海外派遣スタッフ世界の現場から

日本を離れて気付く 資源を最大限活用する治療の大切さ

遠藤 大

ポジション
麻酔科医 
活動地
イエメン
活動期間
2019年11月~2020年1月 

日本の大学病院で麻酔科医として勤務しながら、2カ月のプロジェクトに参加。イエメンでは手術室の内外で、外科医や救急医と協力しながら外傷患者などの治療に取り組んだ。

職場の理解と後押しを得て現地に出発

手術室チーム © MSF

手術室チーム © MSF

日本にいる間は大学病院の麻酔科に勤務しています。麻酔科の教授である院長に直接交渉して、2カ月までのプロジェクトであれば仕事を休職して参加して良いと許可をもらいました。以前にも他のNGOで1週間ほどの活動に参加したことがあったので、上司や職場の仲間に話したら理解してもらえて、海外派遣に送り出してくれました。なるべく迷惑がかからないよう、出発の前日まで大学病院勤務をこなし、職場復帰したら休職中の分を取り返すぐらい全力で働く覚悟で出かけます。職場の仲間には毎回帰国後に、現地活動の様子や大変だったことなどをレクチャーしています。 

手術室の外まで、多岐にわたる業務

現地外科医、現地麻酔科医と © MSF

現地外科医、現地麻酔科医と © MSF<br>

 前回は初めての派遣でイラクに行き、今回は2回目の派遣で、イエメンで活動しました。キロ病院で、現地の麻酔科医と協力して手術中の麻酔管理を行いました。また、術後の抗菌薬の投与計画、輸液治療、痛みのマネジメントも麻酔科医の役割でした。

重症患者については集中治療室(ICU)で管理する計画を立て、何度もICUに様子を見に行き、治療効果についての判断もしました。救急救命室(ER)の患者についても、現地の救急医と協力して治療したり、アドバイスをしたりしました。

日本では手術室だけで行動することも多いですが、現地ではベッド状況が目まぐるしく変わるため、手術室外のことも把握することが必要でした。症例としては非常に多いのが外傷でした。銃創、交通事故、転落事故、動物咬傷といったケガがほとんどで、時々爆発事故、やけど、ケンカによるケガも見ます。日本では銃創患者を診ることはありませんが、イエメンでは銃を持っている人も多く、銃による外傷がしばしばみられました。また交通事故の患者も絶えず運ばれてきました。

失われる命 救えたはずなのに

全身麻酔、気管挿管の様子 © MSF<br>

全身麻酔、気管挿管の様子 © MSF

印象に残っているのは、お腹を銃で打たれた患者さんです。撃たれた箇所の止血はできたのですが別の場所で出血が進み、出血性ショック状態でした。日本であればCT検査で出血箇所を確認し、カテーテル治療によって止血ができるのですが、この病院ではCTやカテーテル等の医療機器がなく、不可能です。開腹手術をして出血箇所を特定しようとしたのですが見つからず、残念ながら命を落とされました。日本であれば助けられたのに、悔しくて心に残っています。

また、転んで腹部を打って、数日後に病院に来た妊婦さんがいました。数日の間に出血が進み、貧血状態で運ばれてきました。超音波検査の結果、お腹の中で出血しており、赤ちゃんの心拍はすでにありません。母体も危険だったので開腹手術をしたところ、子宮に大きな穴が空いていて、赤ちゃんは窒息死したことが分かりました。輸血と帝王切開で赤ちゃんを取り出し、お母さんは助かりました。もし転んですぐに病院に来ていれば、赤ちゃんも助かった可能性があるのに、とやるせない気持ちになります。イエメンでは経済的問題、男女格差など様々な理由で、患者さんがなかなか病院に来ません。日本との違いを痛感しました。
 

現地のペースでストレスなく

折り紙などで現地スタッフと交流を深める © MSF

折り紙などで現地スタッフと交流を深める © MSF<br>

イエメンの人たちは皆親切で、私のような外国からの医師を快く迎えてくれました。ただ現地の麻酔科医や外科医は私より年上であることが多く、指導することが難しいことがよくありました。はじめは現地スタッフの方が治療に慣れているため、治療方針に対してアドバイスすることができませんでした。

徐々に現地スタッフの癖が分かってくると、彼らの苦手分野が分かり、そこをカバーするようにアドバイスできるようになりました。また、イエメンのスタッフは、日本のように先を読んで準備をすることが苦手で、言われたことを一つずつこなしていきます。よほどの急変は別ですが、あまりせっかちにならずに現地のペースに任せることでも治療は何とかなります。

焦らずにマイペースで過ごすことで、ストレスは全然ありませんでした。一般的にイエメンのスタッフは自立していてレベルも高く、患者を任せられるので、そのおかげで救急なども対応することができました。 

アラビア語を覚えて現地スタッフと交流を 

現地スタッフたちとの集合写真 もらったターバンを頭に巻いて © MSF<br>

現地スタッフたちとの集合写真 もらったターバンを頭に巻いて © MSF

活動中は少しずつ現地語であるアラビア語を教えてもらい、簡単な単語や数字が使えるようになると現地スタッフからの信頼度が上がりました。麻酔薬を指示する際にアラビア語で量を言ったらびっくりしていました。

少しアラビア語が話せるようになったら、逆に現地スタッフに日本語を教えました。いち、に、さん、と日本語で数えながら患者をベッドに移すようにして現地スタッフとの距離を縮めました。派遣最終日には現地の皆から現地衣装のターバンを頂きました。2カ月という限られた期間でしたが、イエメンの医療に貢献でき、それが現地のスタッフに認められたのだなと嬉しく思いました。 

寄付金を無駄にしない活動

イエメンで困ったことは、とにかく薬や物資の供給が不安定なことです。欧州にあるMSFの物流拠点から物資が供給されるのですが、隣国のジブチで足止めをくらってしまったりなど、予定していた時期に薬が届かず困ることがよくありました。常に代替案を考えて、代わりの薬や他の方法を提案しました。在庫の確認を現地スタッフと一緒に行い、節約するよう努めました。

日本での医療は、医療費が国のネックになるくらい多くの検査を日常的に行っています。MSFでは寄付による資金で医療を提供しているため、無駄な検査は行いません。常に在庫供給を意識して、使い過ぎると管理部門から注意されます。例えば虫垂炎の診断について、外科医による腹部診察と発熱、白血球数で手術を行うか検討します。たまに超音波で裏付けをしますが、CT検査のような画像診断や他の血液検査は行いません。無駄を省いて最大限の治療ができるように努力しています。日本で診療していると薬の供給について考えることが滅多にありません。

限られた資源を最大限に使って診療を行うMSFの活動に協力できることにやりがいを感じました。機会があれば今後も参加を考えています。 


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