南スーダン: 家庭訪問でマラリア重症化を防ぐ——避難キャンプでの取り組み

2015年09月29日掲載

MSFの診療所でマラリアの治療を受ける子ども MSFの診療所でマラリアの治療を受ける子ども

南スーダンでは、風土病となっているマラリアが子どもたちを脅かしている。特に紛争地や、紛争か避難してきた人びとの滞在地では子どもたちの栄養状態が悪いことが多く、マラリアに感染することは命の危険に直面することを意味する。そこで、国境なき医師団(MSF)は行政や諸機関・他団体と連携し、各地でマラリアの予防・治療に力を入れている。

地域保健担当者のポーリーノもそのメンバーだ。各家庭を回って生後6ヵ月から5歳の子どもにマラリア治療を行っている。治療薬をくだき、栄養治療食(RUTF)と混ぜて子どもに与えている。ポーリーノの1日を追った。

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MSF診療所脇に集合

午前7時30分、出発に備えるMSFスタッフ 午前7時30分、出発に備えるMSFスタッフ

午前7時30分。南スーダンのベンティウにある国連民間人保護キャンプの敷地内。ポーリーノを含めた210名の地域保健担当者が、MSFの診療所の隣に集合していた。そこへランドクルーザー4台が到着した。マラリア対策の準備が完了した。

このキャンプの人口は2015年5月以降で2倍以上になった。紛争の激化で数万人が自宅を追われたためだ。たどり着いた人は、紛争に巻き込まれるリスクが減ったものの、体調を崩したり病気に感染したりして、これまでにも数え切れないほど多くの命が失われた。マラリアは特に猛威をふるっており、MSFは1週間に最高4000人を治療したほどだ。連日、少なくとも3~4人がマラリアで命を落としている。その多くは子どもだ。

"碁盤の目"の区画を迷わず進む

アウトリーチ活動に出発する前にバックパックの中身を点検する アウトリーチ活動に出発する前に
バックパックの中身を点検する

ポーリーノはアウトリーチ活動(※)の担当者だ。70班のグループに別れ、同じ形をした黒いバックパックに荷物を詰めていく。内容は、抗マラリア薬とピーナッツバターベースの栄養治療食。1人1つずつバックパックをかつぎ、各区画の家庭訪問を始める。

  • 医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動。

このキャンプには高い建物が何もなく、奇妙なぐらい左右対称だ。真っ直ぐ伸びる運河の水はにごっていて、その汚水が区画を分けている。各区画には小さなビニールシートの屋根が規則正しく、隙間なく並んでいる。1つの小屋には5人から10人が住んでいる。ポーリーノの家庭訪問は今日で5日目。マラリアに感染しているとみられる子どもたちを手当てし、両親や看病をしている人と対応を相談する役割だ。

あたりには目印はなく、日差しをさえぎるものもない。それでも、土地勘があるポーリーノは格子状の道を迷わず進んでいく。彼もまた、キャンプの住民なのだ。紛争で自宅を追われてからもう数ヵ月になる。

母親と5人の子どもたち

ポーリーノが子どもたちの身長を測る ポーリーノが子どもたちの身長を測る

担当する区画に着くと、ポーリーノは角地の家へ向かった。広さは9m2ほど。子ども5人に囲まれながら、家の中で火のそばにかがみこんで料理をしている女性に、地元の言葉でていねいに呼びかける。

「こんにちは、MSFとユニセフから派遣されて来ました。マラリアが流行しているので各家庭を訪問しています」。5歳未満の子どもの様子を見て回り、マラリアに感染している子どもたちには直ちに治療を受けさせて、重症化を食い止めていることを説明する。女性はうなずいて聴いている。ほとんどの人は、この数週間のマラリア流行で感染した友達や家族が何人もいる。また、知り合いの中に亡くなった人が少なくとも1人はいるのだ。

ポーリーノは外へ出ようとする子どもたちを呼びとめ、身長測定用の棒で身長をはかり、年齢の見当をつける。また、子どもたちの額に手をやって熱がないか確かめる。母親には、ここ数日で病気になったまま治療を受けていない子どもがいないかどうかを尋ねる。

