シリア:保健医療体制の崩壊で膨大な医療ニーズ
2013年02月05日掲載

カトリン・キスワニ
内戦が続くシリアで、国境なき医師団(MSF)は仮設病院を設置し、紛争被害者の治療や、基礎医療・慢性疾患への診療を提供している。主な活動地域は、イドリブ県北部のジャバル・アル・アクラードで、かなり山深く、トルコ国境に近いところだ。この地域には、国内の都市圏ほど頻繁で激しい戦闘にさらされていない場所もあるが、状況は一触即発で、危険なことにかわりはない。活動を2ヵ月にわたり指揮したカトリン・キスワニに現地の様子を聞いた。
ヘリからの爆薬投下で被害拡大
この地域でも、一部の村が毎日のようにヘリコプターの攻撃を受け、ミサイルや、爆薬と金属製の装置の詰まったドラム缶を投下されています。そうした攻撃による破片創や倒壊した家屋による挫滅創などの被害は、地域の人びとに甚大な被害をもたらすものです。
村は美しい山あいに広がり、天気のいい日には真っ青な空と目を見張るばかりの山景が広がります。ですが、美しい景色はいつもすぐに打ち破られます。晴天のときは決まってヘリがやって来るからです。
村の中心部に複数の爆弾が落ち、MSFの野外病院でも子どもと女性を含む複数の負傷者を受け入れる日が数日ありました。来院直後に亡くなった方が1人、そのほか複数の人に外科処置が必要でした。内部損傷を負った患者もおり、ある高齢の女性は破片創がひどく、片足を切除しなければなりませんでした。
爆弾の落ちないときでも、ヘリコプターの恐怖が多くのけがを引き起こします。ヘリの音を聞いた人びとがパニックに陥り、バイクが車や壁にぶつかるといった交通事故が起こるのです。
ヘリが来たとき、自宅の屋根の上にいたという子どもを治療しました。その男の子は恐怖のあまり、数メートルの高さの屋根から飛び降りたそうです。脳振とうと呼吸困難で搬送されてきましたが、幸い、治療は成功しました。
押し寄せる患者、難しい選択

戦闘や攻撃があると、患者がなだれ込んでくることがよくありますが、多数傷病者(mass casualty)のケースになるとは限りません。患者がどの程度増えるのか、逆に状況が落ち着いていくのかといったことが見通せないのです。
そんなときには難しい選択を迫られます。ある負傷者の手術を開始し、より重傷の患者が来ないよう願うか、最初の負傷者をしばらく待たせて、現実にはならないかもしれない集団来院に備えるか……。
状況の推移について具体的な情報を把握するのは簡単ではありません。私たちが直面しているこの二者択一は常に困難です。ただ、シリアのような状況で緊急医療を提供することの本質もそこにあるのです。
今回の紛争は絶えず人びとに恐怖と不安を呼び起こしています。MSFは、戦闘がさらに激しい地域から避難してきた大勢の人びとも援助しています。食糧・燃料・水が確保され、子どもは通学し、将来の確かな見通しもあった彼らの日常生活は、停止してしまっているのです。うつになり、食欲がなく、眠れない子どもいます。皆、必要最小限のものを得ることにも苦労しています。MSFは毛布、衛生用品、貯水容器を配給し、移動診療も行っています。
崩壊した保健医療体制

(上:2013年1月21日、下:1月24日)
私たちは幾度となく、基礎的な医療の不足と、高血圧、心疾患、ぜんそく、糖尿病といった慢性疾患への対策に直面しています。シリアの保健医療体制が実質的に崩壊してしまっているため、状況は悪化の一途をたどっているのです。
あるがん患者を受け入れたときのことです。すでに末期でした。本来なら、化学療法を受けていなければならなかったのです。私たちにできることといえば、痛みを和らげるくらいのものでした。
母子保健についても、多くの問題があります。妊婦が頼っていける場所はまずなく、自宅分娩するほかありません。運がよければ助産師か伝統的な分娩介助者が見つかる、といった具合です。こうした事例も増えているため、MSFでは、必要に応じて帝王切開も行っています。
MSFでは治療のできない急患や病気については、トルコ国内の病院を紹介し、移送の手配に協力しています。これも非常に難航することがあります。
MSFが活動する意義
MSFはシリアで、紛争で負傷した人に重点を置いて活動を始めました。負傷者への対応は現在の活動でも主要な位置を占めています。シリアの人びとは2年にわたり内戦に苦しめられています。その間、多くの地域で、保健医療体制が事実上、消滅してしまいました。
人びとは基礎医療にすら事欠いており、MSFが活動地で基礎医療を提供するケースが増えています。そのニーズは膨大です。MSFは必要とされています。なすべきことはたくさんあるのです。
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