イエメン: 報告書『包囲地域での医療』を発表——MSFの目撃証言をもとに作成

2017年02月08日掲載

MSFが支援している病院の救命救急室 MSFが支援している病院の救命救急室

国境なき医師団(MSF)は、イエメンのタイズ市で紛争が地域医療に及ぼしている影響についてまとめた報告書『イエメン:包囲地域での医療』(英文)を発表した。タイズで活動しているMSFチームの目撃証言をもとに作成しており、市内の医療崩壊に焦点を当てている。

タイズ市は国内第3の都市で、政府軍と反体制派との間で戦闘が繰り返されている。一部地域は包囲されており、住民の生命に直接的な影響が出ている。また、医療施設や医療従事者への攻撃も繰り返されている。

イエメンでMSFの緊急対応コーディネーターを務めるカルリーヌ・クライジャーは「タイズはイエメン全体の縮図と言えます。状況は絶望的です。紛争当事者には、民間人・医療従事者・患者への配慮が欠落しています」と危機感をあらわにする。

関連サイト:「病院を撃つな!」キャンペーンサイト

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恐怖にさらされている人びとの生活

空爆で破壊されたタイズ市内の学校(2015年7月撮影) 空爆で破壊されたタイズ市内の学校
(2015年7月撮影)

いずれの陣営の支配地域にもMSFの患者がいる。台所で昼食を作っている最中に砲撃された、畑に向かっている途中で空爆を受けた、家畜の世話をしている最中に地雷で手足を失った、自宅のすぐ外の路上で狙撃手に撃たれた……。すべてMSFの患者の証言だ。

タイズを州都とするタイズ州はイエメン南部に位置している。2015年3月に紛争が激化して以降、常に最前線となってきた。市内は分断され、恐怖と苦しみの中での生活が続いている。この地域は、医療援助の拡充が必要なことを表す厳しい実例だ。特に基礎的な医療に対するニーズは切実なものがある。

地域医療は暴力による直接的な影響を受けている。病院は砲撃と銃火にさらされている。MSFの移動診療は空爆に遭い、救急車は銃撃の標的となっている。医療物資などを兵士に没収されたり、医療施設に無理やり侵入されたりすることもある。

医療施設・医療従事者も標的に

MSFが活動していることを知らせる横断幕それでも攻撃が繰り返されている MSFが活動していることを知らせる横断幕
それでも攻撃が繰り返されている

影響は医療従事者にも及んでいる。出勤途中に銃撃された、嫌がらせにあった、拘束された、脅迫を受けた、銃を突きつけられて診療を強要されたなど、さまざまな報告が上がっている。医療従事者は大きなリスクをとってタイズで働いている。仕事中に命を落とすかもしれないとの恐怖を感じている人も多い。

公立病院に勤務するある救急処置室スーパーバイザーは「病院が安全と思えるか、ですか?全然ですね。医療施設でもお構いなしです。この病院も何度も砲撃され、患者もスタッフも精神的にまいっています」と話す。

医療施設への攻撃が繰り返された結果、病院は損壊し、スタッフや医療物資が不足している。タイズの地域医療体制は事実上崩壊していると言わざるを得ず、救命医療の提供も難しくなっている。

地域医療の崩壊で広がる健康悪化

建設中のビル内で避難生活を送る人びとここにはトイレさえもない 建設中のビル内で避難生活を送る人びと
ここにはトイレさえもない

地域医療の崩壊と紛争の長期化は、住民の健康悪化を引き起こしている。特に、免疫が落ちている妊婦、新生児、乳幼児といった弱い集団への影響が深刻だ。

多くの世帯では電力供給が止まり、食糧と水も足りていない。自宅から仮設住居や避難者が詰めかけている建物内へと避難した人も多い。大抵の場合そこは衛生状態が悪く、マットレス、毛布、調理器具などの状態もよくない。

医療を受けようにも、私費での治療は手が出ないほど高く、無償の医療提供は極度に不足している。そのため、重症化してしまってから"最後の頼みの綱"として来院するケースが目立ち、手遅れであることも多い。

イエメンでの人道援助の拡大を!

タイズでMSFが運営している母子保健・産科病院とMSFが支援している産科施設では、2016年、分娩介助5300件以上、産前健診3万1900件以上、産後健診2600件以上を行った。また、栄養治療プログラムを立ち上げ、重度栄養失調児2500人以上に入院治療を提供した。タイズで紛争が始まってから現在までで、紛争による負傷者の治療は1万700人に上る。

報告書では、MSFはすべての紛争当事者に対し、民間人と医療従事者の保護を徹底し、傷病者に医療を受ける機会を保障するように繰り返し呼びかけている。MSFはまた、国際援助団体と援助国政府に対し、イエメンでの人道援助を拡大し、必要としているすべての人に行き渡るように徹底すべきだと呼びかけている。

この深刻な状況はタイズだけが直面しているものではない。MSFが活動している計10州の全域で同様のことが起きている。無理のない費用負担で受けられる質の高い医療は激減し、最も基本的な医療・人道援助ニーズでさえ、紛争開始から2年を経た今でも満たせていない。

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