リベリア:棺に降りかかる雨——エボラと闘いつづけた看護師

2014年09月12日掲載

夕暮れのエボラ治療センターエリックさんはここで看護師長を務めていた 夕暮れのエボラ治療センター
エリックさんはここで看護師長を務めていた

西アフリカでエボラ出血熱の緊急対応にあたっている国境なき医師団(MSF)や保健省のスタッフ計3名がエボラに感染し、2014年8月20日から24日にかけて相次いで亡くなるという悲しいニュースを、お伝えしました。

亡くなった3名のうち、1名はリベリア保健省の職員だったエリックさん(36歳)です。彼の献身的な活動を知る広報担当者に話を聞くことができました。エボラ流行に苦しむ住民たちのために、粘り強く献身的に看護を続けていた生前の姿が浮かび上がってきました。

記事を全文読む

「勇敢な兄でさえも……」

リベリア北部の山林の奥、約300人が暮らす小さな村、ヤッサドゥ。役場前のコンクリートの広場には、エリックさんの葬儀に参列するため、村民全員が集まっていた。

エリックさんの弟、ジョンソン=ボアさんが村民全員に語りかける。「エボラ出血熱が流行している。それが現実です。私の兄のように、命を奪われることもあるのです」。腕組みをした人びとが、一斉にうなずく。

「私の曽祖父は、スーダン人戦士としてリベリアにやってきた人でした。エリックは、その曽祖父同様、とても強い男でした。それでも、エボラに打ち勝つことは出来なかった……」

最期まで闘いつづけた、医療人として

エリックさんの葬儀の日、ジョンソン=ボアさんは、フォヤ地区にあるエボラ治療センターを訪れていた。入棺前に最後のお別れをしたかったからだ。

エリックさんは、リベリア保健省から療センターの看護師長に任命されていた。危険を顧みず、仕事に打ち込んでいた。同僚のワシントンさんは「彼はリベリアで最初にエボラ患者の管理に関する訓練を受けた看護師の1人で、非常に熱心で勤勉でした」と振り返る。

経験豊富な看護師だったエリックさんの死には、治療センターのスタッフ全員がショックを受けた。「簡単には埋められないほどの大きな損失です。彼は思いやりと愛情にあふれた人で、患者にも愛想が良く、笑わせたり励ましたりしていました」。ワシントンさんをはじめ、残された同僚たちは今も深い悲しみに包まれている。

全力の治療もむなしく、8月23日、エリックさんは息を引きとった。エボラ流行が始まってから、西アフリカでは100人以上の医療従事者が命を落としている。エリックさんも彼らと同じく、最期までこの病気と闘い続けた。

「エボラは現実の病気であると信じましょう」

エリックさんの遺体を運ぶMSFの車両が、フォヤ地区からヤッサドゥへと向かう道すがら、いくつもの村を通り過ぎた。人びとが足を止め、両手を振り上げて大声で泣き叫ぶ姿が見えた。

「みんな、わかっているのです」とジョンソン=ボアさん。車の後を追ってくるオートバイは次第に数が増えていく。クラクションを鳴り響かせる大部隊を引き連れて、背の高いチカラシバに囲まれたでこぼこ道を、エリックさんを乗せた車が進んで行く。ヤッサドゥに近づくほど悲しみは大きくなっていくようだった。

墓地に到着する頃には、悲しみは頂点に達していた。村全体が打ちひしがれていて、叫び声をあげる人、むせび泣く人、手を上げて走り回る人、地面にくずおれ、土ぼこりにまみれながら身もだえしている人……。

司祭の祈りが始まった。「主よ。私たちがこの恐ろしい病気を理解できるよう力をお貸しください。私たちがエリックにしてあげられることは、もうありません。彼は主の腕の中にあります。彼に安らぎをお与えください」

司祭は向き直り、村人たちを諭しました。「今、あなた方に出来るのは、自分の身を守ることです。エボラが現実の病気であると信じましょう」

遺族の切なる願い

エリックさんの死を乗り越えチームは今日もエボラ対応を続けている エリックさんの死を乗り越え
チームは今日もエボラ対応を続けている

埋葬に移る前、MSFの健康教育担当であるバーネスが、人びとにエボラについての説明をした。感染経路、予防法、症状が出た人への対応など。

すると、ジョンソン=ボアさんが「皆さん、どうかMSFの方の話に耳を傾けてください」と切々と訴え始めました。「エリックはエボラ治療センターで感染したのではないのです。どこで、どうして感染したのかを調べ、これ以上この地域で命を落とす人が出ないようにしなければなりません。エボラに関するデマが多すぎます。エボラは空気感染しません。塩水や油では予防できません。このような間違った情報を、どうか信じないでください」

心に響く訴えは続いた。「MSFはリベリアで、エボラ対策に尽力してくださっています。感謝の言葉もありません。流行が始まった当初からMSFの援助を受けていたら……」

MSFの衛生担当者がエリックさんの棺を車から運び出す。女性たちが歌い始めまた。別のスタッフは、棺を埋めるスタッフの長靴や手袋に絶えず塩素溶液をスプレーしている。感染リスクを抑えるために、バーネスが安全な埋葬の手順を一つ一つ説明しながら、埋葬が執り行われた。

村の男性たちは、黄色いビニール製の防護服、手袋、フェイスマスクなどで身を包んだMSFスタッフを、数メートル離れたところから眺めていた。中には臭いをかぐまいと、手で口を覆っている人もいた。

掘られたばかりの穴に棺がゆっくりと降ろされると、雨が降ってきた。ジョンソン=ボアさんは、シャベルをつかむと、雨で湿った土を無言でかけていった。

エリックさんを含む3名は、エボラ出血熱と闘う医療従事者でした。彼らの勇気と献身は、決して忘れられることはありません。故人のご冥福をお祈りし、ご遺族、ご友人の皆さまに心よりお悔やみ申し上げます。

関連情報