新型コロナウイルス対策を人命救助停止の理由にしてはならない——MSF、欧州各国へ訴え

2020年04月20日掲載

キリスト教のイースター(復活祭)の週末、リビアから欧州を目指し危険な海を渡ろうとした難民・移民を乗せた船が地中海上で適切な救助を受けられず、複数の死者と行方不明者がでた。国境なき医師団 (MSF) は4月17日、欧州各国政府が新型コロナウイルス感染拡大を理由に移民政策を強化し、地中海での人命救助を怠っていると指摘するとともに、非政府組織(NGO)による救助活動を阻んでいる障壁を取り払わなければならないと訴えた。 

地中海上で救助活動を行うMSFとSOSのスタッフ。荒天により救助活動は難航したが98人が無事救助された=2020年2月撮影 © ANTHONY JEAN/SOS MEDITERRANEE地中海上で救助活動を行うMSFとSOSのスタッフ。荒天により救助活動は難航したが98人が無事救助された=2020年2月撮影 © ANTHONY JEAN/SOS MEDITERRANEE

遭難船を認識しつつも救助せず

イタリアとマルタ両政府は、復活祭の4月12日を挟んだ週末、新型コロナウイルス対策を理由に、自国の捜索・救助領域において複数の遭難船に対応せず、NGOの船2隻によって救出された200人にあまりに対し安全な下船港の提供を拒否した(※)。一方、欧州連合の航空当局は、状況を上空から監視していたにもかかわらず、救助活動には乗りださなかった。17日の時点で、少なくとも5人の死亡が確認され、7人が行方不明となっている。また約85人を乗せた別の船が4月12日に行方不明となった。欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)が同船はシチリア島に到着したと報告したが、転覆した恐れがあるともみられている。

MSFオペレーション・マネージャーのアンヌマリー・ルーフは、「MSFは新型コロナウイルスの世界的流行に対応するNGOのひとつとして、 現在の深刻な課題を理解しています。しかし、地上の人びとの健康を守ることと、海上での人命救助の義務を果たすことは、両立されなければなりません」と訴える。

「ドイツによるNGOの活動の停止要請、イタリアとマルタによる港の閉鎖は、差別的で不適当と言えます。良く言っても、情報不足でお決まりの対応、悪く言えば、公衆衛生上の懸念を計算高く利用した人命救助の禁止措置、必死に助けを求める人びとへの扉を閉ざす行為です。MSFは、各国が感染症への対応を理由に国際法と人道原則の違反を正当化している間に、最も弱い立場にある人びとが欧州の国境で命を落とすことを懸念しています」

国際移住機関(IOM)によると、リビアには少なくとも65万人の難民・移民が足止めされており、15万人のリビア人がさらに住まいを追われた。紛争下にある同国では、難民・移民の再定住、移動、本国帰還のメカニズムは機能しておらず、非人道的な状況から逃れる手段は粗末なボートによる脱出しかない。4月10日以降だけでも、700人以上が命がけの旅に出た。 

MSFとSOSメディテラネの提携終了

捜索・救助海域に向けて航行中のオーシャン・バイキング号で救命のトレーニングを行うMSFとSOSのスタッフ=2020年2月撮影 © ANTHONY JEAN/SOS MEDITERRANEE捜索・救助海域に向けて航行中のオーシャン・バイキング号で救命のトレーニングを行うMSFとSOSのスタッフ=2020年2月撮影 © ANTHONY JEAN/SOS MEDITERRANEE

人命救助の必要性は明らかであるにもかかわらず、欧州各国は責任を放棄し、NGOを妨害してきた。その結果、敵対心や不確実性が生まれ、政府の代わりに人命救助の穴埋めをしてきた援助団体の間にも分裂をもたらした。MSFとそのパートナーである市民団体SOS メディテラネは、現段階での活動に同意できず、提携の解消を発表した。救助船、医療チーム、救助チームの準備ができているにもかかわらず、地中海での人道援助活動に対する障壁は現在のパンデミックによって悪化してしまった。

ルーフは提携の解消について、「MSFとSOSは、人命救助の重要性についてはもちろん意見は一致していました。しかしSOSは救助した人びとが安全に下船できる港を各国が航行前に保証することが不可欠だとの意見を持ち、一方MSFはそのような保証の有無に関わらず、人道的な救助活動が急務だと主張します。人びとがリビアから逃れ、溺死している現実を横目に、完全装備の船をただ港に停泊させておくことはできないのです。我々のミッションに対する既存の障壁を悪化させようとする政府の試みこそが真のジレンマであることを認識しながらも、MSFはSOSとのパートナーシップを終了させるという非常に困難な決断を下しました」 と述べた。

MSFは2016年以来、SOSメディテラネと協力して、アクエリアス号とオーシャン・バイキング号という2隻の捜索救助船により3万人以上を救助してきた。
 

欧州各国はさらなる人命損失を食い止める行動を

欧州各国は、NGOの捜索・救助能力を低下させ、残された少数の団体に極端な制約を課してきたが、最終的には、自らの責任を負わなければならない。今こそ、EUの捜索・救助体制を復活させ、人びとをリビアに強制送還するための資金援助とリビア沿岸警備隊への支援をやめることによって、さらなる人命の損失と苦痛を止めることが必要だ。

MSFは引き続きリビアで活動し、取り残された難民・移民に対し、拘留施設やコミュニティ内で医療・人道援助を行っている。また、新型コロナウイルスへの対応も、欧州、中東、アフリカ、アジア、南北アメリカで継続して行う。その中には、十分な水や衛生設備がなく、医療を受ける機会が限られている収容所やキャンプで過密状態にある難民・移民など、医療システムが脆弱で非常に弱い立場におかれた人びとが多く含まれる。
 

※ イースターの週末には、1隻の船がシチリア島のポルトパロに自力で到着し、約47人が乗った別の船がマルタ領海で遭難信号を複数回発信した。同船はマルタ軍から40時間以上にわたり救援を受けられなかったが、人命救助のために航路を変更したサルヴァメント・マリティモ・ヒューマニタリオの船アイタ・マリ号によって救助された。さらに、約55人が乗っていた別のボートは、マルタの捜索救助領域で足止めされたまま、最終的にマルタ領海で商船に拾われたが、5人が死亡し、7人が行方不明となった。生存者たちは最終的にリビアの船によってトリポリに帰還したが、港の地域の治安が悪化し続けたため、数時間下船できなかった。 

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