RCEP貿易交渉で許容価格の薬剤に新たな脅威

2016年04月21日掲載

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)貿易協定の現行の条項案により、世界の何百万人もが許容価格での薬剤入手を著しく制限されかねない状況にある。オーストラリアのパースで4月24日から始まる新たな関連交渉に先駆け、国境なき医師団(MSF)は同協定の有害な影響の可能性について警鐘を鳴らしている。

厳格な知財関連策が多くの人びとの命のリスクに

漏えいした交渉文書の知財関連部分によると、日本と韓国は、ジェネリック薬(後発医薬品)の入手可能性の縮小を求める国際貿易法よりも厳格な条項を提案している。

MSF必須医薬品キャンペーンの南アジア地域責任者を務めるリーナ・メンガニーは「RCEP交渉における提案は、薬剤の調達について従来の国際貿易法の求めよりもはるかに厳格な知的財産関連策を導入しようというものです。これが採用されれば、締結が見込まれるインドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオスなど多くの国の人びとが、そして、インド産の薬が頼みの綱である世界中の何百万人もが、同協定によって許容価格のジェネリック薬の入手を阻まれる恐れがあります」と訴える。

また、MSF必須医薬品キャンペーンの東アジア地域責任者であるブライアン・デイヴィスは「議題にあがっている知財関連条項の多くは、薬の入手にとって史上最悪の貿易協定と考えられる環太平洋パートナーシップ(TPP)協定のそれを反映しています。インドと東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要国を中心にTPP不参加の国々も、RCEP交渉でTPPと類似した基準の採択を迫られるでしょう」と指摘する。

『途上国の薬局』に高まる圧力

許容価格の薬の入手を阻害しかねない条項案は、インドがRCEP交渉参加国であることを考えれば、いっそう懸念される。インドは、その大規模なジェネリック薬生産から『途上国の薬局』として広く知られ、感染症および非感染症の治療に必要な許容価格の救命薬を途上国で供給。MSFがHIV/エイズ、結核、マラリアの治療のために調達する薬も3分の2をインド産のジェネリック薬が占める。

インドは有害な条項に毅然と立ち向ってきた。日・インド包括的経済連携協定、現在も交渉中の欧州・インド自由貿易協定のいずれにおいても、特許期間の延長やデータ独占などが提案されながら却下されている。パースでは、過去の貿易協定の交渉担当者が辛くも守り抜いてきた薬剤入手の保護策の一部撤廃を求める圧力の高まりにさらされるだろう。

特に有害な条項案の1つである「データ独占」は特許権のように作用し、特許期間そのものが満了済みの薬や、そもそも特許に値しない薬についてさえ、より購入しやすいジェネリック版の市場参入を阻みかねない。そのほかにも特許期間の延長や、薬剤入手のセーフガードを伴わない知財権執行概念の導入など、薬の入手の妨げになり得る条項が議題にあがっている。

ジェネリック薬は頼みの綱

MSF必須医薬品キャンペーンの医療コーディネーター、グレッグ・エルダー医師は、「この協定の条項案により人びとが必要なジェネリック薬の入手を阻まれれば、HIV/エイズなど多くの病気の治療が遅延または停止し、健康に深刻な影響が生じかねません。MSFがHIV感染者23万人の治療に用いる薬の97%がインド産のジェネリック薬です。MSFも実のところ、ジェネリック薬なしにはこれほど多くの人に対応できないでしょう。インドとASEANの交渉担当者に、いかなる貿易協定を締結しようとその条項がジェネリック薬の供給を妨げる結果にならないよう求めます。MSFも世界の途上国の多くの人も、ジェネリック薬が頼みの綱なのです」と述べている。

関連情報