家と呼べる場所もなく—誰にも知られずさまよう難民、忘れられた人道援助

2018年04月18日掲載

チャンセラさんは子ども以外のすべてを残して中央アフリカを出た。足に刺さったとげの傷が悪化し、切断が必要なまで重症化した。
チャンセラさんは子ども以外のすべてを残して中央アフリカを出た。足に刺さったとげの傷が悪化し、切断が必要だ。

2つの国を行ったり来たりしながら暮らしている人びとがいる。時には難民、時には帰還者として暮らす彼らに、「家」と呼べる場所はない。国境なき医師団(MSF)は、コンゴ民主共和国(以下「コンゴ」)の北部で、隣接する中央アフリカ共和国(以下「中央アフリカ」)から逃れてきた難民を援助している。プロジェクト・コーディネーターを努めるセバスチャン・ジャグラが、人道援助の難しさを語っている。

モベイ=ムボンゴの病院で小児科病棟の患者を見守るMSFの看護師
モベイ=ムボンゴの病院で小児科病棟の患者を見守るMSFの看護師

コンゴにいる中央アフリカ難民は、「目に見えない」存在です。2017年中旬以降、数万人が残虐な紛争から逃げて、ここ数ヵ月の間にウバンギ川の対岸にあるコンゴのグバドリット地区とモベイ=ムボンゴ地区に住み始めました。現在、難民の数は約4万2000人で、もっとも多かった数ヵ月前の6万7000人よりも減っています。

ジョージちゃんとサビーヌちゃんはコンゴで栄養治療を受けている。一家は中央アフリカの激しい紛争を逃れてきた
ジョージちゃんとサビーヌちゃんはコンゴで栄養治療を受けている。一家は中央アフリカの激しい紛争を逃れてきた

難民の足取りは追えません。中央アフリカはここからわずか数キロしか離れていないので、時々、残してきた畑と家財を見に、また食べ物や作物を手に入れるために戻っていくからです。常に移動していて、落ち着かない毎日を暮らしています。難民でいるときも帰還しても得られるものはなく、川の両側でそれぞれ違った相手から暴力と嫌がらせを受けています。

漁師のフィリップさんは軍によって村を立ち退かされ、川で漁ができなくなった
漁師のフィリップさんは軍によって村を立ち退かされ、川で漁ができなくなった

コンゴの地域住民と一緒に、あるいは近隣の集落で暮らしている人もいます。木の小屋を自分たちで作り、仮住まいにして、故郷の近くにとどまりつつ魚を獲ったり、畑を耕したりして暮らせます。ただ、基礎的な公共サービスを利用したくても難しい場合があります。

「誰も援助に来ない」と憤る難民のレイモンドさん。食べ物も教育も足りていない
「誰も援助に来ない」と憤る難民のレイモンドさん。食べ物も教育も足りていない

コンゴ北部にいる中央アフリカ難民は、コンゴ当局や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の人道援助が十分に行き届く難民キャンプには住んでいません。交通が非常に不便なへき地のため援助を届けるのが難しく、活動している援助団体も少ないうえに、世間に注目されないことでさらに人道援助が難しくなります。

農夫のジェイコブさんは8ヵ月前に中央アフリカからコンゴへ逃げた
農夫のジェイコブさんは8ヵ月前に中央アフリカからコンゴへ逃げた

難民は定期的に川を渡って中央アフリカに帰っています。その道中、あるいは帰国してから武装勢力の暴力に遭うことも多くあります。残ったコーヒーを収穫するために戻った男性は、数人の民兵からナタで切りつけられました。武装した兵士から、対岸での暮らしを選んだのだから収穫する権利はないと言われたそうです。

コンゴ人のコロさんはてんかん発作に襲われ、そばにあった火で大やけどを負った
コンゴ人のコロさんはてんかん発作に襲われ、そばにあった火で大やけどを負った

帰国したときに似たような目に遭っている人は他にもいます。また、コンゴで水場を利用するときや、収穫したキャッサバを難民と地域住民で分けるときにも、揉め事が起きています。きちんと人道援助が行われていたら、こうした日々のいざこざも、明らかに危険な場所へ戻っていくこともこれほど多くはないでしょう。しかし、MSFが活動を始めて半年の間、コンゴ北部で起きている人道危機は国際社会に気づかれることもなく、難民は当たり前のように川を渡るようになりました。

予防接種を待つ中央アフリカ難民の子ども
予防接種を待つ中央アフリカ難民の子ども

死者数や小児栄養失調の水準からいえば、緊急事態ではないかもしれません。しかしMSFのチームは、重い病気がまん延しているのを目にしています。多くの避難民が出るような人道危機ではよくある、マラリア、下痢、呼吸器感染です。もともと保健医療体制が十分に機能していないのに、公共サービスは明らかに限界を超え、地域住民も影響を受けています。弱い立場の人たちの姿は国際社会の目に映らず、知られることもないままに、必要な援助もできなくなってしまうのです。

モベイ=ムボンゴの病院で小児科病棟の患者を見守るMSFの看護師
モベイ=ムボンゴの病院で小児科病棟の患者を見守るMSFの看護師

MSFはコンゴ北部で2017年9月から2018年3月にかけ、グバドリットとモベイ=ムボンゴにある2ヵ所の病院と9ヵ所の診療所を支援したほか、難民と地域住民への移動診療を運営した。この間、診療3万8600件以上を実施。3970人の患者を入院治療し、5歳未満の子ども約2000人の栄養治療と2万人の子どもにはしかの予防接種をした。ロジスティック・チームは給排水と衛生環境の改善のため、掘り抜き井戸13本の建設とその他の水源を改修した。今回の援助活動はコンゴ保健省に引き継がれた。MSFは今後も、緊急事態にはいつでも援助を開始できるよう北ウバンギ州で疫学的調査と監視活動を続けていく。

MSFは2017年5月以降、グバドリットの東にあるンドゥ村でも活動し、中央アフリカの都市バンガッスーから来た1万2000人を超える難民に医療を提供している。バンガッスーでは2017年11月にスタッフが襲撃され、MSFは活動を中止したが、ンドゥでの中央アフリカ難民への援助は続けている。

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