MSF、国連加盟各国に保健ニーズに即した研究開発推進を呼び掛け

2016年09月14日掲載

第71回国連総会がニューヨークで開幕した。今回の総会では、薬剤耐性の問題など国際保健がハイレベル会合のアジェンダに上っている。この機会をとらえ国境なき医師団(MSF)は、各国政府に対し、許容価格の新薬・ワクチン・診断検査の研究開発推進への注力を呼び掛ける。また5月に発行した報告書をもとに、抗菌薬など必須新薬の研究開発の問題点を指摘するとともに、極度に高い薬価の問題に速やかに取り組むよう求めている。

国連総会は危機的な保健問題について話し合う好機

MSFの報告書『Lives on the Edge(英文)』は、現行の医療研究開発体制の問題点を分析し、人びとの医療ニーズにいっそう適した研究開発の方法を提唱する。国連加盟国に対しては、最新医療技術の革新と医薬品アクセスについての提言をまとめた国連事務総長ハイレベル・パネル(UNHLP)の報告書を念頭に、危機的問題となっている薬剤耐性感染症や抗菌薬耐性への集団的な施策について、協調を図るべきだと訴えている。

MSF必須医薬品キャンペーンの医薬品アクセス・イノベーション政策顧問ケイティ・アザーサッチは、「貧困国でも富裕国でも、必要な薬が存在しないか、高価すぎて手が届かないという問題があり、各国政府による解決が必要とされています。今年の国連総会は、喫緊の保健ニーズに応えるため、許容価格の新薬開発の実現策を各国が支持する機会とすべきです。不備のある旧態依然とした方針を示すだけでは済まされません」と述べる。

保健ニーズの"優先"が必要

製薬企業は利益の見込めない疾病研究への投資に非常に消極的で、各国政府も税金を使った研究においては優先課題の保健ニーズに取り組んでこなかった。例えば、エボラ出血熱や薬剤耐性感染症の診断ツール、ワクチン、治療薬の欠如は、差し迫った医療問題の解決よりも自社と株主の利益を優先する製薬業界の姿勢を表わしている。C型肝炎の新薬は複数の地域で1錠1000米ドル(約10万2000円)に設定されているが、この救命薬に課された法外な価格は、国連加盟193ヵ国の多くで厳しい批判の目にさらされている。

南アフリカで結核治療に携わるMSFのジェニファー・ヒューズ医師はこう嘆く。「製薬企業は最貧国の人びとのニーズに無関心すぎます。過去50年間に開発された結核治療薬は2種だけですが、結核は世界の感染症の中でも特に死者が多く、年間150万人の命を奪っています。薬剤耐性結核患者には、聴覚障害や自殺願望といった副作用がなく、治癒率も50%という現状を超える薬が必要です。今のような新薬開発のやり方では、製薬企業が結核治療の改善に前向きになることはありません。十分な利益が見込めないからです」

各国政府は、より効果が高い医療ツールを許容価格で提供するために、新しい研究開発の取り組みを導入する必要があるが、それは独占に基づく市場保護を介して医療研究と高価格を結びつける連鎖を断つものでなければならない。一例として挙げられる「3Pプロジェクト」はMSFなど結核に関わる複数団体間の活動で、データと知的財産の共有および、助成金と懸賞金の革新的な組み合わせを用いた研究費の捻出により、新しい治療法開発のための共同研究推進を目指している。

アザーサッチは、「従来の新薬研究開発の方法は、最貧国にとっても、昨今では最富裕国にとっても、明らかに機能しなくなってきています。医療研究開発のルールを全面的に改正し、新しい何かを試みるべき時です。保健医療技術の革新と利用可能性の向上のための努力を国連事務総長が率先し、薬剤耐性感染症の国際的危機についてハイレベル会合も開かれる中、今年の国連総会は、各国政府が医療研究開発の新たな地図を描く決定機となるでしょう」と期待する。

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