保護者のいない子どもも──中米の移民、危険な道のりで心身に大きな負担

2022年05月09日
大人の付き添いがなく移動している子どもも多い © MSF/Esteban Montaño
大人の付き添いがなく移動している子どもも多い © MSF/Esteban Montaño

メキシコと国境を接する、中米グアテマラの町。メキシコを経由して米国を目指す人びとや、米国による強制送還で戻ってきた人びとが大勢行き来している。

移動する道のりでは、所持品の強奪や性暴力が頻発しており、極めて危険だ。多くの人が精神的にも肉体的にも大きな負担を抱えながら長い旅路を移動している。

約100万人が危険な道のりを

中南米では何十年も前から多くの移民が移動しているが、米国による移民の強制送還と、移住を不法とする当局の対応により、移民をとりまく状況が悪化。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によると、約100万人の人びとが、強奪や搾取、拷問、性暴力、レイプ、拉致などの危険がある道のりを選ばざるを得なくなっているという。

グアテマラとメキシコ国境地帯は、そうした状況が顕著な場所だ。連日、多くの人びとが移民管轄局の見ていない中で北上し、危険で非公式な場所から国境を越えようとする。一方、米国やメキシコから退去させられ、自国に帰っていく人も多い。どちらの人びとも、さまざまなニーズがありながら、担当機関の対応を受けられずにいる。

移動の道のりで経験したことで心に傷を負うことも。MSFでは心のケアにも当たっている © MSF/Esteban Montaño
移動の道のりで経験したことで心に傷を負うことも。MSFでは心のケアにも当たっている © MSF/Esteban Montaño

強制送還された人びとが到着する町

このような状況を受け、国境なき医師団(MSF)は昨年11月、メキシコと接するグアテマラの複数の地域で援助活動を開始した。

サン・マルコス県のテクン・ウマンでは、強制送還され故郷に帰る人びとが毎日何十人も到着するバス停留所と滞在施設のそばの診療所で活動。ここには保護者のいない子どもたちもいる。また、ウェウェテナンゴ県のネントンでは、通過する移民だけでなく、困窮している地元住民にも援助を提供している。

ミリアム・エルナンデス <br> © MSF/Esteban Montaño
ミリアム・エルナンデス
© MSF/Esteban Montaño
テクン・ウマンで移動援助活動コーディネーターを務める医師のミリアム・エルナンデスはこう話す。
 
「多くの人が健康上の問題を抱え、様々なリスクに直面して精神的なダメージを受けた状態で到着しています。過酷な移動で健康を損ない、呼吸器系の病気や、食事の質の悪さによる下痢に苦しんでいる人たちも少なくありません。保護者のいない子どもも多く、週2回、送還された子どもたちを乗せたバスが到着するのを見るのは心が締め付けられます。
 
私たちは医師、看護師、心理療法士、ヘルスプロモーター、ソーシャルワーカー、ロジスティシャンからなるチームを編成し、基礎診療や心のケア、健康を守るための啓発、必要な情報の提供を行うほか、飲用水の供給を行っています。診療の件数はすでに600件以上に上りました」

また、ペテン県では性暴力を含むさまざまな形の暴力にさらされることが多いため、MSFは移民経路を通過する人びとを対象に、必要な手当や、危険についての情報提供を実施。県都フローレスでは、ワクチン接種、家族計画、性感染症対策といった包括的な予防策を提供するなどの活動を行っている。
多くの移民が使うバス停留所のそばで援助活動を行っている © MSF/Esteban Montaño
多くの移民が使うバス停留所のそばで援助活動を行っている © MSF/Esteban Montaño

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