内戦勃発後4年 イエメンで日本人医師と看護師が見たものとは…

2019年03月28日

現地の様子を報告する真山剛医師(右)と中池ともみ看護師 © MSF現地の様子を報告する真山剛医師(右)と中池ともみ看護師 © MSF

中東で最も貧しい国とされるイエメン。2015年に暫定政権軍と反政府勢力「アンサール・アッラー(通称フーシ派)」の軍事衝突が勃発してから、この3月で4年を迎えた。2018年12月に当事者の双方が西部ホデイダにおける停戦に合意したが、人びとは今も、地雷や銃撃戦などの武力による被害、貧困、不十分な医療体制などに苦しんでいる。国境なき医師団(MSF)は、継続した緊急医療・人道援助活動を展開している。2019年1月中旬~3月中旬まで現地で活動した日本人救急医、真山剛医師と、現在活動中の中池ともみ看護師が3月27日、記者報告会を開いた。人びとの窮状を語った。

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不安定な情勢が続くイエメン

イエメンで展開中のMSFの活動地域(一部抜粋)© MSFイエメンで展開中のMSFの活動地域(一部抜粋)© MSF

2015年に勃発した内戦は、「世界最悪の人道危機」とも呼ばれ、亡くなった人びとは1万人とも、5万人以上とも言われている。国内の医療施設の半数はフル稼働しておらず、特に北部では医療体制の崩壊が深刻だ。さらに、国による給与未払いで医療人材が多数離職したことで人材が不足している。医療アクセスがない人びとがたくさんいるという。また、食料の値段も高騰し、人びとの栄養状態も深刻だ。

MSFは現在、国内11県、12ヵ所の医療施設で活動している他、現地の医療施設20ヵ所を支援している。だが2015年以降、MSFの医療施設は6回攻撃され、患者ら27人が亡くなっている。2018年10月には、南部アッダリ県のMSF病院のスタッフ宿舎に2度も爆弾が仕掛けられた。MSFは、セキュリティを考慮して、病院閉鎖を余儀なくされた。

立ち上げたばかりの救急外来

現地の状況について報告する真山医師 © MSF現地の状況について報告する真山医師 © MSF

真山医師は、ホデイダ市から北に約50キロメートルにあるアッダーヒで、MSFの救急病院の開設プロジェクトを従事した。2018年11月にホデイダ周辺で戦闘が激化。前線が市内の病院に接近したため、ホデイダ市郊外での医療体制を拡充するニーズが高まったためだ。

アッダーヒは田舎町で物価も安く、周辺からの避難民も多く押し寄せており、貧しい人びとも多い。ホデイダにも病院はあるのが、さまざまな理由でそこに行くことができない医療アクセスの問題が懸念されていた。

MSFは2019年1月、アッダーヒに救急病院を開いた。手術室、入院病棟、集中治療室を順次設置する計画で、真山医師が到着したときには、まだテントを張った簡易病院だった。

「MSFは、あるものでできる範囲のことやりながら患者を受け入れていく。その都度、患者のニーズを把握し、本部にも報告しながらニーズに応じてプロジェクトを進めていく。チャレンジの連続でした」

真山医師は患者の救急診療の対応と同時進行で、病院作りにも携わった。

予想に反して多かった内科系の症例患者

真山医師は当初、救急外来には、他の紛争地の病院と同様に、戦闘による負傷者が多く運ばれてくると思ったという。だが、実際に多かったのは内科、新生児科の症例患者だった。

「戦闘負傷者ではなく、アッダーヒで暮らす避難民や貧しい人たちの内科的治療、感染症の治療が多かった。また、マラリアが流行し始めの時期で、救急室に受け入れた全ての患者の5人1人はマラリアの患者だった」

忘れられないのは、脳マラリアにかかって病院に来た幼い兄弟のこと。2人とも、意識状態がとても悪かったが、薬が効いて回復。退院の時は、ハイタッチをしてくれて喜んでくれたという。

回復した兄弟と記念写真を撮る真山医師(右から2人目)© MSF回復した兄弟と記念写真を撮る真山医師(右から2人目)© MSF

新生児科の患者も多かった。地域では自宅出産する母親が多く、生まれたばかりの赤ちゃんが息をしていなかったケースも。子どもが小児肺炎になってこともあった。栄養状態の悪い子どもが患者として来ることもあった。「十分な食べ物がないのだ」と、人びとの貧しさを感じた。

