ナイジェリア:テメ病院外傷センター —整形外科医・堀越さんの活動手記—

2009年12月07日掲載

Thank you, Jesus. I shall not die!(神様、感謝します。私は死なない!)

テメ病院外傷センターでの整形外科プログラムに参加。「“ベッド数100床を超える二次~三次救急病院で、整形外科の一人医長を務めるが如し”、勤務でした」。 テメ病院外傷センターでの整形外科プログラムに参加。
「“ベッド数100床を超える二次~三次救急病院で、
整形外科の一人医長を務めるが如し”、勤務でした」。

確か20歳くらいの痛がりで泣き虫な女性の患者だった。
ナイジェリアのポートハーコート市にある、テメ病院の感染病棟で手術を待っている彼女の脚は骨髄炎が治らない。折れた骨に細菌が感染し、腐りかけた骨が露わになっている。手術は骨を外から再び固定し、露出した骨を血行の良い筋肉組織で覆うものだ。連日の緊急手術のため、彼女の手術は何度も延期された。3度目には彼女の涙が見えた。

ようやく手術が終わり、私が手術記録を殴り書き、チャド人の麻酔医ギャドが手際よく全身麻酔の覚醒作業に入った頃、“Thank you, Jesus!”という低く野太い声が手術室いっぱいに響き渡った。さてはエクソシスト登場か、と戦慄とともに皆で彼女の方を振り返ると、“Thank you, Jesus. I shall not die!”と、いつもは高い、いやむしろ黄色い声のはずの彼女の口から魂の叫びが溢れ出ている。

驚きから安堵へ、そして陽気な若い女性にまで深く根付いた信仰に対する畏敬へと変わるのに時は要しなかった。叫びは手術室から回復室へと場所を変え、1時間以上にわたって続いた。翌日このことを彼女に教えると、恥ずかしそうに笑い、いつもの無邪気な20歳に戻っている。何も記憶がないのだ。

私は洗礼を受けたことも仏門を叩いたこともない。信徒の視点からは無宗教と呼ぶのが近い。ただ、礼拝堂の聖母像や路傍のお地蔵様を見れば、自然に頭を垂れ、無言で話しかける。宣教師と植民地との関係を世界史上に眺めれば、見たくないものまで見えるだろう。しかし、信じるものにとって神は永遠に無謬(むびゅう)なのである。

その後、“Thank you, Jesus.”は病院の流行語となった。私のニックネームにもされそうな勢いだったが、神の御名を涜す(けがす)愚挙から辛うじて逃れたのは言うまでもない。

施設でただ1人の整形外科医、仲間にも支えられ:堀越泰三

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