敬意と決意—爆撃がやまない東グータ地区で、命を救い続ける医師たちへ

2018年03月30日掲載

攻撃が続くなか、シリアの現地医師たちは医療活動を続けている
攻撃が続くなか、シリアの現地医師たちは医療活動を続けている
(上)2013年7月撮影、(左下)2013年11月撮影、(右下)2016年12月撮影

戦闘機が空を舞い、絶えず爆撃の音が鳴り響くなかで、患者の命を守るため活動を続けている医療スタッフがいる。

シリアの首都ダマスカス近郊の東グータ地区では、2018年2月18日以降、政府軍と同盟国による攻撃が激化し、国境なき医師団(MSF)が支援する医療施設にも多くの死傷者が運び込まれている。医療物資が不足し、診療所や病院が攻撃を受けて機能しなくなるなか、スタッフの対応能力も限界だ。シリアでMSFのオペレーション・マネジャーを務めるロレナ・ビルバオは、MSFが立ち入れない地域で今も医療活動を続ける現地医師たちに、手紙を綴った。

東グータ地区の医師の皆さんへ

シリア政府と同盟国が軍事攻撃を強化させてから1ヵ月以上が経ちました。もう5年にもなる過酷な包囲戦に追い討ちをかけ、容赦ない爆撃が続きました。大勢の死傷者が病院に運ばれるなか、MSFは何週間も、皆さんの病院を援助しようと試みました。来る日も来る日も、皆さんがどれほど疲れ果て絶望しているか、聞いていました。

MSFはシリア政府とその同盟国、そして戦闘に関わる全ての当事者に対して何度も声明を出し、戦闘を止めるように呼びかけました。現場への距離は遠くても、皆さんと思いをひとつに、出来る限りのことをしようとしました。しかし少しずつ、限界に直面していったのです。援助が、最も切実に求められていた時なのに—。

MSFは、医療チームと患者の距離が近いことを誇りにしている団体です。しかしシリアでは、皆さんが毎日のように大勢の負傷者に向き合っているなか、メッセージアプリで不規則に会話し、わずかな物資を送ることしか出来ませんでした。人道援助のための輸送は、必須の医療物資を運ぶことを許可されず、東グータ地区の倉庫にあるMSFの医療機器は、患者のニーズに応えるにはほど遠い状態でした。

東グータ地区で破壊された救急車 東グータ地区で破壊された救急車(2016年12月撮影)

今この瞬間にも、MSFが東グータ地区で医療を支える力は無きに等しくなっています。MSFが支援していた20ヵ所の診療所と病院は、この1ヵ月の攻撃でたった1ヵ所に減り、そこへ医療物資を提供することもできなくなりました。19ヵ所の診療所と病院は閉鎖されたり、政府軍がその地域を奪還後に放棄されたり、繰り返し攻撃を受けて稼動不能に追い込まれました。医療ニーズは今も圧倒的です。戦闘の前線が動いても、患者が医療機関からいなくなることはありません。

MSFは、無力という現実を突きつけられました。一方で、現地の医師がどれほど多くのことを成し遂げ、それがどれほど重要であるか、改めて感じています。死傷者が増え続けるなか、どれほどの命が救われたか知っている人はほとんどいません。皆さんがその場にいなかったら、どうなっていたでしょう?東グータ地区の日々の死者数はどれだけ増えていたでしょうか?MSFの援助は減ってしまいましたが、皆さんの仕事を賞賛する気持ちは変わりません。皆さんの絶え間ない献身に、私たち一同、心から敬服しています。

仕事の合間のわずかな時間に帰宅できたとき、皆さんは病棟で横になっている患者と同じ恐怖に直面していました。2週間前にある医師から受け取ったメッセージが、今も心に残っています。深夜に戦闘機が頭上を飛びかう中、家族と逃げなければならなかったこと。通りを歩くにも苦労している人たち。泣き叫んでいる子ども。がれきの下敷きになっている人びと……。ようやく安全な場所に着いたと思ったとき、どれだけ安心したか。しかし、爆撃はまた始まりました。メッセージの最後の一行には、こうありました。

「子どもたち、妻、周りの人全員がいつ死んでもおかしくないのに、私には何もできない。この瞬間を、決して忘れられないだろう」

シリアの戦争はもう7年余りも続いています。その間、MSFは絶えず、医療・人道援助を必要としている地域へ入ろうとしてきました。その地域の支配者が誰であろうと、助けが必要である限り、入っていこうとしました。しかし、再三の努力もむなしく、政府が支配する地域の人びとを援助することはできませんでした。2011年5月以降、MSFはシリア政府に繰り返し政府支配地域への立ち入り許可を要請し、現在も要請し続けていますが、いまだに許可を得られずにいます。

東グータ地区のような、シリア政府の支配下にない地域で医療ニーズは高まり続けています。MSFは政府の公式な認可なしに医療活動を開始しました。適切な医療機器や薬剤を提供し、助言ができる理想的な形とは決して言えませんが、与えられた状況で最善を尽くそうと試みたのです。

医師の皆さん、どうか覚えておいてください。MSFは、シリア政府に繰り返し要請を拒絶され、困難に直面していても、皆さんの仕事を支えていくという決意に変わりはないということを。皆さんが東グータ地区に残っていようと他の地域にいようと、その仕事がいかに重大であるか、よくわかっています。MSFは医療・人道援助が最も必要とされている地域へ入れるよう、試み続けます。また、人の命を救う皆さんを、最善を尽くして援助していきます。その場に行くことがほぼ不可能な状況でも、技術的、精神的なサポートを続け、皆さんとすべてのシリアの人びとのためにもっと多くの援助ができるようになるまで、努力していきます。

残虐な現実に心が砕けそうになったときも、「人間らしさ」が生き続ける理由は、命を救う皆さんの存在なのです。

MSFは2013年以降、東グータ地区で医療を提供している。現地入りが不可能なため、MSFは医療物資の供給、病院や診療所で働いている職員の給与援助、公衆衛生面の指導、一度に多数の負傷者が運び込まれた場合の対応策、病院・薬局運営、専門外の症状や病理に直面した医師への医学的助言などを通じ、現場にいるシリア人医師を支援してきた。

MSFは、安全と公平について確約を得られていない「イスラム国(IS)」の支配地域と、活動認可が現在も得られていないシリア政府支配地域では活動できていない。政治的圧力からの独立性を守るため、シリアでの活動にはどの国の政府からの資金も投入されていない。

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