エボラ出血熱:MSF、治療薬の臨床試験に協力——大規模流行で異例の措置

2014年10月17日掲載

MSFの医療ディレクターのベルトラン・ドラゲ医師 MSFの医療ディレクターの
ベルトラン・ドラゲ医師

西アフリカでエボラ出血熱の大規模な流行が続いていることから、国境なき医師団(MSF)は、実験段階にあるエボラ治療薬の臨床試験に協力するという異例の措置に踏み切った。MSFは通常、薬剤開発の研究や治験には関与せず、未承認薬を使用することもない。しかし、今回の流行規模の大きさと深刻さから、現行のエボラ対策に悪影響を及ぼさない範囲で、MSFの知見を提供することになった。MSFの医療ディレクターのベルトラン・ドラゲ医師に詳細を聞いた。

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実験薬やその臨床試験について、MSFの方針を教えてください。

エボラ治療薬の実用化に向け作業が進められている エボラ治療薬の実用化に向け作業が進められている

西アフリカのエボラ対策の中心的な役割を果たしているMSFは、実験段階にあるエボラ治療薬の臨床試験に積極的に関与することにしました。現地のMSFスタッフは多数の患者の治療を行っており、完成した治療薬を患者に投与することになる可能性もあります。そのため、MSFの知見は臨床試験に貢献できると思っています。

他団体、学術関係者、企業、流行国の保健省、世界保健機関(WHO)と協力し、一部のエボラ新薬については、活動地で簡素・迅速化された臨床試験を行いたいと考えています。実験薬の選定にもかかわるつもりです。現行のエボラ対策への影響を最小限にとどめつつ、医療・研究上の倫理を尊重し、有用な科学データが得られるような設計を進めています。MSFは通常、薬剤開発の研究や治験には関与しませんが、今回の大規模流行を受け、異例の措置に踏み切ることにしたのです。

一方、ワクチンの臨床試験には当面参加しません。ワクチンの臨床試験は治療施設外の健康な人を対象に行われるからです。

MSFは治療薬・ワクチン開発を加速させ、そのコンパッショネート・ユース(※)を目指す動きを全面的に後押しします。また、製薬企業には生産体制を可能な限り迅速に拡大するように呼び掛けていきます。

  • 人道的配慮から、生死に関わる病気の患者に対し、販売承認に先立って未認可薬の使用を認める制度

開発中のエボラワクチン・治療薬はどのようなものですか。

ワクチンについては、グラクソ・スミスクライン社の製品と、カナダのウィニペグ市にある公衆衛生庁国立微生物研究所の開発したものが、最も期待を集めています。ただ、そのほかにも開発中のワクチンがあり、できる限り早期の完成が望まれます。

一方、実験薬についても、期待の持てるものがいくつかあります。しかし、人間への使用における安全性と有効性はまだ試験されていません。WHOがそうした薬を選定し、候補リストにまとめました。そのうちの一部が、臨床試験を行うことが望ましい薬として指名されています。該当する薬の種類は、単クローン抗体系、阻害作用をもつ低分子RNA(siRNA)系、抗ウイルス系などさまざまです。

回復した人の全血や血漿をエボラ治療に用いることについては、どうお考えですか?

エボラから回復した人の全血や血漿(けっしょう)を感染者に輸血することで、含有される中和抗体がウイルスの駆逐を促す可能性はあります。一部の人が全血または血漿の輸血を有望視しているのは、比較的短期間での有効性評価と実用が見込め、必要な人員・施設・機器さえそろえば広域で行えるからです。西アフリカでは難しいかもしれませんが……。

ただ、回復者の輸血は、現時点ではまだ有効性が"不明"です。適切で効果的な治療薬やワクチンを完成させるという課題よりも優先させるべきではなく、まずは輸血の有効性の調査・検討から始めるべきでしょう。

実験薬の臨床試験はどのように進められますか。

エボラ流行地域での実験薬の有効性試験には、さまざまな選択肢があります。短期間で信頼性の高い有効性データを得られるような試験設計が鍵となります。同時に、患者にとって安全でなくてはなりません。また、試験対象の薬が最も必要な人の手に渡るようにしなければなりません。

ワクチンの臨床試験にも共通して言えることですが、プラセボ(偽薬)を用いる盲検法は避けたほうがいいでしょう。さまざまな条件が限られている流行地域で、エボラに感染した患者に、偽薬で架空の治療や予防効果を信じ込ませるような行為は慎むべきです。

実験薬の臨床試験はどこまで進んでいるのでしょうか。実用化されるのはいつ頃でしょうか。

一部の実験薬が人体での試験を控えているものの、大規模投入までには越えなければならない壁が複数あります。

まず、当該の薬の有効性と安全性を人体での試験により証明する必要があります。有効性試験は流行国内に設置されたエボラ治療センターで行われるべきですが、現行のケアに悪影響を及ぼしたり、患者に不利益を与えたりしてはならないとの条件があるため、課題が出てくるかもしれません。

また、治療薬が完成したとしても、全ての人に行き渡る量を確保しなければなりません。もし、限られた量しか確保できなければ、各国の保健省はそれをどのように配布するか、難しい選択を迫られることになるでしょう。

治療薬を実現させる道のりはまだ続きますが、歩みを速める手段もあります。複数の段階の同時進行や、次の段階への円滑な移行の徹底、安全性と有効性を確認した上での規模拡大などの作業効率化で、臨床試験の進み具合が可能な限り加速されることを望みます。

一方、ワクチンの実用化と、流行地域での大規模導入はいつ頃になるとみていますか。

人体での試験が間もなく始まるワクチンが2種類あります。そのうちの一方は、安全性と有効性が確認され次第、エボラ流行地域で導入することが理論上は可能です。

しかし、実際のところ、導入時期は今後の動向にかかっているでしょう。有効性試験の結果が明らかになってからワクチンの大量生産に取りかかるとすれば、十分な量を確保できるまでさらに何ヵ月も待つことになる可能性があります。

MSFは、「有効性試験の最終結果を待たずに生産を開始すべき」と考えています。そうすることで、当該ワクチンの有効性と安全性が証明され次第、感染リスクの高い人びとが接種を受け、その恩恵にあずかることができます。

もちろん、(その薬の有効性が期待通りに実証されなかった場合)製品生産後に薬を廃棄するはめになる可能性もあり、開発者にとってのリスクになり得ます。しかし、開発者はそのリスクを負っていただきたいと思います。一方で、各国政府やWHOなどには、臨床試験で十分な安全性と有効性が証明できなかった場合に開発者が負うリスクへの対策を検討していただきたいと考えています。

今回の流行の抑止における治療薬・ワクチンの意義を改めてお聞かせください。

今回の流行における喫緊の課題は、患者のための病床増設、医療スタッフの増員、そして、流行国での感染を抑止するための追跡調査や健康教育の拡大です。

治療薬やワクチンは、こうした対策と併用することで大きな効果をもたらし得るのです。私たちは今、西アフリカの惨状を目のあたりにしています。製薬企業や各国政府をはじめ、全関係者が手を尽くして対応を急ぐ必要があるでしょう。

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