イラク:モスル北部の野外病院と医療者のジレンマ

2016年11月29日掲載

手術中の白川看護師 手術中の白川看護師

「モスルへ続く砂漠の中の1本道。道路には戦闘車両が、上空には攻撃機がひっきりなしに行き交い、モスル方面からは空爆音が時々聞こえていました」

イラク北部のモスル市をめぐる戦闘が激化する中、国境なき医師団(MSF)がモスルの北約30km地点に開設した野外病院に派遣された白川優子看護師が、現地の状況を語ってくれた。

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「私は手術室看護師として病院の立ち上げから関わりました。病院の衛生面においては手術室や滅菌室の配置や人の出入りの導線はとても重要なのですが、ロジスティシャンと緊密に連携し、一つひとつの事を素早く判断し病院の緊急オープンに備えました。同時に必要な機材・薬品などの確保、そして最も重要な地元スタッフの雇用を人事担当者と一緒に行い、雇用したスタッフにトレーニングを行いました。予想される"集団患者収容"を24時間行える体制を確立させるため、それぞれの部署が短い間に忙しく動き回りました。

モスル北部に建てられたMSFの野外病院 モスル北部に建てられたMSFの野外病院

しかし病院を作ったものの、現地では人種や宗教などの対立によって患者が公平に病院に搬送されないという現実がありました。MSFは前線10km圏内まで入っており、多くの患者が近くにいる事は明らかでしたから、このジレンマは医療者として耐えがたいものがありました。ある日運ばれた5人の患者は、けがを負ってから24時間も放置されていました。全員が重症で、1人の男性は片腕がちぎれ、内臓にも爆発物の破片が入り込んでいて緊急手術が必要でした。男性は10代の子どもたち2人とともに搬送されたのですが、娘さんは壁の下敷きとなっていて下半身麻痺、息子さんは臀部に大きな開放創があって仰向けになれないほどの重症でした」

白川看護師は、モスルで感じた憤りと無念を胸に、次の任地であるイエメンへと向かった。

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