砂漠に開いた診療所 国を追われた人びとを支え続けた6年間

2019年01月24日掲載

モーリタニア南東部のムベラ・キャンプで暮らすメスードさんとメラッサちゃんモーリタニア南東部のムベラ・キャンプで暮らすメスードさんとメラッサちゃん

「2012年からここで暮らしています。地元が紛争で破壊され、逃げてきたんです。息子が熱を出したので、今日は受診しました。ここが最寄りの病院で、いい治療が受けられるので」

サハラ砂漠の南部で国境なき医師団(MSF)が運営する病院を訪れたファヤ・ワレット・アルファキさんは、息子ボッサくんの傍らでほほ笑んだ。 

ファヤさん(左)とボッサくん(中央)。ムベラ難民キャンプのMSF病院内にある外来栄養治療センターでファヤさん(左)とボッサくん(中央)。ムベラ難民キャンプのMSF病院内にある外来栄養治療センターで

MSFは、ここモーリタニア南東部の砂漠地帯で6年前から緊急援助を続けてきた。発端は、2012年2月に隣国マリで発生した紛争だ。戦闘を逃れ、モーリタニアに逃れる難民が急増。MSFは直後からマリ人難民と地元住民を対象に、医療活動を開始した。 

MSFがムベラ難民キャンプ内に開いた医療施設の外観 MSFがムベラ難民キャンプ内に開いた医療施設の外観

その後は、ムベラ難民キャンプに身を寄せる避難者と、受け入れ先であるバシクヌー・ファサラ地区の住民に緊急医療と基礎医療を提供してきた。複数の診療所で活動するほか、ネマ市の地域病院も支援し、援助を必要とする人びとのために保健医療を提供した。 

急性マラリアにかかった息子モハマドちゃん(1歳2ヵ月)を連れ、MSF病院の小児病棟を訪れたファディマタさん。「もっと近い場所にも病院はありますが、MSFは質の高い治療が受けられるので、遠く離れていてもここに来ます。息子はよくなっています」急性マラリアにかかった息子モハマドちゃん(1歳2ヵ月)を連れ、MSF病院の小児病棟を訪れたファディマタさん。「もっと近い場所にも病院はありますが、MSFは質の高い治療が受けられるので、遠く離れていてもここに来ます。息子はよくなっています」

2018年までにモーリタニア保健省とともに行った診療は計100万件超。ここには産前・産後ケア、家族計画、産科・新生児科医療、慢性疾患・感染症の診療、栄養治療プログラムが含まれる。 

生後2日の新生児を抱えMSF病院に来たラマトゥさん。マリ出身の遊牧民で、紛争を逃れてムベラ・キャンプ近くのブッシュに身を寄せる。「出産直後に赤ちゃんが吐いたので入院しました。言葉が通じないためジェスチャーで話しています」生後2日の新生児を抱えMSF病院に来たラマトゥさん。マリ出身の遊牧民で、紛争を逃れてムベラ・キャンプ近くのブッシュに身を寄せる。「出産直後に赤ちゃんが吐いたので入院しました。言葉が通じないためジェスチャーで話しています」

2013年以降は入院治療8500件以上、2014年以降は整形外科・内臓外科・帝王切開などの外科処置を約1500件提供。さらに高血圧や糖尿病といった慢性疾患の患者1000人以上を治療した。

2017年には精神保健プロジェクトで約100人を支援。また、バルケオル診療所にも産科を設け、医療器具などの物資を提供している。 

帝王切開で生まれた新生児をケアする外科スタッフ。MSFが実施する外科手術の3分の1は帝王切開だ帝王切開で生まれた新生児をケアする外科スタッフ。MSFが実施する外科手術の3分の1は帝王切開だ

2018年は、8月と10月の2回にわたり、ムベラ難民キャンプとバシクヌー地区で多抗原ワクチンの集団予防接種を展開。0~5歳児7000人以上と女性1万8000人にジフテリア、破傷風、ポリオ、結核、はしかなどのワクチンを接種した。 

村を訪れ、農場で予防接種を行うMSF看護師と、お母さんに抱かれたモハマドちゃん(生後4ヵ月)村を訪れ、農場で予防接種を行うMSF看護師と、お母さんに抱かれたモハマドちゃん(生後4ヵ月)

2018年11月に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表したデータによると、ムベラ・キャンプには依然5万7000人のマリ難民が身を寄せている。母国の情勢不安により帰国は進んでいないものの、キャンプそのものの状況は以前よりも安定した。 

ムベラ・キャンプのMSF病院に併設された研究所のリーダー、マリエム(26歳)はモーリタニア出身。「専門の生物学を人道援助に生かしています。田舎暮らしは大変ですが、毎日、満足した気分で帰宅できます——自分も、人命を救う活動に参加しているのだと」ムベラ・キャンプのMSF病院に併設された研究所のリーダー、マリエム(26歳)はモーリタニア出身。「専門の生物学を人道援助に生かしています。田舎暮らしは大変ですが、毎日、満足した気分で帰宅できます——自分も、人命を救う活動に参加しているのだと」

こうした現状を受け、MSFは緊急援助活動から保健活動を主体とした活動へ移行できると判断し、国際NGO「ALIMA(国際医療活動同盟)」にプロジェクトを引き継いだ。2009年からアフリカ西部・中部の約10ヵ国で活動するALIMAは、緊急事態が収束した後の支援・復興分野での高い能力と経験を備えた団体だ。 

粉ミルクを積んだ荷台を運ぶロバ。ムベラ難民キャンプにて粉ミルクを積んだ荷台を運ぶロバ。ムベラ難民キャンプにて

ALIMAはUNHCRの支援を受け、保健省とも連携しながら、MSFの活動を受け継ぐ見通し。MSFも引き続き、モーリタニアをはじめサヘル地域の人道危機に応じられるよう態勢を維持していく。

「状況はずいぶん落ち着きましたが、いまだ不安定です」モーリタニアのMSF活動責任者、ルネー・コルゴはそう話す。「緊急医療団体として国内の保健状況を注視し続け、必要に応じて援助できるよう備えていきます」 

MSFは1981年にサヘル地域での活動を開始。モーリタニアでは1994年から活動してきた。現在はブルキナファソマリニジェールチャドなどで合計15件余りのプロジェクトを展開。基礎医療、小児医療、周産期医療(産前・産後ケア、家族計画、産科ケア)を提供するほか、慢性疾患と感染症への対応や緊急手術を行い、栄養プログラムを運営する。さらに感染症と緊急事態に備え、マリとチャド一帯にもチームを派遣している。 

関連情報