海外派遣スタッフインタビュー

麻酔科医佐藤 聖子

「患者さんを身近に」
MSFで確認した医師としての原点

国境なき医師団(MSF)の麻酔科医、佐藤聖子。高校時代にあこがれた医療援助活動に関わりたいとMSFに参加。手術室で多くのモニターに囲まれた中で仕事をしてきた佐藤にとって、MSFは「医師として、人を診るという医療の原点に立ち返れた場所」だという。

参加のきっかけ

麻酔科医も必要とされている

医師になって10年。キャリアについて悩んだ時期がありました。「本当にやりたいことは何だろう」。そんなとき、ある国際医療援助の本を思い出しました。大学受験を控えた高校時代に図書館で読んだ本です。「こうした活動をしたいと思って医師を目指したな」。当時の気持ちが蘇ってきました。

ただ当初は、国際医療支援の現場で必要とされているのは、外科医や救急医だろうと漠然と思っていました。それでも麻酔科医として関われる現場がないかインターネットで探していて、MSFのホームページにたどり着き、麻酔科医を募集していることを知ったのです。「やりたいことはこれだ、これをやるしかない!」。ビビッときました。とても嬉しかったことを覚えています。30代半ばでのチャレンジ。迷いはありませんでした。

参加するまで

苦手な英語を克服するために

実は英語がとても苦手でした。学生の頃も一番苦手な科目は英語。ただ、MSFの説明会で講演された麻酔科医の先生が「とりあえず応募してごらんよ」と背中を押してくれて。「ダメで元々!」と、すぐにMSFに応募書類を送りました。でも、やっぱり英語での面接は全く歯が立ちませんでした。

一念発起し、英語を学び直すことにしました。毎日20分、オンライン英会話を活用し、仕事の合間に語学学校にも通いました。職場に相談をして、人生で初めて2カ月の語学留学にも行きました。日々の勉強が身を結び、TOEICの試験も納得のいく点数が取れ、面接試験に再挑戦しました。結果は合格。最初の挑戦から約2年が経っていました。

活動中の佐藤医師(左)=2015年、アフガニスタン

活動内容

忘れられない患者

中東の紛争地でのこと。連日運ばれてくる熱傷患者の治療にあたりました。粗悪な燃料を使っているので、料理をしたり、暖房を使ったりするときに爆発し、体や顔に広い範囲でやけどを負ってしまうのです。特に、女性の患者さんが多かったです。

やけどの包帯をかえ、消毒し、薬を塗る、という手順を繰り返します。強い痛みがあるので、手術室で全身麻酔をかけて包帯をかえます。麻酔科医として何度も立会った中で、忘れられない患者さんが2人います。顔を大やけどした女性と、体に広範囲の全身やけどを負った女性。同室の患者さんで、2人とも母親でした。回診とは別に時間を作っては、様子を見に行きました。顔をやけどした女性は、出産したばかり。ご飯も満足に食べられず、子どもに授乳できずにいました。もう一人の女性は、顔以外は包帯に巻かれ、家族も面会に来ません。2人が置かれている厳しい状況を思うと、会うのが辛くなることもありました。でも、全身やけどを負った彼女が「手術室に行くのは怖いけれど、あなたの顔を見たら安心する」と、思いがけない言葉を掛けてくれたのです。

これまで医師として働く中で、「あなたがいて良かった」と患者さんから声を掛けられた経験は、正直ありませんでした。日本では、外科医や内科医と違って、麻酔科医が患者さんの主治医になることはないので、患者さんと深く関わることは多くありません。MSFで活動して、これまでになく、患者さんの存在を近くに感じました。麻酔科医として、MSFで働けてよかったと思っています。

全身やけどを負った女性患者と佐藤医師(右)

やりがい

立ち返れた 医療者としての原点

日本での麻酔科医として経験やスキルは、MSFのどこの活動地でも、絶対に生かせると思います。麻酔の基本、術中の患者さんの脈拍や血圧などのバイタルサインを安定させるという基本は、日本でもMSFの活動地でも同じです。たしかに日本では使っていない薬を使っていたり、設備や医療機器などが日本ほどしっかりしてなかったりする違いはありますが、麻酔科医の技術で困ることはないと思います。

MSFで働いて、高度な機器に頼りきらず、患者さん自身をよく診るようになれたと実感しています。手術中、医療機器のモニター画面を確認するのは麻酔科医の重要な仕事。手術室には心電図や呼吸などを見る医療機器がたくさんあります。機器の精度が高いので、モニター画面を見れば患者さんの状態はすぐに分かります。その結果、患者さん自身よりも、モニター画面を見たり、機器に触れていたりする時間が必然的に長くなります。

でもMSFの活動地では、日本のように高価で精度の高い機器はありません。あっても、血圧計とか酸素の量を計る機器だとか、本当に基本的なものです。それだけに、聴診器を使ったり、実際に触って脈を診たりと、よく患者さんを診るようになりました。実際に患者さんと向き合う機会が増えたことで、患者さんを直接診るという、医療の原点に立ち返ることができました。医師として大きな経験だと思います。

アフガニスタンの病院で生まれたばかりの赤ちゃんと(2015年撮影)

今後の展望

より良い医療を提供するために

今は年1回、活動に参加できるようにと考えて、総合病院で嘱託職員として働いています。活動を理解してくれる職場で、とてもありがたいと思っています。

MSFのすごい所は、私たちがそれぞれ希望する派遣時期に、柔軟に対応しようとしてくれる所。「この時期で」と事前に伝えておくと、その希望になるべく沿うように派遣時期の調整をしてくれます。このフットワークの軽さ、スピード感は、やはりMSFならではだと思います。

MSFの一員として、医療の届かない方がたに向けて、確実に医療を届ける役割を担っている、役に立てるという大きなやりがいを感じています。活動を続けるために、抗生物質、薬剤の知識など、もっと専門知識を身につけていきたいと思っています。ミッションの合間には、長崎大で熱帯医学などを学ぶ3カ月間のコースも受講しました。アフリカなどでの活動時に、マラリアの知識もあった方がいいと思ったからです。活動中に、「足りなかったな」と思った知識や技術は、帰国後に必ず学び直すようにしています。

すべては、次の活動でさらに良い医療を提供できるようにするために。


キャリアパス

2002年
滋賀医科大学医学部卒業
2015年
MSF アフガニスタンで約2カ月活動
2017年
MSF イエメンで約2カ月半活動
2017年6月
長崎大学熱帯医学研究所熱帯医学研修課程修了
2018年
MSF シリアで約1カ月半活動
2018~2019年
日本赤十字社による派遣で、バングラデシュで約1カ月活動

※掲載内容は取材当時のものです。

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