連載「ことばは国境を越えて」 第3回:ジャガイモと1杯の紅茶(2)

2020年09月18日掲載

(2)カレーパンと笑顔

イエメンの子どもたちと © MSFイエメンの子どもたちと © MSF

国境なき医師団(MSF)の手術室看護師として多くの活動地への派遣経験を持つ白川優子が、活動地の人びととの触れ合いから得た思いをつづった連載コラム※を、抜粋してご紹介します。

2016年、内戦が激化するイエメンでの活動に当たった白川。迎えてくれたのは、現地のスタッフたちからの温かく手厚いおもてなしでした。

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手術室スタッフたちとは、よく病院の敷地内の芝生の上などで、車座になってランチを食べた。メニューは、トマトベースで煮込んだスープだったり、ジャガイモたっぷりのカレーだったり。そしてだいたいいつも大きな丸くて平たいパンが何枚も重ねて運びこまれた。

彼らは一口大にちぎったパンの片端を丸めて、小さな円錐形を作り、それでスープやカレーをすくって、そのまま口に運んでいた。真似してみたが、慣れないうちはなかなかうまくいかない。円錐の先端からスープやカレーがこぼれてしまい、衣服につかないようによけながらきゃーきゃー騒いだ。そんな私を見て笑うスタッフたちは、素早くティッシュを回してくれたり、きれいな円錐形にしたパンに、スープをすくって渡してくれたりした。私がお腹いっぱいになって手が止まっても、「まだまだどんどん食べて」とばかりに、何かおかずが包まれたパンが差し出された。

ランチは現地スタッフの誰かしらが、いつも用意してくれた。スタッフの大半は男性で、その妻の手料理というパターンが多かった。あるスタッフが「今日のランチは俺の妻が作った料理だ」と嬉しそうに、自慢気に朝からみんなに宣伝する。そして食後には別のスタッフが「YUKO、明日は俺の番だよ」などと言い、翌日にはまたその家の料理が持ち込まれる。妻や子どもが誇らしげに、そして楽しそうに大きな鍋やタッパーを夫や父親の仕事場である病院へと運び込んでいた。

現地スタッフとのランチタイム © MSF現地スタッフとのランチタイム © MSF

 みんなでお金を出しあって、現地スタッフが病院の外のマーケットで買ってくることもあった。ただ、お金を出しあうといっても、現地スタッフたちは、決して私たち海外スタッフからお金を受け取ろうとしなかった。それはどんな場面においてもそうだった。私たちは病院の敷地内から外出できないため、ときどき足りない日用品などの購入を現地スタッフに頼むことがあった。ハンドクリームだったり、髪ゴムだったり、サンダル、衣服、スカーフなどのときもあったが、代金を決して受け取らない。彼らに負担をかけるので、買い物を頼むのはやめたほうがいいかもしれない、と海外派遣スタッフ同士で話しあったこともあった。

半年後のイエメンは……

それから半年後の2016年11月。
私は再び、同じ地にたどり着いた。前回は6週間と短い派遣期間であったが、今度は3カ月。一緒に食事の時間を楽しく過ごした、あのときと同じ顔ぶれのスタッフが待っていてくれた。

前回の派遣で私が技術を教えた新人看護師3人は、独り立ちして働いていた。
手術室は前回よりも忙しくなっていた。相変わらず空爆や銃撃の被害者は運びこまれていたし、産婦人科医師のいないこの病院では、帝王切開のケースが緊急で飛びこんでくることも珍しくはなかった。

ある日、銃で撃たれた男の子の手術を終えたときだった。外傷の治療は1度の手術では終わらない。数日おきに手術室で治療が繰り返される。この男の子も何度目かの治療だった。私は彼の膨らんでいるお腹が気になり、医師に報告した。便が溜まっているのであれば、浣腸などの指示が出るかもしれない。ところが、診察に来た医師から聞かされた言葉に驚いた。
「これ、栄養失調のお腹だよ」

前回の派遣では耳にしなかった、栄養失調という言葉に不安を覚えた。もともと貧困国だった上に、長年戦争が止む気配がないイエメン。国家の経済がすでに破たん寸前だとも聞いていた。空爆などで自宅を追われた国内避難民が続出し、MSFも難民キャンプへの支援を強化していたが、食料が足りていないのだろうか。栄養が悪いと傷の治りも悪くなってしまう。

(「ジャガイモと1杯の紅茶(3)」へ続く)

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※このコラムは「情報・知識&オピニオン imidas」で連載中の「『国境なき医師団』看護師が出会った人々~Messages sans Frontieresことばは国境を越えて」を改題・再編集したものです。
原文はこちらから⇒「第7回 ジャガイモと1杯の紅茶

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