母親の周りにいた子どもたち5人のうち、2人がマラリアに感染している可能性があった。そこで、ポーリーノに同行していたユニセフ所属のガブリエルが、抗マラリア薬の錠剤をバッグから取り出し、くだいて少量の栄養治療食と混ぜ合わせる。

ポーリーノは、まだよちよち歩きの子どもに、同じように薬を飲ませた。子どもは栄養治療食が好きなので、薬を飲みやすくするために使っているのだ。もう1人の子どもにも薬を飲ませてから、母親に3日分の薬を渡し、飲ませ方について説明した。この活動を1日に何時間も続ける。各家庭で足を止めるのは10分ほどだ。

炎天下の中を運ばれてきた男の子

抗マラリア薬を混ぜた栄養治療食を飲む子どもたち 抗マラリア薬を混ぜた栄養治療食を飲む子どもたち

MSFの診療所脇の集合場所に戻ってきたころにはもう昼になっていた。強い日差しが降り注ぐ中、幼い男の子が母親におんぶされて運ばれてきた。男の子の名前はムト。40度ほどの高熱で体が非常に熱い。診療所内でMSFの看護師が採血し、迅速検査でマラリアとの確定診断が出た。看護師が痛み止めと1回目の抗マラリア薬を与え、日陰にビニールシートで作成された床に上寝かせた。そばで母親のニャパルさんが休んでいる。

ニャパルさんは「うちの子はみんなマラリアになっちゃって……」と肩を落とす。ムトくんが死んでしまうのでは……と怖くなって連れてきたそうだ。彼女は1年半ほど前にここに避難してきた。故郷の村からキャンプまで、武装勢力を避けて移動は夜だけだった。武装勢力が女性を強姦する事件が相次いでいたからだという。

キャンプに到着してからは、キャンプ外で薪を集めて売ることで生計を立てている。多少の足しにはなるが、生活は厳しい。夫と6人の子どもがいた家庭も、今では3人の子どもを抱えてシングルマザーとして奮闘している。幸いなことに、ムトくんにはすぐに回復の兆しが現われた。2時間ほどで熱も2度ほど下がった。うまくいけば、よくなるのもすぐだ。

MSF病院に搬送されるのは……

マラリアから回復したチゴアちゃんと母親のジャガイさん マラリアから回復したチゴアちゃんと母親のジャガイさん

一方、キャンプから2kmほど離れたところにあるMSFの病院では、はるかに具合の悪い子どもが大勢いた。この病院は複数のテントで構成されている。病床数はそれぞれ20床ほどあるが、いずれも満床だ。1台のベッドに2人の子どもが寝かされていることもある。

産科病棟には新生児の母親がつめかけ、集中治療室の前には不安でいっぱいの母親がつめかけている。集中治療病棟にいる子どもはたいてい重症マラリアで、命に関わる合併症を併発している。

チゴアちゃん(2歳)の母親のジャガイさんも例外ではなかった。チゴアちゃんに回復の兆しが現われて胸をなでおろしている。3日前に運ばれてきたときは、チゴアちゃんはけいれん、高熱、下痢、重度貧血が続いていた。MSFは直ちに抗マラリア薬の点滴や発作を止めるための薬を投与し、輸血も行った。

治療がうまくいってチゴアちゃんは回復した。しかし、その幸運に恵まれなかった子どもはあまりにも多い。病院施設の裏手にある遺体安置所には、おびただしい数の子どもサイズの遺体袋が安置されている。手遅れとなってしまった子どもたちだ。

医療施設の増設で対応拡充

MSFはマラリアによる犠牲を少しでも食い止めようと、対策を急ピッチで進めている。2ヵ月で小児救急診療所とマラリア治療ポイントを3軒ずつ開設した。その効果もあり、重症化してから運ばれてくる子どもは減りつつある。

午後の遅い時間、ポーリーノはこの日の最後の1軒の訪問を終えた。1時間で数十人も子どもたちにマラリアの治療薬を飲ませてきた彼の額から汗がしたたりおちる。ポーリーノはこの活動が、子どもたちのマラリアの重症化を防ぎ、命を救う手助けになっていると自負している。

「子どもたちの苦しみを見るたびに、がんばろうという気持ちがわいてきます」

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