夜の闇、雨、感染症...でもほかに行き場はない。ロヒンギャ難民が安全に暮らせる場所はどこに?

2018年04月03日掲載

難民キャンプのMSF診療所では日々、
MSFスタッフが人びとの苦境を目にしている

言葉にならないほどの酷い暴力から逃れ、ロヒンギャ難民ミャンマーのラカイン州から国境を越え続けている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2018年2月だけで合計3236人がバングラデシュに新たに入国し、2018年に入ってから3月半ばまでに新たに到着した難民は5000人に達した。バングラデシュに来たロヒンギャ難民は今、新たな危険と闘っている。難民キャンプの生活環境は不安定で、周囲が水浸しになる雨期も近づいている。日が暮れれば、キャンプの中に安全な場所はない。

難民キャンプの暮らしが健康を奪う

シャメマールさんは言う
「自分の身に何が起きてもおかしくない」

難民キャンプで暮らす人の健康状態は非常に悪く、はしかやジフテリアなど命に関わる感染症がすでに流行している。4月に始まる雨期を前に、急性水様性下痢、腸チフス、肝炎、マラリア、デングなど、水を媒介する病気の危険が迫っている。

雨期には土砂崩れや洪水の危険も高い。キャンプを作るために徹底的な森林伐採を行っており、またキャンプの地形もリスクを高めている。トイレや井戸は急ごしらえで、改修したり使用を止めたりしなければ、洪水が飲み水を汚染してしまう可能性がある。モンスーンの豪雨と強風で広い地域が冠水し、ビニールシートと竹などで出来た仮設住居は破壊されて、さらに数万人が住まいを失う事態も予想される。そうなれば、ロヒンギャの人びとが新たに避難する場所は、今どこにもない。

女性も男性も、夜間に身の危険を感じると話している。住居はもろく、キャンプ内は人で溢れ、照明がほとんどなく日没後には真っ暗闇だ。女性が一家の長になっている世帯、独身女性、保護者のいない子どもは特に危険だ。人身売買の話も聞いている。18歳のシャメマールさんは、「特に夜は、すごく怖いです。トイレも、シャワーを浴びるときも、1人では外を歩きません。家の扉に鍵をかけられないので、父も眠れません。自分の身にいつなにが起きてもおかしくない感じです」と話す。

性暴力被害者に安全な避難場所を

MSFの女性チームが
地域社会に性暴力と援助の情報を伝える

2017年にMSFの施設で性暴力被害の治療と心理ケアを受けた女性と少女の多くが、ミャンマーで虐待を受けていた。しかしここ最近は、パートナーからの暴力で負傷して治療を受けに来る女性が増加している。その中には、身体の広範囲を怪我して入院治療が必要な人もいる。主な症例は打撲、裂傷、やけど、骨折、首を絞められた傷などである。MSFは被害を受けた女性に心理ケアのカウンセリングも提供している。今後も人道的に、継続して援助できるようにするためには、女性たちの安全な避難場所を確保することが急務だ。

性暴力被害に遭った女性と少女が治療を受けるには、大きな壁がある。偏見や恥の感情、仕返しを恐れ、どんなケアが得られるのか情報が不足しているからだ。MSFのコミュニティー・アウトリーチ活動※チームのズリアさんは、「私が話した女性の大半は、性暴力には治療が必要だということを理解していません」と言う。

2018年3月半ばまでに、性暴力を生き延びた230人の被害者がMSFの診療所で治療を受けた。治療を受けに来ない人も多いため、実際の被害者数はこれよりかなり多いとみられる。多くの人は被害後に時間が経ってから診療所にやってくるため、HIV/エイズ感染を予防するための事後予防処置や緊急避妊が間に合わない。自分で妊娠を終わらせようとした女性もいて、出血か敗血性で診療所にやって来る。不衛生な場所で介助を受けずに分娩したため、合併症で来院する人もいる。

レイプの結果妊娠した女性は、産前・産後に地域の生活に戻れなくなることがある。現在のキャンプでは限られた対応しかとれないものの、MSFは、こうした少女や女性に何ができるか模索中だ。バングラデシュ国内で性暴力被害に遭った女性たちが安全に暮らせる方法は少なく、ましてロヒンギャの女性にとっては、さらにできることが少ない。

  • ※医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動。

酷い暴力が心を蝕む

バングラデシュのキャンプで暮らす
ロヒンギャ難民のスビ・カトゥムさん

多くの難民は恐ろしい体験をして心に傷を負っている。そこに、ストレスの多いキャンプの生活が追い討ちをかける。食べ物は十分になく、生計手段もないうえに、身の安全さえままならない。MSFの診療所に来る患者は、暴力をフラッシュバックで追体験したり、心に傷が残っていたり、不安、興奮、急性ストレスを抱え、繰り返し悪夢を見たり不眠になったりしている。さらに重症の場合は、家族の世話や自分の身の回りのことさえできなくなってしまった人もいる。

ロヒンギャのスビ・カトゥムさん(70歳)は、「ミャンマーでは本当につらい状況でした。移動も難しくなり、働くどころか市場に食べ物を買いに行くことさえ不可能でした」と話す。キャンプに到着する人びとが語るのは、村が焼き討ちにあったり親戚を殺害されたり、今も続く暴力や嫌がらせ、広い範囲で村が破壊されたり生計手段を奪われたりした痛ましい話。「夫は殺され、娘の夫も行方不明になりました。大勢が殺されたり行方不明になったりしました。こういうのが、いつか終るよう願っています。でも、未来に何が待ち受けているのかは分りません」

診療所では、カウンセラーが患者個人と、またはグループ単位で体験を話す機会を設け、感情に折り合いをつけてストレスを軽くしていく手助けをしている。ロヒンギャ難民は、身の安全も未来も確信できるものはなく、いつこの状況がよくなるか、いつ故郷に帰れるかも分らないのだ。

MSFは1985年よりバングラデシュで活動し、1992年からは継続して活動を続けている。コックスバザール県では2009年より、ロヒンギャ難民と現地住民を対象に、基礎医療や救急医療の総合診療、入院治療などに取り組んできた。2017年8月以降の難民の一斉避難に対しては、医療をはじめ給排水・衛生活動を大幅に拡充。バングラデシュ国内の他の地域では、首都ダッカのカムランギルチャル・スラムで活動している。

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