イエメン:停戦合意の失効で深刻な危機——医療体制が再び機能不全に

2016年09月23日掲載

8月15日に空爆に遭ったアブス病院

イエメンで再び紛争が激化している。2016年4月の停戦合意は、8月6日に平和協議が決裂したことで失効した。直後から北部サアダ県から南部タイズ県にいたるまで激しい空爆が再開された。

その結果、8月15日にはアブス市にある国境なき医師団(MSF)の病院がサウジアラビア主導の有志連合による空爆に遭い、死亡者19人、負傷者24人という深刻な被害が出た。MSFは安全確保の観点からやむを得ず、イエメン北部でMSFが支援している病院からスタッフ6人を退避させた。

イエメンでMSFの活動責任者を務めるハッサン・ブースナインは「過去1年間で攻撃を受けたMSF関連の医療施設は、アブス病院で4軒目になります。ほかにも診療所、学校、市場、橋などが破壊されています。こうした直接的な犠牲だけでなく、紛争による経済破綻、交通網の分断、病院の閉鎖、医療従事者の不足など、間接的な犠牲も多く見られます」と報告する。

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紛争で広がる"間接的な犠牲"とは?

"間接的な犠牲"は数えきれないほどだ。輸血が必要な患者や緊急帝王切開が必要な女性もその一例だろう。いずれのケースも、治療を受けられる医療機関を見つけることが難しくなっている。医療施設が稼動している場所でさえ、重要な物資や医薬品、人員、発電機を動かす燃料などが不足しているため、適切な治療を提供できなくなっている可能性が高い。

さらに、戦闘地域にある医療施設へは危険すぎて来院できないため、けが・病気・出産などを自力でどうにかするしかないケースも多い。イエメンの経済は破綻状態で、多くの人はほんど収入がない。そのため、食べ物を買うか、薬を買うかという究極の選択を迫られている。

MSFの緊急対応デスク・マネージャーを務めるローラン・シュリーは「情勢の悪化で通院が命がけになってしまっています」と懸念する。例えば、戦闘地域の1つであるサアダ県ハイダン市内では、住民がハイダン病院に行くことをやめていることがMSFの調で明らかになっている。

学校が空爆に遭い38人が死傷

7月時点ではハイダン病院はフル稼働し、毎日60人から80人を診療していた。しかし、8月初旬以降、交通網の分断や、病院が標的にされることへの恐れから、緊急時を除き来院者数が減っている。

その緊急事態は8月13日に起きた。ハイダン病院で活動するMSFチームは空爆で重傷を負った子ども38人を受け入れたのだ。目撃者によるとコーラン学校が空爆に遭ったという。38人のうち10人が来院直後に亡くなった。残る28人は容体安定措置を受けた後に、サアダ市でMSFが支援しているアル・ジュムフリ病院へ移送された。

アル・ジュムフリ病院も2015年10月の空爆で一部損壊したが、2016年4月の停戦合意後にMSFが現地へ戻り、産科病棟と救急処置室を再建した。以降、避難していた妊婦や子ども連れが来院するようになった。しかし、情勢の悪化を受け、日中、住民は洞窟に隠れていることから、来院は困難を極めている。

包囲下のタイズ市、人口密集地で戦闘も

一方、南部も危機的だ。タイズ市は包囲されており、人口が密集している市街地で戦闘が繰り返されている。8月18日、19日の2日間で、MSFが支援している病院だけでも負傷者129人を受け入れた。

市内の住民は食糧と水を手に入れることも困難な状況だ。MSFは病院4軒を支援しているが、病院までの道中が危険で来院を控えている人が多いとみられる。

タイズ市では過去にも、2015年12月2日にMSFのテント式診療所が空爆に遭い、9人が負傷、1人が亡くなっている。同年10月3日には、MSFの支援先であるアル・タウラ病院にロケット弾が着弾し、救急処置室で勤務していた医療従事者7人が負傷した。

空爆や市街地での戦闘が再開され、8月29日にはアデン市内で自爆攻撃も起きた。イエメンでは内戦が再燃したとみなさざるを得ない。停戦期間はわずか数ヵ月で終了し、直接的・間接的な犠牲者は今後さらに増えていくことが懸念される。

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