ボリビア:「シャーガス病に気をつけろ」
2013年03月26日掲載
大勢の人が感染し、命を落とした人も少なくない。けれども、その原因を誰も知らなかった——シャーガス病の対策は、こうした状況からスタートしました。南米を中心として、世界中で症例が報告されているこの病気に、国境なき医師団(MSF)はどのように取り組んでいるのでしょうか?ボリビアでの事例をもとに、患者や医師の声を交えてご紹介します。
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© Juan Renau
大勢が声もなく亡くなっていたのに、以前は誰も、その原因を知らなかった。“シャーガス病”と呼ばれる寄生虫感染症。ようやく、少しずつ知られるようになった。
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シャーガス病は、南米21ヵ国で流行している。感染件数は推計800万~1000万件に上る。年間死亡者数は12万5000人。南北アメリカ大陸の主要な死因の1つだ。
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原因は、「クルーズ・トリパノソーマ」という原虫。サシガメの一種にかまれることで感染する。直後の急性期は無症状か、発熱、皮膚の赤み、不快感が出ることもある。
その後、無症状のまま数年から数十年を経て、症状が出る。患者の約30%に心臓病、10%に消化器の合併症が起こるとの推計もある。
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国境なき医師団(MSF)は、シャーガス病の有病率が世界で最も高いボリビア共和国コチャバンバ県で活動中。県内のナルシソ・カンペロ地方の有病率は現在40~45%。住民の治療とともに、既存の医療施設への診断・治療の導入も進めている。
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患者は主に周辺から孤立した地域に住んでいる。最低限のインフラも未整備であることが多い。検査用の血液サンプルを低温輸送システム(コールドチェーン)で都市部の検査施設に送り、検査結果を再び現地に返送して患者に伝えなければならない。手間が増え、治療の機会を逸することにもつながる。
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「アイキレのカルメン・ロペス病院で検査を受け、シャーガス病と診断されました。ただ、治療のための通院は不可能に近く、半年後、こちらに医師が来るまで、治療せずに過ごすほかありませんでした」(患者女性)
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「MSFと患者が待ち合わせる場所は、住居や木の下、学校などです。以前よりは近隣なのですが、そこにたどり着くのにも、徒歩で1~2時間を要する点が依然として問題です」(MSFのビルマ・チャンビ医師)
MSFは、啓発活動、ベクターコントロール(媒介生物の制御)、そして診断・治療と、ありとあらゆる側面から、包括的にシャーガス病に取り組んでいる。
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「家屋に住みついてしまったサシガメは駆除しなければなりません。ベクターコントロールにはスプレー剤が重要です。患者は治療期間中もサシガメの近くで生活しています。再感染は望むところではありません」(サミ・サルゲイロ<MSFベクターコントロール・チーム>)
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「以前は殺虫剤もありませんでした。近所が駆除処理を受けているのも、10年ぶりかそれ以上でしょう。MSFが来て、住居の調査を始めたのが2ヵ月ほど前のことです」(エレナ<右>とアンドレス)
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「毎週火曜に通院して治療を受けています。1週間分の薬も受け取ります」(患者男性の話)。シャーガス病の治療薬はベンズニダゾールとニフルチモックスの2種類のみ。開発されたのは40年以上前で、副作用も重い。しかし、適切な経過観察によって、副作用にも対処できることをMSFが証明している。
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「アイキレに来たとき、皆に言われました。『シャーガス病に気をつけろ』と。ですから、治療を受ける大切さは知っています。治療前はひどい状態でしたが、今は体調が良くなっています。MSFのおかげで、私だけでなく治療を受けた人はほとんど回復しています」(患者女性の話)
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「ナルシソ・カンペロ地方では、包括的な対策に力を入れています。私は、住民への情報・教育・コミュニケーション活動(IEC)が要だと考えています。それは、シャーガス病の影響、感染の経緯、予防の仕方を説明するものだからです」(エンリ・ロドリゲス<MSFのボリビアでの活動責任者>)
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消化器官の手術やペースメーカーで末期患者の生活の質を向上させるため、MSFはNGO「プエンテ・デ・ソリダリダ」と連携している。一方、患者への偏見も強い。「胸が痛み、手がしびれるようになりました。夜になると体中が刺されたように痛みます。ペースメーカーを使っているので、『あんたは役立たずだ。働くこともできない』と言われたこともあります。そういうことを言う彼らも怖いのでしょう」(患者女性の話)
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「重要なのは、地域社会が予防へ参画することや、薬の副作用への対処を周知することです。対応は一般開業医でも可能です。これがMSFのボリビアでの最大の成果だと考えています。治療の簡便化、効果の向上と短期化、遠隔地での実践、安全性の向上と課題は山積みです。最優先は、医療の環境の不備で治療を受けていない患者が多い現状の打開です」(エンリ・ロドリゲス<MSFのボリビアでの活動責任者>)
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ナルシソ・カンペロ地方での活動開始以来、MSFは合計1万414人に検査を行い、シャーガス病陽性と診断された4466人を治療。これまでに1804人が治療を完了している。
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