1年以上も流行するはしか 予防接種で守りたい子どもの命

2019年05月22日

はしかの予防接種を受ける4歳の女の子 © Juan Haroはしかの予防接種を受ける4歳の女の子 © Juan Haro

アフリカ・チャドで、はしかが1年以上にわたり流行している。これまでもチャドでは、はしかが繰り返し流行しているが、いまだ流行を食い止めるに至らず、異例の事態となっている。国境なき医師団(MSF)の緊急対応チームは、はしかの予防接種を10万7000人の子どもに実施。流行が続くはしかへの対応を拡充している。 

わずか3ヵ月で はしか症例9000件

治療を受けるはしか患者の子ども © Juan Haro治療を受けるはしか患者の子ども © Juan Haro

チャドでは、首都ンジャメナとアム・ティマン市を含む複数地域で、はしかが流行している。流行は1年続いている上、状況はひどくなっている。MSFの緊急対応チームは、アム・ティマン市で集団予防接種を実施した。

「チャドでは、はしかが繰り返し流行しています。通常であれば、流行は春に始まり、6月に雨期が訪れる頃に終わります。でも、2018年に起きたはしか流行がいまだに続いているのです。流行を封じ込めるには至っていません」とMSFの緊急対応コーディネーターを務めるテレサ・ベルトールドは話す。

チャドでは、2018年5月にはしかの流行が宣言された。これまでに、国内全126地区のうち69地区で、はしか流行が確認されている。状況は改善せず、今年1月には2019年1月~3月の間に、確認されたはしか症例は9000件に達した。わずか3カ月の間に68人が亡くなった。一方保健省による調査では、2018年5月~12月に確認されたはしか症例は5336件(亡くなった患者は96人)だった。はしか患者が大幅に増えていることがわかる。

今年1月、MSFのチャド緊急対応チームが、アム・ティマン市に入った。150人のMSFスタッフが4週間で、10万7000人の子どもに、はしかの予防接種を実施した。アム・ティマン市以外でも、13カ所で予防接種した。緊急対応チームは、はしか患者の症例管理も支援。アム・ティマン病院と診療所3カ所で、無償で医療ケアを提供している。MSFは2019年の1月~3月にかけて、アム・ティマン市で1677人の合併症を伴う、子どものはしか患者も治療した。

予防接種の大切さを伝える

はしかの予防接種にあわせ、子どもたちはMSFのスタッフから栄養失調の状態を確認されたり、診察を受けたりする © Juan Haroはしかの予防接種にあわせ、子どもたちはMSFのスタッフから栄養失調の状態を確認されたり、診察を受けたりする © Juan Haro

またMSFは集団予防接種までの期間に、アム・ティマン市の地域の人びとや遊牧民を訪問し、「どう子どもたちを、はしかから守るか」と、予防接種の大切さについて伝えてきた。

「数キロ先から、遊牧民の父親が何人もやって来て、子どもに予防接種を受けさせていました。私たちのチームから集団予防接種について聞いたそうです。その中の1人は、自分の部族のところまで私たちを連れて行ってくれて、他の子どもたちもみんな予防接種を受けられるようにしてくれました」と、ベルトールドは話す。

MSFは、医療機関への支援も拡充している。首都ンジャメナでは、MSFの入院栄養治療センター(2018年7月に設置)だった場所を、はしか科に転用。ここでは、子どものはしか患者の入院治療をしている。

21カ所あるMSFの支援先診療所では、これまでに1500人の患者が治療を受けた。また、MSFは地域保健担当者270人と共に、はしか患者の発見にも支援に力を入れている。そこで発見できた、子どものはしか患者は、医療機関に搬送している。 

はしかと栄養失調は「死のコンビ」

MSFスタッフから、栄養失調状態を確かめる「命のうでわ」を腕に巻かれる子ども © Juan Haro
MSFスタッフから、栄養失調状態を確かめる「命のうでわ」を腕に巻かれる子ども © Juan Haro

国をあげての流行対策も、十分とは言い難い。MSFは昨年、アム・ティマン市以外でも集団予防接種をした。

だが、子どもたちを、いわゆる免疫で守られた状態にするには、全体の95%に予防接種を受けさせる必要がある。チャドはこの状況には程遠い。5歳未満の子どものうち、3人に1人(37%)しか、はしかの予防接種を受けていない。保健当局が発表した最新のデータによると、一般的な子どもの病気に対し、免疫を完全に獲得している子どもは、わずか4人に1人だという。

「チャド保健省と国際団体は、協力しあって流行を食い止める必要があります」と、MSFの活動責任者、マルタン・ブラアクスマは話す。

「全国規模の集団予防接種を5歳未満の子ども全員に受けさせなければ、夏の食料不足で起きる飢餓をきっかけに、栄養失調の子どもたち数十万人の命が危険にさらされる可能性があります。全国規模ではしかの無償治療体制を確立していく必要もあります」

特に栄養失調とはしかは、患者の命を脅かす「死のコンビ」と呼ばれている。はしかは栄養失調の状態をさらに深刻にし、栄養失調による免疫低下は、はしかを重症化させるからだ。

ブラアクスマは、「チャドの子どもたち全員が、完全に免疫をつけて初めて、将来のはしか流行を未然に防げるようになります。毎年訪れる流行の悪循環を断ち、何千人もの子どもの命を守ることができます」と話している。 

MSFは1981年からチャドで活動。MSF緊急対応チームは、病気の流行をはじめとした緊急事態に対し、無償で質の高い治療を提供するほか、集団予防接種などを実施している。 

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