ナイジェリア: 子どもたちが"栄養危機"に直面——MSFの小児科医の報告

2016年12月14日掲載

栄養状態の簡易検査を受ける子ども腕輪が赤に近くなるほど栄養状態が悪いことを示す 栄養状態の簡易検査を受ける子ども
腕輪が赤に近くなるほど栄養状態が悪いことを示す

ナイジェリア北東部のボルノ州。政府軍と武装勢力「ボコ・ハラム」の紛争で、住民たちの大規模な避難が続いている。避難者の多くや水・食糧をはじめさまざまなものが不足しているなかで生活しており、特に子どもたちの栄養失調が深刻な問題となっている。

小児医療の専門家であるマルコ・オッラは、ボルノ州の州都マイドゥグリ市でMSFの栄養失調プロジェクトに携わった。現地の危機的な状況、この疾患が子どもに及ぼす医学的な影響、およびMSFの治療について報告する。

緊急援助活動にご協力ください

寄付をする

※ 支援対象から「ナイジェリア緊急援助」を選択してください。
電話 0120-999-199 でも受け付けています。(9:00~19:00/無休/通話料無料)
国境なき医師団への寄付は税制優遇措置(寄付金控除)の対象となります。

  • 寄付の支援対象を指定いただいた場合、該当の緊急援助活動に優先的にあてられます。ナイジェリア緊急援助に寄せられたご支援の総額が目標金額(約50万ユーロ)を超えた場合、超過分の資金は「緊急チーム募金」へ充当させていただきます。

記事を全文読む

小児科医の目から見たボルノ州の現状をお聞かせください。

男の子(7歳)は栄養不足で体重が14.5kgしかなくMSFのもとで治療を受けている 男の子(7歳)は栄養不足で体重が14.5kgしかなく
MSFのもとで治療を受けている

ボルノ州ではまず、患者数の多さが目につきます。その他にも、医学的に警戒すべきさまざまな兆候が危機の規模を示しています。

栄養失調対策プログラムでは、生後半年から5歳までの子どもを治療するのが典型的です。この年齢層の子どもは最も弱く、その生存は両親をはじめとする保護者にかかっています。

一方、5歳以上にも栄養失調の症例が多数見られる場合、状況が非常に悪く、深刻な栄養危機が広がっているといえるでしょう。そして、マイドゥグリの事例もこれに該当するものでした。

市内のマイムサリ地区でMSFが運営している入院施設では、マラリアや肺炎などの感染症にかかった5歳以上の子どもを受け入れています。そのため、彼らの間にも栄養失調がみられることは認識していました。

私自身も、急性栄養失調の症状が出ている7~10歳の子どもたちを診察しています。これはかなり異常な事態です。

先日、母親に連れられて来た7歳の女の子は重度栄養失調と下痢になっており、直ちにMSFの入院栄養治療センターに入院することとなりました。様子を見ていたのですが、にっこり笑うどころか、微笑もしないのです。

母親によると、マイドゥグリの東の村から父親とは離れ離れで逃げて来たそうです。落ち着き先は市郊外の急ごしらえの避難キャンプ「ムナ・ガレージ」。1ヵ月余り前から滞在しているものの、キビと米の配給量はごくわずかで、公立の保健医療施設の診療費も用意できないとのことでした。

この緊急事態にMSFはどのように対応していますか。

国内避難民を対象とした食糧の配給も行っている 国内避難民を対象とした食糧の配給も行っている

市内のボロリ地区とマイムサリ地区にあるMSF診療所では、15歳未満の患者全員に栄養失調のスクリーニング検査を行っています。重度か中程度かにかかわらず、急性栄養失調と診断した子どもはMSFの栄養治療センターで治療します。

通常、MSFのプログラムでは重度栄養失調児にしか対応していません。しかしながら、食糧不足で栄養危機が拡大していることから、受け入れ基準を緩和する必要性に迫られました。重度栄養失調へと悪化することを防ぐために、5歳未満で中程度の急性栄養失調になっている子どもの治療も始めました。

