危機が続くマリ 医療が遠い人びとの苦悩

2019年04月03日掲載

妊娠中の患者のケアをするMSFの助産師 © Lamine Keita/MSF妊娠中の患者のケアをするMSFの助産師 © Lamine Keita/MSF

マリ中央部モプティ州ドゥエンザ。アダマさんは、出産間近の娘、マリアムさんに付き添ってMSFが支援する病院に来た。ここなら、娘も助産師に助けられて出産できるだろう。アダマさんと娘の住まいは遠く離れた農村にあるため、町への旅は楽ではなかった。「危機が始まって以来、病院に来る途中で強盗に遭うのではないかと心配でした。持ち物を盗まれたり、襲われたりするのではないかと思って……。大勢の人が路上で命を落としています。強盗に襲われた時にお金がなかったら、叩きのめされます。危機のせいで、自由もなくなりました」とアダマさん。

アダマさんの言う危機が始まったのは、2012年3月。反政府武装勢力がマリ北部を占領し、モプティ州政府と政府軍との戦闘を開始した。2015年には政府と武装勢力とが和平合意を結んだが、マリ中央部では危機が続いており、情勢は不安定なままだ。

MSFが支援するドゥエンザの病院で © Pape Cire Kane/MSFMSFが支援するドゥエンザの病院で © Pape Cire Kane/MSF

背景には、反政府武装勢力以外にもある。一部の地域では、牧畜で生計を立てているフラニ族と、農家が大半を占めているドゴン族による、地元住民同士の争いも起きている。

モプティ州でも、軍事作戦が数ヵ月間続いている。軍事作戦を支えているのは、フランス軍と国連平和維持部隊のほか、G5サヘル合同軍である。マリ軍事当局は複数の治安維持措置を発令。夜間の外出が禁止されたほか、オートバイと二輪駆動のピックアップトラックによる移動が禁止されている。人びとは移動を制限され、必要なときに医療を受けることも難しくなっている。「大変です。村に医療従事者はいないし、一番近い医療機関といえば15km離れているのですから」と、ウスマンさん。重症マラリアの治療を受けさせようと、5歳になる息子のスマリアくんをドゥエンザに連れてきたところだ。「荷車に乗って、やっとたどり着きました」とウスマンさんは話す。

MSFの無料のヘスルケアを待つ母親と子ども © Seydou Camara/MSFMSFの無料のヘスルケアを待つ母親と子ども © Seydou Camara/MSF

ヘルスケアを提供する多くの援助団体は、暴力と危険に阻まれ、活動を十分にできないでいる。公的医療機関も例外ではなく、援助団体は活動を縮小するか、この地域から完全に退避している。紛争の激戦地である農村は特に、こうした状況に陥っている。

MSFのチームは、2017年からドゥエンザで活動し、無償の医療を提供する。だが、患者がドゥエンザ病院に来るのは、大抵、重体になってからだ。「(危機に伴う)危険、恐怖、医療アクセスなどのさまざまな制約のため、容体がよほど悪くなってからでないと患者は診療所へ来たがりません」と、MSFのプロジェクト・コーディネーター、バダマスィ・アブドラヒムンは話す。

「患者の治療さえ難しいことがあります。症状が末期になってから病院に来る人が多いからです」

医療が届かない人たちに医療を

ディアファラベで活動するMSFの移動診療所 © Lamine Keita/MSFディアファラベで活動するMSFの移動診療所 © Lamine Keita/MSF

モプティ州西部テネンクー圏。近くをニジェール川が流れる地域だ。MSFはここの病院支援にあたっているが、雨期になるとニジェール川とその支流は定期的に氾濫。多くの村が孤立する。移動は、ほぼ不可能になる。「物騒なので、できないことはいろいろありますが、雨期になると本当に大変になります。毎年7月と12月の間には、洪水のせいで地域全体が、いつもよりもさらに孤立します。そこに通じる道も通れなくなります」と、MSF活動責任者を務めるフレデリック・ダマルヴワズィーンヌは話す。

そのためMSFは、医療チームを派遣して、孤立した住民に医療を届ける活動に取り組む。戦闘によってドゥエンザに行けずにいる住民を対象に、農村のボニ、オンボリ、モンドロの診療所3ヶ所に活動を拡大。2018年8月~2019年1月の間に、この3ヵ所で2万1800件以上の診療を行った。テネンクーでは、移動診療によって基礎的な医療を担うとともに、最重症患者はテネンクー病院に搬送した。 

ディアファラベの移動診療所で、診察を待つ患者ら © Lamine Keita/MSFディアファラベの移動診療所で、診察を待つ患者ら © Lamine Keita/MSF

移動診療チームは定期的に避難先を訪問している。例えば2017年11月、テネンクーの南にあるディアファラベのマンバ村が襲撃された。そのため、数百人が避難して来ている。報道によると、この襲撃で11人が亡くなったという。 

MSFによってボートで川を渡り、移動診療所に向かう親子。11人が殺された村から家族で逃げ出した © Lamine Keita/MSFMSFによってボートで川を渡り、移動診療所に向かう親子。11人が殺された村から家族で逃げ出した © Lamine Keita/MSF

カセ・チューテさんもディアファラベから避難した。カセさんは11月の出来事について次のように語る。

「ある日、武装兵士が村に来て11人を殺しました。すぐに大勢の人が逃げ出しました。私たちの向かった先は、ディアファラベです。子どもと義理の母、姉たちと一緒でした。みんな病気で具合が悪くなってしまいましたよ。いまでも怖いのです。ひどい体験でしたから。夜になると全く同じ光景を夢に見ます。もう村には帰りたくありません」

マリの活動概況

MSFはマリ中部モプティ州ドゥエンザとテネンクーにある医療機関と患者の搬送を支援している。MSFはドゥエンザ近郊にある地域の診療所3ヵ所の支援も開始した。他にも、マラリアを専門とする医療従事者をテネンクー内のへき地に派遣している。診療所が全くない地域などで移動診療も運営し、医療を届けている。2018年には、モプティ州で5万3000件余りの診療を実施。このうち1万2000件は移動診療によるものであった。また1200件の分娩を取り扱い、400人近い重度栄養失調児を治療した。 

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