シリア:「人びとは筆舌に尽くしがたいけがを負っています」

2016年10月13日掲載

戦闘が激化し民間人に多くの被害が出ているシリア北部のアレッポ東部。市内で国境なき医師団(MSF)が支援する病院の院長で、整形外科医のアブー・ハリド医師は、現在トルコ国境に近いアザーズ郡サラマーのMSF病院で働いている。彼は8月21日、アレッポ市の包囲が解かれたと確信し現地を離れたが、確信はその後裏切られ、今も市内に戻れていない。ハリド医師がアレッポ市東部の状況を語った。

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目の前で人が亡くなっていくのに、手の施しようがないのです

アレッポの包囲が始まった7月時点では、食糧が主な問題でした。アレッポは工業都市で、本格的に作物を育てられる栽培地はごくわずか。郊外にも十分な食料を生産できるほどの農地はありません。住民は米、豆、ジャガイモなど保存の効く食糧や缶詰に頼っていますが、それではビタミンが不足します。包囲が人びとを飢餓へと追いつめています。

爆撃が激しくなり、傷つき、命を奪われる人はますます増え、過去1週間の市東部の病院は1日あたり合計100件ほどの手術を行っています。町の破壊の状態は想像を絶します。

戦闘による負傷の治療が可能な病院はアレッポ市東部に4軒。ただ、市内の病院はいずれも人手が足りていません。東部地区には、爆撃による負傷治療の専門的な技能と経験のある外科医が7人しか残っていないのです。地区全域の医師を合計しても35人がせいぜいで、負傷者の増加に各病院は対応しきれず、医学生が手術や救急処置などを手伝っています。彼らはこの戦争の中で研鑽を積んできました。

この上なくつらい決断に向き合う

医師たちは消耗しています。アレッポ市東部で包囲下にある人の数を考慮すれば、35人の医師では足りません。病院に押し寄せる負傷者を、多くの場合、屋外で待たせなければならないという大変切迫した状況にあるのです。寝る間もなく、手術室は常に使用中で、緊急の外科処置にも否応なく遅れが生じます。最も急を要する、危篤状態の患者を優先するほかありません。

東部地区に残る集中治療ベッドは合計しても12床のみ。包囲されていなければ、12床でもしのげていたかもしれません。しかし、包囲網の外に患者を引き継げず、医師は、ある患者の生存の望みをつなぐために、救命の見込みが薄い他の患者から人工呼吸器を外さざるを得ないという、この上なくつらい決断に向き合っています。

現地は特定分野の専門医療人材も欠いており、神経外科医などが必要とされています。医師の足りない分野はそれだけではありませんが、神経外科の例から人びとの苦しみに拍車のかかる現状が垣間見られます。救えていたはずの人びとが亡くなっていくのです。

町は燃料不足で麻痺状態。包囲の始まる前は、救急車が乗せ切れない負傷者も自家用車で病院に運ばれていました。空爆があり、何十人もけがをすると、救急車だけでは全員を搬送できないからです。しかし、現在は救急車が全員に対応せざるを得ず、負傷者は路上で順番を待ちますが、亡くなってしまうことも少なくありません。ひどいものです。

「この痛みを止めて」

人びとは筆舌に尽くしがたいけがを負っています。医学書では目にしたことのないようなけがです。ある日、受け入れた少女は半身を失いながら、まだ意識があり、話もできました。苦痛にあえぎ、その痛みを止めてほしいと言うのです。私たちは手術をしたものの、骨盤と脚のない身体では生きられません。集中治療室に移すと、何時間かして目が覚め、いまわの際に家族との対面だけは果たせました。目の前で人が亡くなっていくのに、手の施しようがないのです。

包囲の始まった7月、人びとにはまだ希望があり、いずれ解放されると信じていました。しかし、8月の包囲突破は一時的なものに終わり、今は皆の消耗が爆撃で2倍にも3倍にも進んでいることでしょう。

私の一番の望みは爆撃の停止です。それから、包囲が終わり、域外への民間人の移動と負傷者の治療のための搬出、また、現地への援助提供が可能になるよう願っています。現在のアレッポ市東部には、インシュリンもありません。インシュリンは優先事項ではないと思われるかもしれませんが、これがなければ、糖尿病患者には命取りになりかねないのです。そしてこのまま包囲が続けば、飢餓の発生が心配です。

なぜ、命を救う場所に爆弾が降りそそぐのか。
国境なき医師団(MSF)「病院を撃つな!」キャンペーン

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