MSF、地中海での海難捜索・救助活動を再開 「EU諸国は人命救助の義務を果たすべき」

2019年07月22日掲載

MSFと市民団体「SOSメディテラネ」が共同運航する「オーシャン・バイキング」号MSFと市民団体「SOSメディテラネ」が共同運航する「オーシャン・バイキング」号

国境なき医師団(MSF)は、地中海における海難捜索・救助活動を再開する。市民団体「SOSメディテラネ」と「オーシャン・バイキング」号を共同運航し、7月末に地中海中部の海域に入る。これまで地中海での海難救助活動は、2年にわたるEU加盟国政府の介入により事実上の停止に追いこまれていた。海で大勢の犠牲者を出し、紛争下リビアで住民を苦境にさらしたままにしている欧州各国政府の無策を、MSFは強く非難する。 

救助船はなく、最も危険な海に

「海で数百人が亡くなっており、リビアで数千人の難民・移民が身柄を拘束され苦しんでいる」。MSFの海難捜索・救助活動とリビアの活動責任者を務めるサム・ターナーは話す。「政治家が、いわゆる『欧州の移民危機』は終わったと言って、リビアと地中海で今も続く人道危機を見て見ぬふりをするとは、非常に冷酷だ。こうした死と苦しみは防げるはずであり、これが続く限り、MSFは黙って見過ごすわけにはいかない」

地中海中部では人道援助活動を行う大型船がほぼ姿を消し、その横断は非常に危険な移民ルートとなっている。2019年はこれまでに女性と子どもを含む少なくとも426人が渡航中に死亡した。約2週間前には82人が亡くなる海難事故が起きたばかりだ。

商業船舶も、海難者を助ける義務と、海で何週間も足止めされる危険の板ばさみになっている。イタリアの港は海難者を乗せた船を受け入れず、EU加盟国はどう上陸させるかについて合意に達していないからだ。 

閉じ込められたままの人びと

リビアの首都トリポリ周辺ではここ3ヵ月余り戦闘が激しくなり、10万人が避難している。難民と移民は収容センターで身柄を拘束されたままだ。収容センターは繰り返し攻撃され、約60人が亡くなる事件も起き、収容者は命の危険にさらされている。人道主義に基づいた国外退避は難しく、難民・移民にとっては死の危険もある航海だけが、唯一の避難経路となっている。

だが、欧州各国政府は、人道の原則に合意しながら、それに伴う法律上の義務に違反し、リビア沿岸警備隊に対する支援を増やして、避難した人びとを無理やりリビアに連れ戻させている。収容センターでは、収容者が銃で撃たれたり、センターそのものが空爆の標的になったりしている。7月3日(現地時間)には、タジュラ収容センターが空爆された。

ターナー責任者は話す。「MSFが地中海で活動するのは、命を救うため。人命救助は絶対に必要なことだ。弱い立場に置かれた人びとが苦しむ限り、私たちが沈黙することはない。欧州諸国の首脳陣は、リビアで弱い立場に置かれた難民・移民が殺害されたことを非難するのなら、公的な海難捜索・救助活動、安全な港への上陸許可をし、全収容センターの閉鎖と収容者の即時退避をさせるべきだ。海上拿捕(だほ)を支援して、残虐行為が起きている場所へ人びとを強制送還するようでは、非難は偽善で、欧州諸国はうわべの同情を示しているに過ぎない」

人びとがリビアから地中海へと避難し続けるにもかかわらず、EU加盟国政府が海難捜索・救助活動の義務を履行しないならば、人道援助船は必要だ。MSFは人道主義の原則に基づいて活動しており、溺れ死にそうな人を放置し、海難者を安全な場所へ連れて行かないことは、この原則に背く。その安全な場所で、国際社会の助けを必要とする人は、関係当局に難民申請ができるべきだ。 

「オーシャン・バイキング」号はノルウェー国籍の船で、海上油田業務の緊急対応と救助用大型船(ERRV)として設計された海洋補給船。事故や大勢の死傷者が出た場合の捜索救助用装備を完備しており、4隻の高速救助ボート、診療とトリアージ※、回復のための船内クリニックを備えている。救助者200人が乗船可能。MSFチームは医師1人、看護師2人、助産師1人、ロジスティシャン(物資調達、施設・機材・車両管理など幅広い業務を担当)1人、文化的仲介者1人、人道問題渉外担当1人、広報1人とチームの統括役を務めるプロジェクト・コーディネーター1人の9人が乗船する。市民団体「SOSメディテラネ」チームは12人で編成されている。

※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること 

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