レバノン: 増える慢性疾患、財源・人材に課題

2014年04月23日掲載

非感染性慢性疾患(NCD)は、循環器疾患、高血圧、糖尿病などの「生活習慣病」や、ぜんそく、てんかん、がんなどを指す。徐々に進行し、その多くは完治できない。心臓発作、脳卒中、腎不全、視力の低下などの病気が表れるまで気づきにくいことも特徴だ。

患者数は世界的に増えており、特に都市および都市周辺部でその傾向が強い。座っている時間が長時間の生活スタイル、栄養価の低い食事、喫煙などがリスクとなる。病気を早期発見して適切な治療を受けることで、心臓発作などの病気を予防することができる。

一方、都市部以外でNCDの患者数が目立って増えているケースがある。シリア内戦を逃れた人びとが難民生活を送っている地域だ。国境なき医師団(MSF)が医療援助を行っているが、課題も多い。

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慢性疾患の治療が後回しに

MSFの診療所で血圧検査を受ける女性 MSFの診療所で血圧検査を受ける女性

「何を食べろというんですか?シリアから内戦を逃れて来たんです。医師からは野菜を摂るよう勧められていますが、手に入るものを食べるほかありません」とレイラさん(62歳)は頭を抱える。レバノン東部のベッカー高原で、糖尿病を患いながら難民生活を送っている。

MSFのワエル・ハルブ医師によると、MSFの患者の90%弱が過去に慢性疾患の診断を受けている。高血圧や糖尿病の例が典型的で、これらの病気は治療を受けられない時期が数週間続くと急速に悪化するという。

ハルブ医師は「シリアが内戦状態にある今、慢性疾患の治療は人びとの優先事項になっていない。食糧、水、住居など生きるために今すぐ必要なものの確保が重視されているためです。患者が医療施設への交通費や薬の購入費を捻出できないこともあります」と指摘する。

糖尿病患者の場合は、食事が特に問題となる。MSFの施設では、大勢の高血圧患者や、血糖コントロール不良の糖尿病患者を受け入れている。意識障害、心臓発作、昏睡に至るおそれがあるからだ。

患者数の増加で人材・財源の危機

待合室は患者であふれている(レバノン、トリポリ市内) 待合室は患者であふれている
(レバノン、トリポリ市内)

MSFは、シリア人難民の生活習慣病の治療を無償で提供している。しかし、患者数の増加に伴い、財源と人的資源の限界に直面している。

MSFの慢性疾患専門家であるベネディクト・ド・カルベルマトン医師は「各診療所とも手が回りません。レバノン国内のMSF施設で、医師が患者1人あたりに割ける時間は平均でわずか8分です」と危機感をあらわにする。

そんな極めて限られた時間の中で、検査、診断、治療の方針決定、患者への詳細な説明、必要な薬の処方を行わなければならない。カルベルマトン医師は「不可能にも思えますが、MSFの現場の医師はそのペースで業務をこなしています」と話す。

ケアの継続性も慢性疾患治療の要だ。患者と医師の責任感と継続的な関わり合いが前提となる。しかし、難民生活を送っている人びとは、生活条件も安定せず、なかなか適切な経過観察が行えない。その結果、治療が徹底できなくなるおそれもある。

人道危機に適した治療プロトコルを

MSF医療アドバイザーのフィリッパ・ブール医師は「医療・人道援助団体であるMSFは、感染症が流行する危機的事態への対応には一日の長があります。一方、長期的視野に基づく慢性疾患治療については、限られた見識しかありません」と話す。

シリア人難民が効果的な治療を受けられるように、欧米の治療モデルに則して設計されている治療プロトコルを、人道危機下の状況に合わせて改訂・調整する必要に迫られている。

また、慢性疾患に関する専門家の助けを借り、人道危機下の条件に合ったアプローチを模索している。特に、患者数が多い糖尿病と高血圧を重点化している。また、狭心症、ぜんそく、てんかんといった他の非感染性慢性疾患についても検討していく。

MSFが2013年にレバノンのトリポリおよびベッカー高原、イラク北部のドミーズ難民キャンプの医療施設で行った慢性疾患診療は1万7900件を超える。

MSFは、2014年1月2日夜にシリア北部の宿舎から連れ去られたスタッフが、無事に帰還できるように尽力している。当該のスタッフは内戦で苦しむシリアの人びとを対象に医療活動を行っていた。2012年6月のシリア北部における仮設病院・診療所の運営開始以来、MSFの医療チームは、外傷と命を脅かす慢性疾患が大部を占める14万件以上の診療を提供。また、2000人以上の女性の安全分娩も介助している。困難は非常に多いが、MSFは苦境に置かれたシリアの人びとに引き続き医療を届けていく。

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