C型肝炎は新しい薬で治るのに。治療と検査が進まないのはなぜ?

2018年02月20日掲載

ミットゥ・サムランの支援センターで
MSFのケアを受ける訪問者

往来の激しい大通りから、その狭い脇道に入ると突然、喧騒が止む。ここは、カンボジアの首都プノンペン。鮮やかなウォールアートが訪問者を迎えるのは「ミットゥ・サムラン」という慈善団体の支援センターだ。クメール語で「友人」を意味するミットゥ・サムランは、1994年にストリートチルドレンを支援するために設立された。国境なき医師団(MSF)は2017年8月、この施設で薬物常習者へ無償のC型肝炎の診療を始めた。

路上の生活は厳しい。ミットゥ・サムランは成人の若者にも手を差し伸べており、若者たちはこのセンターにやって来て食べ物を得たり休んだり、医療ケアや、薬物依存症のための援助を受けたりする。カンボジアは麻薬使用のデータこそ少ないが、ミャンマー、ラオス、タイをまたがる世界最大級の麻薬生産拠点「黄金の三角地帯」への経由地であり、その影響はセンターに来る若者たちに日常的に見られる。C型肝炎は血液に媒介され、注射針で容易に感染するのだ。症状は深刻で、一生涯の病気になることが多い。

路上生活者の休息場所で検査と治療

チェンダさん(仮名)は路上生活をしながら
治療を受けている

チェンダさん(仮名)はこのセンターで最初にC型肝炎の検査を受けた1人だ。結果は陽性。20年前、家族とけんかしたのを機に地方からプノンペンに出てきた彼は、「道端で寝ています。住宅の玄関先で」と話す。

センターは週末を除き毎日開いており、チェンダさんも毎日訪れる。「ここなら疲れも取れますし、薬も軽食ももらえます」。訪問者にとって、ここは安全で頼りになる場所だ。「治療が受けられると聞いて、急いで受けました。そうしないと命がないことはわかっていたので……。薬は高価ですが、ここでは無償でした」

新薬で治るのに、治療費がまかなえず

MSFは2016年からプノンペンの病院で、無償でC型肝炎の検査と治療をしている。治療には、直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)という新しい薬が使われている。DAAsはC型肝炎治療を一変させた。この薬が出る前は、患者は長期間、効果が弱い上に痛みや副作用がある治療に耐えていた。DAAsは、患者は簡単な投薬計画に沿った治療を3ヵ月にわたって受ければよい。MSFのプロジェクトでは95%以上の患者が回復している。

しかしその治療費は、「高い」という言葉では足りないくらいだ。カンボジアでは3ヵ月の治療期間に1000ドル(約10万6000円)余りのお金がかかる。大抵のカンボジア人にとって巨額であり、薬物依存と闘っている患者には当然、手が出せない。MSFが2016年に診療を開始したとき、国中から人びとが病院に押し寄せた。多くは何年も前にC型肝炎と診断されたが、治療費を出せずにいた。当然、新しいDAAsをまかなえるはずもない。

MSFの病院に来た1万人余りの人のうち、3分の1は陽性だった。 多くの患者は、カンボジアの保健医療体制が内戦の余波で揺らいでいた1980年代に感染したと見られている。注射針の不足に直面した医療従事者が、針を再利用せざるを得なかったのではないかと考えられている。

価格以外にも困難が

薬物常用者がC型肝炎の治療を完了するには
さまざまな困難がある

そして今日、麻薬常習者の若者がC型肝炎に感染し、この病気を広めてしまっている。こうした若者を見つけ出すことは難しい。性労働に従事するチェスダさん(仮名)は、「忙しくなければ支援センターに来ます。でも忙しいときは来られません。毎日働いています」と語る。検査の結果ははっきり出なかった。必要な血液が十分に採れなかったのだ。薬物を繰り返し静脈注射した人は、静脈が傷だらけで、採血する場所が探しづらくなる。

経過観察の検査を促すのも難しい。その日暮らしであったり、ホームレスであったり、摘発を逃れるなかで戻って来られない人もいる。ある患者は治療期間中に2回逮捕され、処方されていた薬を没収された。MSFが支援センターで検査した115人のうち半数以上が陽性だったにもかかわらず、現在治療を受けているのはわずか10人しかいない。

治療を始めても、例えば地方に住む家族を経済的に援助している人は、生活や仕事の状況によって毎日センターに来るのが困難となる。ある女性患者は「お医者さんから、毎週必ず来るように言われますが、朝5時から午後5時まで働いているので…」と語る。

一部の患者は麻薬の依存から脱け出すための治療を受けているので、すでにそうした治療を始めた人に肝炎の治療も勧めることで、患者と連絡を取り続けることが容易になる。治療を完了できる可能性を高めるため、ミットゥ・サムランとMSFは患者の状況にあわせた治療を試みている。

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