家族の声

そういう人を選んでしまった、と心で耐えて笑って見送る

  • 関 聡志(外科医) & 関 美華さん(妻)

    医師であり続けることの大きな理由の一つとして国境なき医師団(MSF)の活動に参加する関聡志と、何度も紛争地に派遣される夫を毎回心配しながら見送る妻の美華さん。どんなに反対しても行き続ける夫に美華さんは「もう諦めの境地」と言いながらも、精一杯思う存分活動してきてほしいと送り出す。

付き合ってすぐにシリアに行くと言われ、どちらも引かず揉め事に

美華:付き合い始めて間もなく、夫がシリアに行くと聞いた時には絶対に行ってほしくないと大反対しました。揉めるくらいの大ごとに発展しましたね。

聡志:その頃にはもうすでにプロポーズもしていました。MSFでの活動は僕の小さいころからの夢でしたし、すでに派遣は何度も行っていました。それは付き合う時点で彼女は知っていてくれていましたし、シリア派遣に関しては「もう決まったことだから」と言うしかありませんでした。

美華:この時は何を言われても泣いてばかりいました。私がこんなに心配して反対しているのに、それでも航空券やビザなどの準備は進められるし、事実が刻々と進んでいき…。

聡志:反対する彼女を見て、僕の方ではどうしたら分かってもらえるのかな、とずっと考えました。彼女は海外にも行ったことがないし、現地の感覚を伝えるのは難しい。セキュリティ管理のことも含めなるべく現地の話をし、何かあったらすぐに避難するから心配ないよ、などという説明に努めました。

美華:何を言っても聞いてくれないな、と。最後はもう折れた、という感じでした。

結婚したらさすがにもう行かないだろう……ところが?

美華:彼が約2カ月間のシリア派遣から無事に帰国し、数カ月後に結婚式を挙げました。もう結婚したのだし、さすがにまさかもうMSFの派遣には行かないだろうと思っていました。そこはもう独身とは違う訳ですから。ところが、あれ?と。なんかこの人、また行くんじゃないのかな、という気配を感じ取り……。

聡志:いや、僕としては正直きちんと伝えていたつもりなんですよ、「これからも行くよ」って。毎年行くのはすでに決めているものですから、その前提で職場の先輩や上司に事前に相談をし、再び3カ月の休暇許可をもらいました。その上でMSF側に「この時期に行けますので派遣先を探してください」と伝え、次の派遣を実現させるための土台を作っていました。

美華:いやいや、私としたら結婚したら普通はもう行かないと思っていますから、また派遣の話を聞いて再び大泣きです。もちろん夢を応援したい気持ちはあるのですが、夫に2カ月、も3カ月も家を空けて欲しくありません。もしかしたら紛争地でなければまだ仕方ない、行っておいでという気には少しはなるのかも知れませんが、今回もイエメンという国のまた別の紛争地でした。

夫がシリア派遣から戻り、無事に結婚した2人。
沖縄での新婚旅行を漫喫

離れている2人の心の支えは1日1回のLINE

聡志:現地に行っていると妻はとにかく僕がご飯食べているのか?ということを気にするので、今日はこんなの食べたよとか、ちゃんと生活してるよ、元気だぞ、というメッセージをLINEで意識的に送っています。

美華:とにかくちゃんと食べているか、ただただそれだけです。一度夫が食事の写真を送ってくれたのですけど、どこかのレストランで英語が通じずに、勘違いですごい量の食べ物を注文してしまったとかで、それがテーブルいっぱいの大皿料理だったんですよ。

聡志:これはチャンスとばかりに意図的に彼女に送りましたね。「こんなにたくさん食べているよ!」って安心させるために(笑)

美華:彼の健康が一番心配なんですよね。

聡志:彼女の心配を和らげるためだけではなく、僕としてもこの1日1回のLINEのやり取りというのは、彼女との繋がり、つまり自分の居場所との繋がりを感じることができるので、現地での自分の支えとなっています。

そして再びの出発──夫はもう何を言っても聞いてくれない

美華:実は来週、再び夫を見送らなくてはいけません。今度もまた前回と同じイエメンに出発すると。それを聞いた時には、もう絶対にこの人は何を言っても聞かないんだろうなぁと思いました。私としては本当に行ってほしくないし、ヒステリーになるくらいの勢いで反対しているのに。ここまできたら、もう諦めの境地に入ってきているというしかありません。

聡志:それでも行く僕も頑固ですよね(笑)

美華:夫が留守の間は、どうしても一人で不安になってしまいます。楽しかったことさえも思い出すと辛くなってしまったり。同じような気持ちを共有できる人がいたら少しは楽になるのでしょうけど、夫を紛争地に送り出す人なんてなかなかいない、それが辛くて。そんな時は外を歩くのが私の気晴らしです。何も考えずにいられるし、長時間歩くと疲れて足が限界だなと、そのことで頭がいっぱいになるので家に着いた頃には気持ちがスッキリしています。あとは趣味のダンスをしたり、母が1週間くらい来てくれたり、姉の場所に行ったりと、何とか工夫して過ごしています。ポジティブに考えなくては、と思いながらも数カ月の留守ってやっぱり長いです。

