中央アフリカ共和国:首都制圧から2ヵ月、人びとが置かれている現状は?
2013年05月29日掲載
国境なき医師団(MSF)の中央アフリカ共和国での活動責任者であるセルジュ・サンルイが、9ヵ月の任務を終えて帰国した。サンルイは、反政府勢力連合体「セレカ」が複数の都市に侵攻した2012年下旬に現地に滞在していた。セレカはその後、2013年3月に首都バンギを制圧した。紛争後の状況、保健医療制度、MSFの活動などについて課題と展望を聞いた。
この国の平均寿命は48歳。世界で最も平均寿命が短い国のひとつだ。人びとが医療援助を必要としている今、医療施設の略奪や破壊は、困窮している住民から医療を受ける機会をさらに奪うこととなる。MSFが特に懸念しているのは、HIV/エイズや結核の治療の中断を余儀なくされた患者だ。
MSFは1996年から中央アフリカ共和国で活動。現在は国内7ヵ所の保健区域のうち、5ヵ所で7件のプログラムを運営している。また、7ヵ所の病院と38ヵ所の診療所を援助している。2012年には、60万件の診察を行い、26万人のマラリア患者を治療した。また、1600人以上に抗レトロウイルス薬治療を提供した。
状況はさらに複雑化、少年兵の採用も

内戦が最も激しかった時期には、対立、銃撃戦、暴行は日常茶飯事でした。現在は、緊張や暴動も沈静化していますが、細心の注意が必要な状況です。2大勢力を中心とするセレカ連合体は、結成からまだ日も浅く、内部で摩擦や衝突が起こる可能性もあります。現在、状況は平静を保っているように見えますが、まだ不安定であり、事態悪化の危険性をはらんでいます。セレカの2大勢力は、将来の権限分割協定に向けた交渉を始めるべきです。
中央アフリカ共和国の状況は、さらに複雑化しています。セレカは4~5ヵ月前に募兵活動を大々的に展開し、外国人、傭兵、そして残念なことに少年兵まで採用しました。2013年3月24日、約3000人の戦闘員がバンギに進攻。募兵活動は今も続いています。現在、国内の政治勢力は二分されています。政府軍(FACA)と、事実上の指導勢力「セレカ」です。
季節性マラリアの流行始まる

医療援助団体であるMSFの懸念は、セレカの進攻以前から、同国が弱い立場に置かれている人びとの医療ニーズに対応できていなかったことです。極めて不安定な環境での生活を余儀なくされている避難民が何千人もいます。医療、避難場所、食糧や水もないのです。
医療が危機的状況にある地域も多く、医薬品や物資は大幅に不足し、医療スタッフがいない医療施設もあります。MSFは患者の入院データから、同国の風土病である季節性マラリアの流行がすでに始まっていることを確認しています。雨季になれば感染者は急増するでしょう。
道路は冠水して通行不能となるため、治安も悪く医療スタッフもいない地域では、医薬品を配布すること自体が難しい状況です。食品店は略奪に遭い、農地は放置されています。今後を予想するのは時期尚早ですが、人びとの栄養状態の悪化を懸念しています。
治安悪化のリスク高まる
MSFは全国で活動を展開しています。どの勢力の支配地域であっても活動方針は同じです。例えば、南西部のカルノーの情勢は安定しています。セレカにとってなじみの薄い地域であり、支援者も少なく、ダイアモンド鉱山が閉鎖しているので経済的な関心もないのです。
しかし、この「空白地帯」でも、セレカは最低限の存在を維持する必要があると考えており、地元男性を数人動員しました。セレカの他にも(MSFが活動を行う上で)考慮する必要があるのは、失職した元大統領警備隊、密猟者、混乱につけこんでくる追いはぎ集団、隣国カメルーンからの武装集団などの存在です。
経済活動が復活すれば、国際NGOなどを対象とした盗難や略奪のリスクが高まるでしょう。紛争前から計画していたはしかの集団予防接種は、今なら実施可能ですが、範囲はカルノー内に限定されると思います。周辺地域の治安を考慮すると、郊外で活動するのは困難だからです。
一方、パウアで実施していた活動の一部は他の関係者に引き継ぐ予定です。計画を実行するために市町村や地域政府の協力を得ることできると思いますが、中央政府を巻き込むのは簡単ではありません。
新たな危機に備えた行動計画を策定
5月1日現在、バンギ地域病院で活動するMSFチームが治療した患者数は850人に達しました。そのほとんどは銃創患者でした。MSFは、3月末からバンギ地域病院の救急診療科と外科を援助してきましたが、数週間以内に撤退する予定です。今後は、新たな暴力やニーズの発生に迅速に対応できるように、組織としての行動計画を策定していきます。
緊急事態が続く同国でNGOは大きな役割を果たしています。医療の場では主導的な役割を担っているMSFも、その例外ではありません。リスクを見極めた上で、人びとのニーズに対応するためには何をすべきかを検討する必要があります。
医療を受ける機会の確保に向けて
内戦下の中央アフリカ共和国で、MSFは何度も武装勢力から攻撃を受けている。MSFの各医療チームは、略奪、盗難、脅迫などの被害に遭っている。MSFは紛争当事者に対し、患者が医療を受ける機会、医療スタッフの安全、そして医療インフラの保護を保障するよう求めている。
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