調査(2020年12月)