真山医師はマラリア患者の治療を踏まえて、貧困や医療アクセスの問題が、治療の遅れにつながっている点についても指摘した。

「同じマラリア患者でも、病院に来る交通費がない人、伝統的な治療を信じて受けている人もいた。MSFの病院に来るのが遅れて、来院してもそのまま亡くなってしまうケースや、治療をしても後遺症が残るケースもあった」

遠くの地域からも、たくさんの患者が来た

インターネットによる電話中継で報告する中池ともみ看護師 © MSFインターネットによる電話中継で報告する中池ともみ看護師 © MSF

現地で活動中の中池看護師は、インターネットを使った中継で報告会に参加した。中池看護師は、ホデイダ市から南に約450キロメートルにある町、モカのMSF外科病院で看護師長として働いている。看護師長として、手術室看護師ら看護スタッフの業務管理、患者の衛生管理などを担う。看護ケアの技術向上を目的としたトレーニングなども開催している。

MSFで活動する中池看護師 © MSFMSFで活動する中池看護師 © MSF

モカのMSF病院は2018年8月、ホデイダとタイズからの急患受け入れのために、テント式の救急・外科病院として開かれた。緊急手術が可能な地域で唯一の病院だ。合併症を起こした妊婦の帝王切開などにも対応している。2018年8~12月に受け入れた急患の18%が15歳未満だった。

「(緊急手術の必要な妊婦は)遠方から車で2~3時間かけて来ることが多く、中には5時間かけて来る人もいました。1日に平均1~2件の帝王切開のケースがある。コカというモカから車で約1時間の場所から来る患者も多いが、病院に着いた時には赤ちゃんの状態が悪く、急いで手術室に運んだこともあった」

病院が遠い…地雷による被害者も増加

モカでも、患者の多くが遠方から運ばれてくることが多く、医療アクセスが課題となっている。中池看護師は、「ほとんどの患者が遠方から運ばれてくる。兵士だけでなく、女性や子どもの場合もある」という。

タイズ県内で見つかっている地雷(2018年12月撮影) © Agnes Varraine-Leca/MSFタイズ県内で見つかっている地雷(2018年12月撮影) © Agnes Varraine-Leca/MSF

地雷による被害も深刻だ。中池看護師は3月中旬、地雷で負傷した父親と、3歳の子どもの治療に対応した。父親は、右足のひざ下や左大腿骨折などの重症、子どもも両足に大きなやけどなどを負った。2人は、ホデイダとモカの間にある地域の情勢が悪化したため、他の町に避難していたという。何ヶ月か経って自宅に戻ったところ、自宅の台所に地雷が仕掛けられていたという。その地雷の爆発に巻き込まれ、2人は負傷した。

「地雷の患者が多い。1日に1回、患者が運ばれてくることも。この親子のようなケースが立て続いたこともあった」と話した。

真山医師「民間人、医療施設やスタッフを攻撃しないで」

最後に真山医師は、「紛争当事者には改めて、民間人、医療施設、医療スタッフを攻撃しないという国際人道法を守ってほしい。戦闘負傷者や病人、妊産婦への医療アクセスを妨げないでほしい。そして、人道援助のための移動や、必要な物資輸入に課せられる手続きを簡素化してほしい」と訴えた。

真山医師の活動では、物資の到着の遅れがあり、マラリア患者が多いにも関わらず、マラリアの診断キットが届かず、マラリアがあるものとして治療したケースもあった。また、MSFのスタッフの中で、海外から活動に参加予定だった何人かは、ビザ申請しても拒否されて合流できないこともあった。「人道援助活動の進行を妨げないよう、紛争当事者や支援国は、こうした課題に取り組んでほしい」と呼びかけた。

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イエメン活動概況

MSFは1986年から活動。2015年の紛争以降は、救急患者約97万人、戦闘負傷者約10万人を受け入れている(2018年10月末現在)。現在、イエメン全土で、2200人以上のスタッフが活動に関わっている。日本人スタッフは10人が派遣された(2018年実績)。

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