多くの命が一瞬にして…豪雨と地滑りに襲われ住民はすべてを失った

2019年04月22日

サイクロン「イダイ」に見舞われた町で、橋は決壊し道路は崩れ落ちた © Gloria Ganyani/MSFサイクロン「イダイ」に見舞われた町で、橋は決壊し道路は崩れ落ちた © Gloria Ganyani/MSF

2019年3月15日。この夜を忘れられない人たちがいる。風速200km/hの風が谷を吹き荒れ、豪雨で河川とその支流が決壊。地滑りが一帯の家々を流し去った。アフリカ南部を直撃したサイクロン「イダイ」は、ジンバブエのマニカランド州チマニマニ地区に大きな被害をもたらし、ジンバブエ文民保護ユニットによると少なくとも169人が亡くなった。国境なき医師団(MSF)は、現地保健省との協力のもとチマニマニ郊外に容体安定化センターを設置。被災者の治療にあたるとともに、慢性疾患治療薬の提供などを通じて地域の診療所を支援している。 

今も地鳴りが聞こえ、光景がよみがえる

ンガング村には壊れた家や大きな落石が残る © Gloria Ganyani/MSFンガング村には壊れた家や大きな落石が残る © Gloria Ganyani/MSF

チマニマニは山の多い地域だ。あの夜、大きな岩が落下するのを地震のように感じた人もいれば、大型トラックが走るような音を聞いた人もいる。行方不明者は328人。避難者は1万1255人とされている。地元住民の動揺は大きい。誰もがお互いを知る小さなコミュニティーで、子どもが亡くなり、兄弟姉妹、父母、隣人、家族全員の命が失われた家庭もある。親類や同僚の消息がいまだにわからない人、何日もかけて砂利に埋もれた大切な人を掘り起こそうとした人もいる。においがしたりハエがたかったりしていれば、誰かが埋まっているかもしれない。そんな悲しい方法で回収された遺体もある。 

今も地鳴りが聞こえるという被災者のレジーナさん © Gloria Ganyani/MSF今も地鳴りが聞こえるという被災者のレジーナさん © Gloria Ganyani/MSF

レジーナ・ドゥラニさん(37歳)はチマニマニ区ンガングの自宅が粉砕した。大型トラックのような音が聞こえ、次に地面の揺れる感覚があり、そして、家と屋内の何もかもが壊れた。今でも毎晩、12時から午前2時になると地鳴りが聞こえる。心の傷の明らかな兆候だ。被災前は貿易商として生計を立てていた。今はパスポートや身分証も失い、家族を養えなくなると心配している。行き詰まりを感じ、この土地を離れたいがそうもいかない。食べ物の不足、コレラやチフスなどの病気も心配で、清潔な飲み水はなく、トイレも全滅している。 

木によじ登り九死に一生を得たピーターさん © Gloria Ganyani/MSF木によじ登り九死に一生を得たピーターさん © Gloria Ganyani/MSF

ルニョワニ村出身のピーター・マトニョゼさん(25歳)が豪雨に押し流されたのは、バナナ園から自宅に逃げ戻ろうとした時のことだった。運よく引っかかった木によじ登ったものの、そこで飲まず食わずのまま3日間を過ごした。MSFの治療を受けたピーターさんは、身震いしながら語る。「兄弟とその家族と別れてしまい、もう会えないのではないか、家族で唯一の生き残りになってしまうのではないかと不安でした」。妻と2人の息子は幸い無事だったが、人が濁流に飲み込まれる光景は今も脳裏によみがえる。「まだ気持ちが落ち着きません。記憶も鮮明です。眠ろうとすると、洪水にさらわれる人の姿が目に浮かんできます。まるで映像が流れるように、あの光景が見えるんです。車が押し流されて、よじ登っている木に何台もぶつかってきました」

身分証は流され、トウモロコシ畑とバナナ園は破壊され、ピーターさんは全てを失った。これからどうやりくりすべきがわからずにいる。 

村が孤立し、たった1人で苦しんでいた人も

チマニマニ近郊にMSFが設置した容体安定化センター © Gloria Ganyani/MSFチマニマニ近郊にMSFが設置した容体安定化センター © Gloria Ganyani/MSF

経験したことのないほどの大災害は、地域を破壊し、一瞬にして多くの命を奪った。家屋、店舗、工場が全壊し、石ころや木切れしか残っていない地区もある。人びとは食糧、住居、衣服、生活の糧など何もかもを失い、高血圧や糖尿病の患者の命をつなぐ慢性疾患治療薬も流れ去った。

被害状況が伝わる中、MSFはすぐに現地へ出発したが、道路や橋が壊れてチマニマニは完全に孤立していた。MSFは、現地保健省との協力のもとチマニマニ郊外に容体安定化センターを設置。軍や民間のヘリコプターでチマニマニから負傷者を運び、特にけがのひどい人は近隣のチピンゲにある中核病院に移送した。3月26日までに合計80人の患者が空路で各医療施設に搬送され、複数の医療提供者が協力して合計232人を援助している。 

容体安定センターで活動するMSFのモネティ医師(右) © Gloria Ganyani/MSF容体安定センターで活動するMSFのモネティ医師(右) © Gloria Ganyani/MSF

チピンゲでMSFが運営する非感染性疾患プロジェクトに携わっていたヴァージニア・モネティ医師は、容体安定化センターで患者の処置にあたった医師の1人だ。

「けがをしたまま治療を受けられず何日か過ごし、感染症を起こしてしまった外傷患者さんを何人も診ました。骨折した人もいて、すぐにも搬送が必要でした。チマニマニではたくさんの人が、孤立したまま何日も過ごしていました。たった1人で苦しんでいたんです。親類の安否を何日もかけて確かめようとしていた人もいます」 

孤立した地域へ徒歩や自転車で向かうMSFスタッフ © MSF孤立した地域へ徒歩や自転車で向かうMSFスタッフ © MSF

エリザベス・イルング医師はMSFのアウトリーチ(※医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動)・チームの一員として、チマニマニのンゴリマ診療所とその周辺に通っている。この地区は、全ての道路が寸断されてしまった。

「地域の皆さんにお会いして被災体験をうかがい、診療所のニーズや周辺の調査と状況確認もできました。家族全員が流されてしまった悲しいお話や、回収されたご遺体、行方がわからない方のお話を聞く一方で、6人家族を屋根からロープ1本で救助した近隣住民らの活躍も耳にして、この地域の人情を誇らしく感じました。持病のある患者さんは薬を使い果たし、診療所の在庫も少なくなっています。やけどを負った2人の女の子が4日間も診療所に来られなかったという報告にはとても胸が痛みました」 

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