イラク:がれきとなったモスルの病院で、再建が希望の火をともす

2017年12月13日掲載

イラクの活動責任者
ニコラス・パパクリソストムー
イラクの活動責任者
ニコラス・パパクリソストムー

政府軍と過激派勢力「イスラム国」との戦闘で、イラク北部の町モスルは大きな被害を受けた。
住民が受診できる病院はごくわずかで、必要な医療を受けられずにいる。国境なき医師団(MSF)は2017年7~10月、東モスルのアル=ハンサ付属小児病院で救急救命や栄養治療などを支援し、11月、活動を地元保健局に引き継いだ。一方、西モスルでは現在も病院を運営している。「育児用ミルクは高額。母親は薄めて飲ませ、赤ちゃんは痩せていった……」。イラクの活動責任者を務めるニコラス・パパクリソストムーに活動状況を聞くと、大変な現状と、それでも希望がわく答えが返ってきた。

モスルの医療の状況はどうなっていますか?

破壊されたアル=ハンサ病院内部 破壊されたアル=ハンサ病院内部

モスルは今日に至るまで、つらく険しい道のりを歩んできました。市の東部は戦闘の被害が比較的軽く、暮らしも少しずつ平常に戻ってきています。でも、西部は壊滅してしまいました。モスルへ戻ってくる人は増えていますが、医療も公共サービスも不足しています。多くの病院が休業しており、一次医療を担う診療所も大半はスタッフと物資を十分に用意できていません。開業している病院では、入場料を払わないと患者は中に入ることさえできないのです。

2000イラク・ディナール(約188円)の入場料はたいした額ではないと思うかもしれませんが、紛争を逃れ、やっとモスルに帰ってきた人にとっては大金です。治療が必要な子どもがいても、費用は払えないでしょう。多くの人がタクシーや公共交通機関を使うお金もなく、遠くの医療施設まで歩いていかなければならないため、病院へ行って帰ってくるまで、一日では済みません。

モスルで患者が直面している問題は?

アル=ハンサ病院へ来る人は、主に下痢と呼吸器感染症にかかっています。避難民キャンプと西モスルから来る人の中には栄養失調も見られます。まともな食事が手に入らないのです。過激派組織「イスラム国」のもとでは育児用ミルクも高額だったので、母親たちは薄めて飲ませ、子どもたちが痩せていきました。

重度または急性の栄養失調の患者は、命に関わる合併症にかかることもあります。免疫が衰え、感染に対して身体が本来の反応を示さないのです。ちょっとした感染症が命取りになりかねません。

西モスルの住民は特に大変な思いをしています。現地で開いている病院は2つだけで、その1つはMSFが運営しています。西モスルに戻ってくる人の数は、この地区の対応能力を大幅に超えてしまっています。多くの人は東モスルのアル=ハンサ病院に行きたくても運賃を払えず、病院に来られない患者の経過観察も難しくなっています。重度急性栄養失調の患者の多くは、治療中は快方に向かいますが、退院すると通院はしません。そういう患者を久しぶりに診察すると、また重い栄養失調になっているのです。

アル=ハンサ病院でのこれまでの活動は?

活動を始めたころは本当にひどかったです。病院の中を見て衝撃を受けました。壊滅状態だったのです。何もかも汚れて、通路や病室には物品が焼け残っていました。

このプロジェクトの主な目的は、モスル市で最大級のアル=ハンサ病院で再び基礎的な医療サービスができるようにすることです。完全に壊れてしまった救急処置室を再建し、同じく破壊された集中治療室と小児病棟の一部も修復しました。また、栄養プログラムも立ち上げ、避難民キャンプや西モスルで十分な食べ物を得られず重度急性栄養失調になった子どもを治療できるよう、入院と外来の場所を確保しました。

救急処置室を再開したことで、病院スタッフのやる気に火が着き、清掃と修理がいっそう進みました。スタッフにも患者にも励みとなり、希望が生まれたのです。この病院のようなレベルの集中治療室があるのは、モスルではここだけです。ベッドが4床で小さい施設ですが、重篤な患者が唯一、生存の望みをかけられる場所です。これがなければ、症状が深刻な患者は助からないでしょう。

アル=ハンサ病院も当初は有料で、それでは受診したくでもできない人がいるだろうと考えられました。そこで、スタッフの給料を患者からのお金に頼らなくて済むよう、MSFが病院スタッフに支払い、患者が無料で受診できるようにしたのです。課題もあってすべてを無料にできたわけではありませんが、少なくとも一定の改善になりました。

この取り組みは継続することが絶対に重要です。モスルが戦後の復興期にあるいま、基礎的な医療サービスを立て直せるかが、人の命を左右するのです。

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