レバノン:糖尿病と生きるシリア人難民

2014年11月26日掲載

毎日の運動が欠かせない患者に指導をするMSFの看護師(2014年11月14日) 毎日の運動が欠かせない患者に指導をする
MSFの看護師(2014年11月14日)

国境なき医師団(MSF)は、レバノン難民として暮らすシリア人に対し、糖尿病や高血圧といった慢性疾患の治療を、トリポリ市内の病院とベッカー高原の4つの診療所で提供している。シリア危機ぼっ発直後の数ヵ月間に、同難民が高い率で慢性疾患にかかっていることがわかったため、2012年に活動を開始した。以来、2年間で5万人余りの患者が無償の治療を受け、大勢の人にとって重要な活動であることが裏付けられた。

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長期にわたる定期的な観察が求められる

糖尿病のメカニズムや食事制限について説明するMSFのシリア人スタッフ(2014年11月14日) 糖尿病のメカニズムや食事制限について説明する
MSFのシリア人スタッフ(2014年11月14日)

「糖尿病は体内の糖代謝の異常によるもので、高血糖を引き起こします。ホルモンの1種であるインシュリンを分泌して血糖値の調整役を担う、すい臓の働きが悪くなるためです。そのため、経過観察と専門的な治療、そして食事の指導が例外なく求められます」レバノンでのMSF医療活動責任者であるマリア・ライトローワー医師はそう説明する。

糖尿病は完治せず、病状は徐々に変化していく。患者は自らインシュリン注射で血糖値を制御するか、厳しい食事制限を守らなければならず、定期的な運動を続ける必要もある。それを怠れば、障害の残る深刻な合併症が起きかねない。

「最もよく見られる合併症の1つは、足の感覚障害です。血液の循環不全が潰瘍や感染症を引き起こし、治療しなければ切除に至ることもあります。網膜を走る微細な血管が損なわれることで、視力が低下したり失われたりする恐れもあります。糖尿病治療の鍵となるのはやはり、適切な指導と健康な生活習慣です」

不安定な生活環境では、死活問題

一家でレバノンに逃げてきたリダさん(左から2番目)も、糖尿病を患う難民の一人(2014年11月14日) 一家でレバノンに逃げてきたリダさん(左から2番目)も、
糖尿病を患う難民の一人(2014年11月14日)

レバノンで2年にわたり難民生活を送っているモハマドさんは「内戦で何もかも失いました。これまでよりも一層、私が大黒柱となって家族を支えなくてはいけません。ですから、例えば片足の切除の原因になるようなことは見過ごさないようにしています。ほかの糖尿病患者がそういう状況に陥る様子を見てきました。医師から自己管理についての詳しい説明を受けましたし、妻も食事に細心の注意を払ってくれています」と話す。

モハマドさんたちシリア人難民の糖尿病患者にとって、レバノンでの暮らしは時間との闘いでもある。現金収入がないため規則的な食事は摂りにくく、その結果生じた合併症により、患者はさらに不安定な状況に陥る。それはまた、医療をなかなか受けられないことによっても悪化する。

医療の壁となっているもの

4歳で糖尿病と診断されて以来、インシュリンが欠かせないアミナさん(2014年11月14日) 4歳で糖尿病と診断されて以来、
インシュリンが欠かせないアミナさん(2014年11月14日)

交通費や診療費は、保健医療の民営化が進んだ国では大きな壁となる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が医療費の75%を補助しているものの、患者は残りの25%と一定額の検査費を負担しなければならない。その金額を、既に家賃や食費の捻出に苦慮している人びとはまかないきれない。

「シリアのラッカ県から姉妹と両親とともに逃げてきました。私たちの自宅が爆撃を受けたためです。レバノンに入り数週間で手持ちのインシュリンを使い果たしてしまいました。そこで父に付き添ってもらい、診療費がこちらの3分の1で済むシリアに一時帰国したのです」

そう語るアミナさん(19歳)の一家7人は現在、ベッカー高原の町でビニールシート製の屋根の下で暮らしている。レバノン滞在も1年を超えた。父親が時折就労し、アミナさんら娘が帰国の機会を切望しながら、家事を手伝う。

「私は4歳の時に糖尿病と診断されました。手元にインシュリンを絶やしたことはなかったのですが、レバノンに来てからはそういきません。高価すぎるのです」

高額な治療費の問題だけでなく、倦怠や先行きの不透明さから意識的に病気を軽視する人もいる。イスマエルさんもその1人だ。

「こんな状態で生活を続けて何になるっていうんです?いざとなれば死ぬしかないんです。だからタバコもやめていません」

糖尿病を患う何千人ものシリア人難民は、住みかを追われた心の傷が身体に障らないよう重ねて注意しなければならない。母国では内戦による荒廃が続いており、レバノンで迎える冬はさらなる困難を突き付けてくるだろう。

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