野原に開く診療所、へき地の村で暮らす人びとに医療を

2018年03月20日掲載

目的地の村までピボール川を上るMSFチーム

午前8時。保管テントの前で、国境なき医師団(MSF)のスタッフが机、いす、フロアマット、廃液容器、薬、その他の物資を注意深く車両の後部に積み込んでいる。チームを率いるプロジェクト・コーディネーターは、ほこりまみれの無線送受信機に向かってぶつぶつ言いながら、コーヒーをごくごく飲み下していく。救命胴衣を肩に羽織ったまま、准医師、看護師、地域保健担当者らが1日の工程を話し合う。南スーダン東部の町、アコボにあるMSFの宿舎は、慌しい朝を迎えた。

太陽がアコボの木々の間から完全に顔を出すころには、宿舎は静まり、MSFの移動診療チームはピボール川をさかのぼっていた。目的地は、MSF以外に医療の担い手がいない遠くの村だ。

最低限の治療も受けられない人びと

MSFの診察を待つ患者

南スーダンでは、2013年12月から続く紛争で何百万人もが住まいを追われ、今もなお、その数は増え続けている。アコボには、近隣の紛争地域から逃れた人がほぼ毎日のようにやって来る。MSFの患者も徒歩で数日かけ、それも戦闘が一時的に収まる夜間を選んで移動してきた経験を語っている。

避難民の大半は女性と子どもだ。親類や知人のもとに落ち着く人もいるが、そうでなければ、近くの小学校に身を寄せるしかない。手に入る食糧と水はわずかだ。混乱の中、夫や父親、兄弟が命を奪われる姿を目にし、心に傷を負っている人も多い。

川沿いの村で診療を受ける子ども

長引く紛争と、それに伴う避難のせいで、現地では医療・人道援助のニーズが膨れあがっている。そんな中、MSFは最新のプロジェクトを立ち上げた。避難民と地域住民の両方のニーズに応じ、最も必要とされる場所で基礎医療を行うため、ボートと車を使った移動診療を展開している。「アコボと付近の村落は、信頼できる良質な医療をほぼ完全に断たれてしまっています。地域の医療施設は廃虚になっているか、他の目的に転用されているため、ただでさえ無力な人びとが最低限の治療を受けられる場所すらないのです」。南スーダンのMSF活動責任者を務めるラファエル・ヴァイヒトはそう話す。

移動診療で1日50~60人をケア

木陰に設置された移動診療所

早朝に出発した医療チームがキール村に到着した。ここまでボートで1時間。いつも通り機材を運び出し、適当な場所に生えている木々の日陰に据える。間もなく、そこは待合スペースと簡易テントの個別診療室を備えた基礎診療所に変身した。患者がやって来て静かにマットに腰をおろし、バイタルの測定を待っている。看護助手が准医師の処方した薬を用意する。ほんの2時間半ほどで、30人近くが診療を受けた。

「普段は1日に50から60人くらいを診ます。今日はマラリア検査陽性の人が6人、下痢の乳幼児が5人、それから真菌感染症が1人いました」と、准医師のトゥト・クアン・レルは言う。

MSFの医療チームは現在、旧アコボ郡と旧ウラン郡で計7ヵ所を回る移動診療を行っており、月平均2000人余りを治療。キールでは、より高度なケアができる、持続的な基礎医療施設の建築にも着手した。ただ当面は、移動診療を続ける。

午後2時半、最後の患者の診療が終わった。トゥト・クアン・レルは一息つき、遅れてやって来る人がいないか、辺りの野原にもう一度目をやる。誰もいない。「そろそろ撤収して、アコボに戻ろう」

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