銃撃によるけがで足の骨を失った人びと 日本人整形外科医も治療

2019年02月06日掲載

ユスリさんのレントゲン写真をみるMSFの外科医。© Jacob Burns/MSFユスリさんのレントゲン写真をみるMSFの外科医。© Jacob Burns/MSF

ここは、パレスチナ・ガザ地区北部のジャバリア市のアル・アウダ病院。パレスチナ人の男性、ユスリさん(仮名)は、すねを切開する手術を受けた。ユスリさんは2018年7月、参加した抗議活動で、イスラエル軍に撃たれ、ひざ下をけがした。そのため、すねの骨の一部を失った。MSFの外科医らは、ユスリさんの骨盤から採取した骨で、すねの骨を補う手術をした。ユスリさんが、歩けるようになるためだ。

手術したMSFの日本人整形外科医「回復には時間が必要」

ユスリさんの足を手術するMSFの整形外科医、村上裕子医師(右)。© Jacob Burns/MSFユスリさんの足を手術するMSFの整形外科医、村上裕子医師(右)。© Jacob Burns/MSF

MSFの日本人整形外科医、村上裕子医師は、まずメスで丁寧に皮ふを切開し、そっと目的の骨をむき出しにした。骨盤から骨を削り取った後、慎重に形を整え、足に移植するのだ。「骨が癒合するまで、少なくとも2~3カ月かかるでしょう」と村上医師。

「もっと長引く可能性もあるかもしれません。全て順調か、経過を見ます。順調であれば創外固定器を外し、理学療法を始められます。回復には、時間が必要ですね」 

抗議活動「帰還の行進」で、イスラエル軍の攻撃によりけがをした人を運ぶガザ市民。(2018年5月撮影)抗議活動「帰還の行進」で、イスラエル軍の攻撃によりけがをした人を運ぶガザ市民。(2018年5月撮影)

ガザでは2018年3月30日から、パレスチナ難民の帰還を求める抗議活動「帰還の行進」が始まった。パレスチナの人びとは、ガザとイスラエルを隔てるフェンス沿いで抗議をしているが、イスラエル軍は境界線に近づくガザ市民を銃撃している。

イスラエル軍による実弾で、これまでにパレスチナの6174人が負傷。その9割近くが足など下半身にけがを負った。MSFは、地元病院で初期治療を受けた負傷者の約半数に対応した。中には、重傷患者もいた。重症患者の半数は、骨がむき出しの複雑開放骨折を負っていた。残る患者は、大部分で深刻な組織や神経の損傷がみられた。また、患者の多くが足の骨を失っている。 

むきだしの患部…難しい症例

MSFの外科チームが、サリムさんの足を手術する様子。© Jacob Burns/MSFMSFの外科チームが、サリムさんの足を手術する様子。© Jacob Burns/MSF

すねの骨を6センチ失ったサリムさん(仮名)。欠損の範囲が大きく、単純に骨の移植ともいかない。ガザ出身のMSF外科医、モハメド・オバイド医師によると、難しい症例になるという。

「むき出しの患部がありました。開放創で皮ふも失われていたため、4週間前に形成外科医が、足の別の場所から採取した筋組織でその傷を覆いました。今後、再び傷を切開し、きれいにして、骨セメントを入れていきます」

このセメントとは、ガソリンのような刺激臭のある接合剤。はじめのうちは弾力性があり柔らかく、外科医が骨の欠損部にねじ込み、必要な形に整える。セメントは短時間で硬化し、6~8週間後には、患部を骨移植の受けられる状態にする。

「骨に感染症がなく、傷を覆っている組織片の状態が良いことが確認できたら、その部分を再切開して、セメントを取り除き、骨を移植します」

ただ、特に重症だった場合、ガザでは必要な治療がなかなか受けられない。この辺一帯は、人口過密な上、10年前から封鎖されている。また、さらに前から隔離されてきた。

そこで、MSFは、ガザの患者を、ヨルダン首都アンマンの再建手術病院に引き継ごうとしている。だが、手続きは複雑で、様々な管轄局から移動許可を得なければならない。その許可が下りないことも多い。

負傷者をアンマンの病院へ…

先日、抗議活動での負傷患者を初めてアンマンの病院に転院させることになった。患者は、イヤドさん(22歳)。抗議活動に参加していたが、特に凄惨だった2018年5月14日に銃撃された。足の修復のため、骨移植と再建手術が必要だ。現在のガザの保健医療では、こうした手術は限られた患者にしか提供できない。

「先週はうんざりして、落ち込んでしまう日がありました。足の治療が、遠い夢のことのように思えたからです。でもその日の晩、MSFから電話があって、こう言われました。『イヤドさん、木曜に出発ですよ』と。それからは、私の中で喜びが大きくなっていきました。私自身のことだけではなく、家族ら大切な人たちみんなを思ってのことです。今でも信じられません」

既にアンマンで、骨の再建手術が始まっているという。元の暮らしに戻る望みをかけている。 

活動概要

MSFは、カザでの医療ニーズの高まりを受けて、活動規模を拡大。今も、銃撃による負傷者900人を治療している。患者の数は、抗議活動の最も盛んだった時期から比べると減った。だが、手術件数は増加。2018年4月は109件だったが、12月は302件とおよそ3倍となった。

手術の必要性が高まり、多くの患者が継続的な医療を必要としているが、まだそのニーズを十分に満たしているとはいえない。

ガザでの他の日本人医師らの活動については、こちら。 

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