聡志:現地で忙しく医療活動をしていると数カ月って一瞬なんだけどね(笑)

MSFの活動記事に写る彼の写真をこっそりスマートフォンに保存

聡志:僕がそこまでしてMSFの派遣に行く理由としては、自分が医師である理由の大きな一つかな、というところです。これをやりたくて今までキャリアを積んでいろいろ準備してきましたから。そのために日本で仕事を頑張っているところもありますし、この先も行ける限りは行きたいと思っています。

美華:彼がMSFの派遣に行くことでいきいきしているのは認めます。送り出して良かった、と心から言える心境にはまだまだなっていませんけど。

聡志:メディアや広報部に取り上げていただく記事などは、意図的に妻に全て見せていますね。自分の言葉よりは、媒体を通して彼女に見たり聞いたりしてもらった方が、現地の雰囲気はすごく伝わるかなと思って。

美華:そういうものにはきちんと全部目を通しています。もともと医師としての彼を心から尊敬していますし、日本だけでなく、現地での彼の活動についても理解しようと努力はしているつもりです。実は彼の活動写真をスマートフォンに保存しているんですよ。

聡志:妻はなんだかんだサポートしてくれているので本当に感謝しています。これからも1年に1回くらいのペースで行きたいと思っています。

MSFの活動記事で目にしたイエメンでの仕事姿の写真は、
美華さんのスマートフォンにも保存された。

必ず家で待っていてくれる妻に感謝

美華:実は私たちって滅多に喧嘩しないんですよ。笑っていることの方が多いです。それは付き合っている頃から。夫は普段はとても穏やかですし、一緒にいて安心できます。何気ない会話をしていても楽しめますし、2人でバカな事をして大笑いしている時に本当に気が合うな、と思います。あと夫は結構おっちょこちょいで面白くて、本当に楽しいです。2人のなかでの揉め事と言えばたった一つ、MSFのこと(笑)。

聡志:彼女の家族にも心配されるし、僕自身の家族も呆れていますし、家族の集まりになった時には全く居場所がありません、孤立無援とはこのことです(笑)。でも妻には我慢させるだけではなくMSFの派遣のあとには何日間かちょっとした旅行を用意しておきます。そうするととても喜んでくれますし、そのようにして妻の機嫌をとるためのポイントをためています(笑)

美華:本人は60歳くらいまではMSFの派遣に行くと言っていますが、私は私でそれに負けずに、これからもずっと反対し続けると思います。私だって言わないと溜まってしまいますから。まぁでも、夫はこれからも絶対に行くし……。だとしたら私も留守の間の一人暮らしを楽しめるように努力しようと思います。

聡志:妻がいつも必ず家で待っていてくれるので、それがすごく支えになるというか、自分がいつも帰る場所があるというのは本当にありがたいことだと思っています。普段から家に帰ると彼女がいろいろとその日にあった事などを話してくれて、そういうたわいもない雑談が僕にとってリラックスできるという日常です。そういう場を作ってくれている妻には日々感謝しています。

海外派遣の後にはいつも旅行に出かけている

夫へ「無理だけはしないで下さい」、そして私と同じ見送る立場の方へ「一緒に耐えましょう」

美華:夫はもうすぐ再び紛争地に出発してしまいますが、向こうに行っても、ちゃんとご飯を食べて、休める時には寝てほしいです。本当にそこなんです。そういうところなんです、私の心配は。そして無事に帰って来てください。これがやりたい事なのでしょうから、精一杯思う存分活動してきてほしいな、と思います。そして無理だけはしないで下さいね。

聡志:ありがとうございます、頑張ります。次の活動地も紛争現場から近く、インフラが破壊されているような場所に向かいます。真に医療が必要な人たちのために、僕ができることをやってきます。

美華:最後に、MSFの現場で活躍するスタッフの裏側には、私と同じように送り出す側の人たちが同じ数だけいると思います。大切な人を行かせるのは心配と不安でいっぱいだと思うんですけど、でもそういう相手を選んでしまったと諦めて、笑って送り出すというのも一つの愛なのかな、と思います。ただ自分が思っていることは我慢せずにどんどん伝えてもいいと思います。そして、必ずお返しをもらいましょう(笑)こちらだけが不安な思いをしたり、我慢したりしていると、ストレスが溜まりいつか爆発してしまうと思うからです。欲しいものをリクエストしてみるとか、普段なかなかできない旅行を提案してみるとか。何でもいいので、自分も何か喜べることが待っていると思うと留守の間も頑張れると思います。そして一緒に耐えましょう!

美華さんの宝物。夫が普段口にしない言葉は、
記念日の度に渡してくれる手紙にたくさん詰まっている。

関 聡志

2009年に福島県立医科大学医学部卒業。MSFで活動すること事を目標に、外科医としての経験を積みながら整形外科や産婦人科などの研修にも参加。2016年にMSFに参加。これまで南スーダン、シリア、イエメンなどの紛争地で医療・人道援助活動に従事。

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