南スーダン:イダ難民キャンプに移転問題が浮上
2013年05月31日掲載
複雑な政治的計略の渦の中で取り残されるスーダン人難民。その悲惨な状況がさらに悪化する恐れがある。国境なき医師団(MSF)は、2011年下旬から、南スーダン・ユニティー州にあるイダ難民キャンプで活動を展開している。キャンプの面積は約12㎢に拡大し、収容人数も1年余りで5倍の7万5000人に膨れあがっている。
MSFは、2011年秋からイダで活動を続けており、診療所1ヵ所(1ヵ月の診療件数は平均1万件)、60床の病院1ヵ所、栄養治療ユニットを運営すると同時にキャンプ内を巡回する移動診療も行っている。さらに、水の供給とトイレの設置にも取り組んでいる。2012年5月から2013年5月までで、MSFは約3000人の重度栄養失調児を治療した。
キャンプが攻撃対象となる恐れ

スーダン政府と反政府勢力であるスーダン人民解放運動北部勢力(SPLM-N)が、スーダンの南コルドファン州で内戦に突入したのは2011年6月。その後、スーダン人が続々と南スーダンに避難し、現在も難民キャンプに滞在している。
キャンプの人口は難民の健康状態を脅かすほどに増加している。それに伴い、安全確保の問題も浮上している。イダは反政府勢力の支配地域に隣接しているため、SPLM-Nの後方基地であると疑われ、攻撃対象となる可能性もある。そこで、イダの撤去もしくは規模縮小と、反政府勢力から離れた場所への難民移転が行われることとなった。
4月上旬、南スーダン政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、新たに到着する難民をイダから70km以上東に位置するアジュオン・トックへと移動させている。移動を拒否すれば援助を受けられなくなる。例外が認められるのは、重病患者などに限られる。
配給カードがもらえない!

ウィリアム・バビカーさんが、妻、娘6人と息子3人を連れて、イダを目指して南コルドファンを後にしたのは3月下旬。途中で食糧が尽きてしまった。3日間歩き続けた後、イダに到着し、食糧をもらうために難民登録を申請した。バビカーさんは「そこでアジュオンへ行くようにと言われました」と話す。
しかし、アジュオンには知り合いが1人もいない。バビカーさんは「植物の葉や友人たちからの援助で約1ヵ月、飢えをしのぎました。子ども3人が重度の栄養失調になってようやく、食糧配給カードを受け取ることができました」と話す。
民族間の対立も状況を複雑にしている。スーダンのヌバ山地に暮らすトラウィ族の族長、マディ・ムーサ・サンドゥックさんは「アジュオン・トックへ行けば、敵であるスーダン兵に近づくことになります。そのような場所で、部族の仲間から離れて暮らすのは怖いのです。南コルドファンへ戻ってきて『イダへは行くな』と言っている人びともいます」と話す。
新たに到着する難民数が減少しているのは事実だ。一方、収容人数2万人を想定して設営されたアジュオン・トック難民キャンプに移転した難民は、数百人に留まっている。雨季になれば、2ヵ所の難民キャンプを繋ぐ道路は何ヵ月間も通行不可能になる。
MSFの活動統括責任者であるダンカン・マクリーンは「イダ難民キャンプは理想的な場所にあるとは到底言えません。イダを出ないようにと指示を受けている難民もいるようですし、配給食糧の一部は南コルドファンへ流れているようです。だからと言って、新たに到着した難民を援助しないという方法をとることは、彼らの健康状態を悪化させるだけです。難民の3分の2が女性と子どもであることを忘れてはなりません」と訴える。
迫る雨季、援助活動のジレンマ
イダには現在、2013年4月1日以後に到着したため配給カードをもらっていない難民が1500人以上いる。多くはUNHCRに登録されておらず、特定するのも困難だ。MSFのプログラム責任者であるコリヌ・トルは「食糧配給を受けている人に分けてもらって食べるしかないので、栄養失調のリスクが高まります」と懸念する。
しかし、現地での最優先事項は、すでにイダで生活している人びとのために雨季に向けた準備をすることだという。「給水ポイントも不足していますし、トイレ、蚊帳、衛生用品、防水シートも必要です。心配なのは感染症の集団発生です。2012年には、マラリアと呼吸器疾患の約75%が6月から10月の間に発生しました」と話す。
SPLM-N対スーダン軍の紛争に大きな進展がない限り、イダ難民の移転問題は、雨季の半年間は棚上げとなる可能性がある。マクリーンは「南コルドファンでは今も戦闘が続いていますが、政府はそこでの人道援助活動を許可していません。人びとは避難場所を必要としていますが、この2年間、イダ以外に選択肢はなかったのです」と指摘する。
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