シリア北部:過去最悪の新型コロナ感染拡大──ひっ迫する医療体制

2021年10月14日掲載

ラッカ国立病院に入院した60代のアブ・バクルさん。感染後、村の薬剤師を受診し一時悪化したが、その後適切な治療を受けて快復した=2021年6月 © Florent Vergnesラッカ国立病院に入院した60代のアブ・バクルさん。感染後、村の薬剤師を受診し一時悪化したが、その後適切な治療を受けて快復した=2021年6月 © Florent Vergnes

 シリア北部が過去最悪の新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われている。酸素供給は追いつかなくなり、医療施設では検査キットが不足。北西部では医療体制が既に対応不能となり、北東部の感染拡大のペースも警戒水準に達している。国境なき医師団(MSF)は、医療体制の機能を保つため、医療従事者への支援と保護、検査キットや酸素の提供、病床の追加、ワクチン接種の範囲拡大が緊急で必要だと訴える。

1日の感染者数は2倍以上に

シリア北西部では、新型コロナ感染者数が、8月末時点の3万9000件から、9月にはほぼ倍にあたる7万3000件近くに増加した。MSFの現地活動責任者を務めるフランシスコ・オテロ・イ・ビラールは、「これまでのピークでは1日あたり600件を上回りませんでしたが、今は1500件と倍以上に増えています。人口400万人に対して、かつて33カ所あった新型コロナ治療センターのうち、現在稼働しているのは16カ所しかありません。もともと医療過疎地域だったことに加えて、供給面の問題で感染者や感染予備軍のスクリーニング検査を充分に行えないため、感染拡大の実態を把握し、適切な対応をとれずにいます。ウイルスのまん延を防ぎたくても北西部の医療事情は悪く、ワクチンの接種率も全人口の3%に留まっているため、うまくいっていません。人びとが接種をためらっているのと、大規模な接種が遅れているからです」と話す。

「MSFが運営・支援する施設を見れば、今回の流行の深刻さは明らかです。すぐにでも酸素の吸入や集中治療が必要なのに、患者はベッドや人工呼吸器の順番待ちを強いられています。こうした実態を背景に、以前の感染拡大の波よりも死亡率が高まっているのです。北西部の町アフリンにあるセンターの場合、入院患者の44%は16歳から40歳です。つまり、これまで新型ウイルスによる重症化率が低く、比較的安全だと思われていた人びともかなり影響を受けているのです」

MSFは、増え続けるニーズに基づき、活動規模の拡大に努めている。8月には、イドリブ県にある新型コロナ隔離センター2カ所を再開。現在はその受け入れ態勢を拡充している。また、アフリンとバブ市にある2カ所の地域治療センターへの支援を継続させ、アフリンの呼吸器疾患の治療センターの支援も続けている。全感染者のうち13%余りが暮らす避難民キャンプでは、移動診療による検査を実施、避難民向けの予防キットを配布した。
 

北東部でも感染拡大 酸素の供給不足が深刻に

北東部のラッカ国立病院の新型コロナ病棟で治療を受ける患者=2021年6月 © Florent Vergnes北東部のラッカ国立病院の新型コロナ病棟で治療を受ける患者=2021年6月 © Florent Vergnes

シリア北東部でもここ数週間、感染者の増加スピードが警戒域に達している。9月最終週には、1日平均の感染者数が342人に達し、1日あたりの感染者数で過去最多を記録した。10月の第1週には新規感染者数は微減していたものの、この地域でPCR検査を行える唯一の検査所が資材不足のため、このまま減少傾向が続かなければ、今後数週間で全ての検査が中止に追い込まれる事態が予想される。酸素の供給不足も深刻で、ハサカ県の治療センターでは、カーミシュリー市、ラッカ市、タブカ市から酸素ボンベを取り寄せて対応せざるを得なくなっている。

MSFの緊急対応医療コーディネーターを務めるハンナ・マジャネンは、「この新たな流行の波に対応するため、MSFは現地の団体と組んで、ハサカとラッカの治療センターで感染疑いのある人や感染者の治療に当たっています。ただ、MSFでも酸素の供給体制が限界に達しているので、感染者数が再び増加に転じるか、このまま高止まりすれば、患者全てには対応しきれなくなるのではないかと懸念しています」と危機感を募らせる。

世界的な大流行以前から、シリア北部の医療体制は十分ではなく、人道援助が対応を担ってきた。現在、医療施設や援助団体は、今回の感染拡大の波に対応できないでいる。これまで以上に、医療施設への支援を拡大することで、医療崩壊を防ぐことが求められている。
 

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