栄養失調の治療は子どもだけが対象ではありません。不十分な食糧しか得られないことの多い妊婦のケアもしています。出産の際に母親が命を落としたり、母体の栄養不足が原因で栄養失調への抵抗力の弱い赤ちゃんが生まれたりする恐れがあるからです。

MSFでは産前診療に訪れた妊婦に食糧を配給するとともに、産後診療に連れて来られた赤ちゃんの栄養失調スクリーニングを行っています。

子どもが十分に食べ物を得られないと、どんなことが起きるのでしょうか。

全身の組織が影響を受け、代謝が完全に変わってしまいます。子どもの栄養失調の病態は2つ、消耗症とクワシオルコルです。消耗症の子どもはやせ細り、骨と皮だけのように見えます。クワシオルコルの特徴は浮腫、いわゆるむくみです。

いずれの症状も、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの必須栄養素の不足が関わっています。免疫系への影響は特に著しく、栄養失調児が感染症にかかりやすい理由もここにあります。

栄養失調の子どもが亡くなる場合、大抵の死因は何らかの感染症です。身体が感染症に抵抗できなくなってしまっているのです。栄養失調と感染症の悪循環が起こり、栄養失調児は病気に陥りやすく、その病気で栄養失調がさらに深刻化します。致命的な合併症には肺炎、髄膜炎、マラリア、下痢、敗血症などが挙げられます。

栄養失調の子どもにはどのような治療を行うのでしょうか。

経鼻胃管でミルクを流し込む治療を受ける
生後11ヵ月の赤ちゃん
経鼻胃管でミルクを流し込む治療を受ける
生後11ヵ月の赤ちゃん

重度急性栄養失調で合併症にもなっている子どもは入院させ、栄養治療と医学的処置を提供します。食べ物は、代謝を整えるために治療用ミルクを使います。ただ、衰弱がひどい子どもは飲食物を受け付けなくなっています。その場合は、(鼻から胃に至る)経鼻胃管で摂取させます。

こうして容体を安定させたのち、ピーナッツが主原料でペースト状の「そのまま食べられる栄養治療食(RUTF)」を与えるのです。

この医学的処置には、肺炎、下痢、マラリアといった併存症(※1)の治療も含まれます。

合併症(※2)を伴わない重度急性栄養失調および中程度の栄養失調の子どもは、在宅で治療を進め、MSFの外来施設で経過観察をします。母親たちにはRUTFを配給しています。治療期間は通常4~6週です。

  • 治療対象の病気や治療の影響にかかわらず、患者がかかっていた疾患
  • 治療対象の病気や治療の影響によって引き起こされる疾患

この取り組みの中で印象に残っていることをお聞かせください。

つらいのは患者の体験談です。2歳の男の子を連れてきた母親のことが記憶に残っています。その親子は紛争からの避難者です。自宅を破壊され、父親は亡くなっていました。

4人の子どものうち1人を紛争中の暴動で亡くし、2人をはしかで亡くし、連れて来た息子が最後の1人でした。そしてその子も重度の栄養失調になっていたのです。

お母さんはそんな身の上を話し終えると泣き出しました。多くの人が実に過酷な出来事を経験し、傷ついています。彼らは懸命に生き抜こうしています。たくさんの子どもたちもです。男の子は幸い命を取り留めました。

他方で、回復に向かっている子どもの行動の変化を目にするのはいいものです。突然、反応を示し、笑えるようになります。7歳の女の子は、抗生物質などで感染症を治療すると、食欲を取り戻しました。

私は子どもたちの反応を確かめるときには、子どもたちに近づいて握手をしようとします。弱っている子どもたちはそれを拒否したり、嫌がったりするのですが、女の子は昨日、初めて握り返してくれました。

関連情報