パレスチナ:爆撃にさらされるガザ、昼夜の暴力におびえる西岸地区

2014年08月06日掲載

パレスチナのガザ地区とヨルダン川西岸地区で活動している国境なき医師団(MSF)は、イスラエル軍やユダヤ人入植者によって繰り返される暴力の被害を日常的に目撃している。政治的にどのような事情があるにせよ、確実に言えるのは、多くのひとが心身ともに傷ついていること、そして、子どもの被害が深刻だということだ。

ガザ地区からは、MSFの医療チームリーダーであるミシェル・ベックが現状を報告する。また、ヨルダン川西岸地区から、MSFの心理療法士であるメラニー・ケルロックが、子どもたちへの影響について報告する。

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「負傷者の来院が後を絶ちません」——ガザ地区

シファ病院で連携して治療を行う保健省職員とMSFスタッフ シファ病院で連携して治療を行う
保健省職員とMSFスタッフ

ガザ市内のシファ病院では負傷者の来院が後を絶ちません。数人が1度に運ばれてくる状況で、その人数は爆撃の規模によってまちまちです。負傷者の大部分が多発外傷、熱傷、破片創を負っています。MSFはパレスチナ保健省所属のチームとともに治療にあたっています。見たところ、患者の約30%が女性、約30%が子どもです。ただ、正確な人数の算出や定期的な記録は容易ではありません。優先すべきことは診療だからです。

8月4日の晩、救急処置室に運ばれてきた4歳と6歳の姉妹は、2人とも重体でした。ジャバリヤ難民キャンプが爆撃された際、その近くにいたのです。両脚と顔に複数のけが、骨折、頭部・胸部には打撲がありました。胸郭の形成が未発達な年齢だったため、強い爆風による肺の損傷も深刻でした。その日は一晩中、手術室で処置をし、翌5日には術後ケアを行いました。負傷がひどく、命を取り留められるかどうか、今なお微妙なところです。

確実に言えることは、患者が多すぎるということです。私たちは最も緊急の患者に対応し、最もけがの重い人の命を救おうと努めています。息をつく暇もありません。シファ病院で活動しているMSFの外国人スタッフは、外科医、麻酔科医、看護師の計7人。救急部門、手術室、熱傷ユニットで、保健省の職員とともに活動しています。

保健省職員は非常に優秀で、戦傷外科や、多数負傷者への対応についても経験が豊富です。MSFの医療スタッフが容体を安定させた急患を、保健省職員の外科医が手術することもあれば、職員が容体を安定させた負傷者をMSFの外科医が手術することもあります。いずれにしても、必要な業務を最善のやり方で分担しています。

「心が暴力にむしばまれてしまいます」——ヨルダン川西岸地区

ユダヤ人少年拉致事件のあと、何度も家宅侵入を受け息子2人が逮捕されたと話すMSFの患者 ユダヤ人少年拉致事件のあと、何度も家宅侵入を受け
息子2人が逮捕されたと話すMSFの患者

ユダヤ人入植者の少年3人の拉致に端を発し、イスラエル軍が捜索活動を行ったパレスチナ・ヨルダン川西岸地区。一部のパレスチナ人世帯は深刻な暴力にさらされ続けている。

「怖いんです。今晩は来ないでほしい。怖がらせたいだけなのはわかってるけど……。お父さんが逮捕されるのは嫌です」

ヨルダン川西岸地区に住むパレスチナ人の幼い少女はメラニー・ケルロックにそう語った。ケルロックはMSFの心理療法士としてナブルスで活動している。西岸地区の一部は占領され、イスラエル軍の本格的な訓練場として使われている。これも、住民を見舞った数ある暴力や理不尽の一例に過ぎない。

ケルロックは「暴力が常に人びとの身近にあります。容赦のない陰惨な暴力です。"ダモクレスの剣"(※)のようなもので、しかも、時々、実際に打ち下ろされるのです」と話す。すべてのパレスチナ人が一様に同程度の被害を受けているわけではないが、暴力は常態化している。

  • 一触即発の事態が常に身に迫っていることのたとえ。ギリシアの説話にちなむ。

夜間は最も無防備になる。就寝し、自衛も手薄になるためだ。家族の憩いの場であり、安全であるはずの住宅に、兵士が突然、真夜中に踏み込んで来れば、"心理的な侵害"の体験になりかねない。「ユダヤ人入植者から受ける暴力が、夜間ともなれば、罠にかけられたようなものです。住民の恐怖はいっそう大きくなります。暴力は"家の中"という私的な空間にさえ及ぶのです」

子どものリスクは特に大きい。ケルロックは「度重なる暴力が成長期の心に及ぼす影響を大変懸念しています」と警鐘を鳴らす。子どもたちの親も途方に暮れている。子どもの心理面の自己防衛に必要な"防御壁"の構築を助けてやれず、無力感にさいなまれている。

強制的に破壊された自宅前でうつむく女性 強制的に破壊された自宅前でうつむく女性

ある親は「14歳の息子が抵抗もできないまま、強引に逮捕されました。その様子は痛ましく、屈辱的でした」と告白する。親は子どもを守る役割を奪われている。国連児童基金(ユニセフ)によると、西岸地区のパレスチナ人は12歳以上であれば、逮捕・収監される恐れがあるという。

拉致されたユダヤ人入植者の少年3人は、遺体となって発見された。イスラエル軍は西岸地区全域で大規模な捜索活動を展開し、900人以上を逮捕したと報じられている。あるパレスチナ人の少年(14歳)の自宅には強制捜査が入った。その1週間後、彼は逮捕・収監され、一晩中、殴打された。

ケルロックの心理ケアを受けている患者は、ユダヤ人入植者や兵士が学校へ踏み込み、子どもたちを"敵"とみなして接しているところを目撃したと証言した。ケルロックは「加害行為を受けた子どもは強い恐怖を感じ、動揺します。感情の制御が未発達のため、圧倒されてしまうのです。そんな状況で発育が望めるでしょうか。心が暴力にむしばまれてしまいます」と懸念する。

MSFの患者は、侮辱、暴言、脅迫などを受けた体験を証言し、法のあり方についても疑問を示している。あるパレスチナ人一家は、息子が罪を犯したとして逮捕され、収監された。その後、イスラエル軍による家宅侵入に何度も遭った。その際に「息子の犯した罪は家族の連帯責任だ」と言われたという。

法に基づいた判決に、"連帯責任"の処罰がついてくる。罪を犯した本人ではない家族、特に幼い子どもたちを激しく動揺させる行為だ。ケルロックは「法は事件を解決し、報復の連鎖を断ち切るための手段です。しかし、ここでは"目には目を、歯に歯を"が法になってしまっています」

このような環境で、パレスチナ人の若年世代が未来を見据えることなどまず望めない。ケルロックはこう結論付けている。

「教育に力を注ごうとしても、若い世代は先が見えないままに暮らしています。これからどうなるのかという問いを考えるだけで混乱し、ひどく不安をかき立てられているのです」

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