連載「ことばは国境を越えて」 第3回:ジャガイモと1杯の紅茶(1)

2020年09月11日掲載

(1)イエメン人のおもてなし

手術前に患者さんを励ます白川 © MSF手術前に患者さんを励ます白川 © MSF

国境なき医師団(MSF)の手術室看護師として多くの活動地への派遣経験を持つ白川優子が、活動地の人びととの触れ合いから得た思いをつづった連載コラム※を、抜粋してご紹介します。

第3回は、前回に続いてイエメンでの活動について。2016年に2度イエメンに派遣された白川が見た、現地の“変化”とは?

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MSFの看護師としての過去17回にわたる海外派遣のうち、イエメンへの派遣回数は4回にのぼる。初めてイエメンに入ったのが2012年で、南部の都市、アデンに派遣された。そこで私が見たものは、空爆や銃撃、仕掛けられた爆弾などの被害によって血を流す人間の姿だった。
2015年、イエメンでは本格的な内戦が始まった。MSFはイエメン国内での活動場所やチームの数をさらに増やし、医療援助を強化した。私もその中の一つ、医療が不足している北部山岳地帯をめぐって医療活動を行うチームに加わった。

そして、2016年。イエメン内戦は、もはや政府軍、反政府軍だけの争いではなく、それぞれの勢力を支援する第三国がイエメンの土地で争う代理戦争と化し、泥沼へと向かっていた。今回は、2016年に2度派遣された際の、現地スタッフとの交流について語りたい。

MSFの現地スタッフ

MSFでは、いくら医療が不足している地域への援助を強化したくても、人員の安全を第一に重視するという観点からすると、多くの海外派遣スタッフを現地に送り込むことが実は難しい。人を増やせばその分リスクが高くなるからだ。そこで頼りになるのが、現地のスタッフ。2018年の統計では、4万7000人のスタッフのうち、3万9000人が地元スタッフだ。MSFが直接雇用することもあるが、現地保健省や病院などを通して雇用するなど、形態は状況によってさまざまである。

3回目に私が派遣されたのは、イエメン南西部のイッブ州南部。反政府軍からは包囲され、政府軍を支援するサウジアラビア連合軍からも激しく攻撃を受けていたタイズという街から、北東に約20キロ離れたところにイエメン政府が運営する病院がある。MSFは2015年からこの病院の多角的な支援を行っている。政府が運営する病院ではあったが、運びこまれる負傷者は、一般人はもちろん、政府側、あるいは反政府側の関係者であろうと受け入れていた。私は看護師としてこの病院の手術室スタッフの管理を任されることになった。

病院に来ていた人びととお茶をする白川 © MSF病院に来ていた人びととお茶をする白川 © MSF

イエメン人と祖母の「おもてなし」

私の仕事場である手術室は病院建物の1階にあり、中はまずまずの広さで、手術部屋と、滅菌室、麻酔回復室があった。
手術室にはもともとその病院で雇用された看護師、滅菌担当、掃除係が全部で15人配属されていた。私はこの15人をまとめる手術室の看護師長という任務を請け負ったのだが、このメンバーと過ごした6週間は、楽しく一緒にご飯を食べた、という記憶でいっぱいだ。

私たち海外派遣スタッフは、宿舎に朝昼晩の食事を作ってくれる担当の人がいたので、ランチの時間を見計らって宿舎の食卓に戻ればよかったのだが、現地スタッフたちは昼食を自分で済ませることになっていた。そして彼らはいつも、一緒にランチを食べようと言って、私や、別の海外派遣スタッフである外科医や麻酔科医を誘ってくれるのだった。

イエメン人の客人に対するおもてなしは手厚い。そしてそれはいつも食事と密接だった。食事でもてなす、食事を共有する、ということは、彼らの慣習であり、喜びのようだった。私はイエメンで何度も活動を重ねるうちに、そのことを実感するようになった。例えば病棟で、たまたま患者さんが何かを食べているときにそばを通ると、「一緒にどう?」と言わんばかりに自分の食べているパンをちぎって差し出してくる。それがバナナだったり、ナッツだったりもする。

そのようなイエメン人の姿は、埼玉の実家で一緒に住んでいた祖母を思い起こさせた。あれを食べろ、これを食べろ、といつも何か食べ物を与えてくれた。お汁粉を作って、「お餅は何個?」と聞くので「2個」と答えると、必ず3個入れるような祖母だった。「いらない」と言っても、お餅を一つ入れたお汁粉を渡された。それは祖母の愛情だと感じていた。

「ジャガイモと1杯の紅茶(2)」へ続く)

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※このコラムは「情報・知識&オピニオン imidas」で連載中の「『国境なき医師団』看護師が出会った人々~Messages sans Frontieresことばは国境を越えて」を改題・再編集したものです。
原文はこちらから⇒「第7回 ジャガイモと1杯の紅茶

目次  連載「ことばは国境を越えて」(看護師・白川優子)

第1回:紛争地からの"ひとりごと"

第2回:シーツに込められたメッセージ 第3回:ジャガイモと1杯の紅茶

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