イラク:ISに故郷を奪われ、長引く避難生活。「ここにいても"幸せ"とは言えません」

2018年01月30日掲載

国内避難民のナワルさん。重い口を開き、胸のうちを語った
国内避難民のナワルさん。重い口を開き、胸のうちを語った

360万人——紛争で住まいを追われ、イラク国内で避難生活を送る人びとの推定人数だ。過激派組織「イスラム国(IS)」が勢力を増すにつれ、戦闘が多発。キャンプに身を寄せた人たちは、帰宅のめどが立たないまま人道援助で命をつないでいる。故郷を奪われ、肉親を亡くした人びとの喪失感は大きい。国境なき医師団(MSF)は、各地のキャンプ内で医療援助をするほか、国内避難民の心のケアにも取り組んでいる。

イラク北部のクルド人自治区、スレイマニヤにある避難キャンプ。ここで4年間暮らすナワルさんは、抑うつ状態から抜け出そうとMSFのカウンセリングを受けた。自宅がいかに美しかったか、顔を輝かせながら話すナワルさん。しかし、紛争の経験を思い出すにつれ、顔を曇らせる。

かけがえのない日常を一夜にして失った

私の名はナワル、54歳です。長男夫婦と孫3人とキャンプで生活しています。次男夫婦とその子ども5人も一緒です。三男もここにいます。

故郷の自宅付近でイラク軍とISの戦闘が起き、恐ろしい思いをしました。一晩中ISの銃撃が続いて一睡もできませんでした。

紛争で、私たちは全てを失いました。自宅も、何もかも。ISが来る前は楽園のような場所で、素晴らしい生活をしていました。病気をしたこともありませんでした。それから家を追われ、避難。あれからもう4年になります。

ISとの戦闘で破壊された病院 ISとの戦闘で破壊された病院
(2017年10月撮影)

キャンプに来てから、飢えたことはありません。さまざまな団体が支援してくれています。でも、ここにいると気が滅入るんです。全て失いました。以前は農園や車、家を持っていました。奴らは私たちの家に押し入り全てを奪って、家を壊しました。

あそこは天国のようにとても美しい場所だったのです。でも私たちは恐怖で逃げ出しました。家を捨てるのは屈辱的なことでした。船で逃げるとき、水に落ちて亡くなるお子さんもいました。難民キャンプにたどり着くまでの5日間、一度も食べ物を口にしませんでした。

キャンプでは温かく迎えられ、快適に過ごしています。でも、幸福とは決して言えません。自分たちで植えた木々や、大切に育てた蜂に囲まれて暮らしていませんから。

気分が落ち込んで悲しくなりました。親戚、特にいとこに会えないからです。いとこ3人が殺されました。そのうち1人は判事でした。彼はエルビルに住んでいたのですが、家族と暮らすため自宅に戻ろうとしたんです。ある武装勢力に捕まり、その後3人とも殺されました。だから気が滅入りました。悲しみに暮れました。

MSFはスレイマニヤの避難民キャンプで心のケアを実施(2016年撮影) MSFはスレイマニヤの避難民キャンプで
心のケアを実施(2016年5月撮影)

人づてにMSFのことを聞き、活動場所を教えてもらいました。診療所を訪ね、受診の予約をしました。週に何回か通って心理療法士に症状を説明しました。精神的に落ち込み、呼吸をするのも難しいと。心理療法士からは、ご近所さんを訪ねたり、外へ出かけたりするよう勧められました。呼吸障害は治りました。

心理療法士は症状をやわらげる方法も教えてくれました。悪夢にも苦しんでいたんです——。

  • プライバシー保護のため名前を変えています。

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