コンゴ:性暴力、戦闘、栄養失調にあえぐ人びとへ医療を届ける——MSF、カサイ地方で新たなプロジェクトを始動

2018年10月16日

MSFが支援するカナンガ病院の心理相談室。女性は市場で買物中、武装兵に襲われ性的暴行を受けたMSFが支援するカナンガ病院の心理相談室。女性は市場で買物中、武装兵に襲われ性的暴行を受けた

2016年8月から広い範囲で武力衝突が発生したコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)カサイ地方。ピーク期には5000人余りの命が奪われ(※1)、約140万人が住まいを追われた(※2)。この数ヵ月間で数十万人の住民が地元の村へ戻っているが、援助はまだまだ足りていない。 

  • コンゴの人権状況に関する国連合同人権事務所(BCNUDH)2017年次報告
  • 国際移住機関(IOM)、2018年3月

マシェット(大きな草刈り鎌)で襲われ負傷した男性患者。自宅は民兵に放火されたマシェット(大きな草刈り鎌)で襲われ負傷した男性患者。自宅は民兵に放火された

国境なき医師団(MSF)は、2017年5月からカサイ地方での緊急対応を開始。情勢不安の影響で、地域医療は崩壊寸前だ。
「この1年半は、性暴力の被害者、栄養失調の子ども、手術を必要とする重傷患者に医療援助を提供して来ました」。コンゴのMSF医療コーディネーター、ヒルデ・フォホテン医師はそう話す。 

カナンガ病院に勤務するMSF医師らカナンガ病院に勤務するMSF医師ら

 「医療施設での診療だけでなく、遠方の村々にも移動診療や視察に赴き、へき地に暮らす住民へ医療を届けるのが目標です——紛争の被害が大きいのは、そういった地域ですから。私たちは活動を強化し、引き続き地域医療を支えていきます」

川で汲んだ水を自宅へ運ぶ女性グループ川で汲んだ水を自宅へ運ぶ女性グループ

カサイ地方の5ヵ所で活動

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MSFは現在、カサイ州の州都ツィカパ、ツィバラ、カケンゲ、中央カサイ州の州都カナンガ、ツィクラで医療プロジェクトを運営している。

2017年5月から性暴力被害者へのケアを提供していた中央カサイ州立カナンガ総合病院では、休止していた外科活動を再開。また、ツィクラ保健区域でも心理ケア、小児科、救急の新規プロジェクトに着手した。

一方、栄養治療のプロジェクトを運営していたツィバラ保健区域からは撤退。突発的な戦闘と人口移動の影響で、人道援助のニーズが刻々と変化しているためだ。 

性暴力の被害者を支援/カナンガ(中央カサイ州)

MSFは2017年5月から州立カナンガ総合病院を支援。現在MSFスタッフ76人が勤務し、性暴力被害者や紛争負傷者への医療・心理ケアなどの領域で、質の高い専門医療を無償提供している。

2017年5~12月は救急診療1502件、入院治療430件、外科手術1624件を行った。最もよく見られたのは銃創や刺し傷だった。紛争で負傷した患者の数は減少傾向にあったため、MSFは治療方針を変更し、性暴力被害者のケアに重点を移した。

性暴力被害者のケア施設で診療を待つ女性たち性暴力被害者のケア施設で診療を待つ女性たち

 2018年初頭からカナンガ周辺で緊張状態が続き、避難した民間人が医療を受けられない状況にあったため、MSFは9月以降、負傷者の外科・入院治療を再開。必要に応じて術後ケアや心理ケアも行っている。

14万人に専門医療を届ける/ツィクラ(中央カサイ州)

この地域の人口は14万人超。地元の医療施設は武力衝突の被害を受けている。MSFは2018年10月上旬から、ツィクラ総合中央病院と周辺の診療所6ヵ所で活動を開始し、60人編成のチームを配備。 

発熱した子どもに付き添う母親。カナンガ中央病院にて発熱した子どもに付き添う母親。カナンガ中央病院にて

今後数ヵ月にわたり、栄養治療、妊産婦ケア、小児科、心理ケア、内科・外科、救急に無償で対応する。外科治療が必要な急患をカナンガへ紹介するための病院連携システムも整備する予定だ。また、地域医療を今後も継続できるよう、診療所の修復も視野に入れている。 

紛争の余波で子どもの栄養失調が深刻に/ツィバラ(中央カサイ州)

州全域に波及した武力衝突の発生源で、人口は約26万6000人。大勢の命が失われ、住まいを追われた。

MSFが2017年9月に実施した調査で栄養失調率の高さ(※)が明らかになり、12月から5歳未満の重度急性栄養失調児への治療を開始。40床を擁する入院栄養治療センターに加え、外来栄養治療センター12ヵ所を開設した。

  • ツィバラとカロンバの両保健区域で2017年11月にMSFが行った死亡率調査によると、急性栄養失調率はツィバラで6.3%、カロンバで12.4%だった。

外来診療を受ける子ども。重い栄養失調の場合は入院治療を受けることになる外来診療を受ける子ども。重い栄養失調の場合は入院治療を受けることになる

2017年12月~2018年9月の外来診療は2248件(※)、入院患者は437人だった。子どもの栄養失調や重度貧血、呼吸器感染症など、過酷な生活環境に起因する病気が多く見られた。

このプロジェクトでは、地域での健康教育も実施。各家庭を訪問し、栄養失調の兆候が見られる子どもを速やかに受診させるよう促している。患者数の減少に伴い2018年9月21日に活動を終え、カナンガにMSFチームを移した。 

  • うち1回の受診が1717人、2回以上が531人だった。

情勢の悪化を受け、地域の病院を支援/カケンゲ(カサイ州)

年明けから暴力行為が頻発し、避難者が急増した。MSFはカケンゲ中央総合病院と地域の診療所14ヵ所の医療活動再開を支援。3ヵ月後、状況の改善が見られたため、活動をコンゴ保健省と他団体に引き継いだ。4月初旬~6月末の実績は診療2万件超、入院治療600人、小児患者842人。主な疾患はマラリア、気道感染症、下痢、栄養失調だった。 

カケンゲ病院で傷の手当を受ける40歳の男性患者カケンゲ病院で傷の手当を受ける40歳の男性患者

戦闘の影響下にある住民をケア/ツィカパ(カサイ州)

 MSFは2017年6月~2018年4月の期間、ツィカパ市内の病院1ヵ所と診療所3ヵ所を支援し、戦闘の影響下にある住民をケアした。その後、援助が届いていなかった周辺地域へと徐々に活動を拡充。地元診療所のスタッフに対する研修や、医療器具などの寄贈を行った。

地元の診療所はたびたび略奪や放火の被害に遭った(2017年9月撮影)地元の診療所はたびたび略奪や放火の被害に遭った(2017年9月撮影)

加えて、性暴力被害者の治療約245件、心理ケア約500件、手術約450件、小児科診療約9700件を実施。18ヵ所に栄養治療センターも開設し、5歳未満の重度栄養失調児5755人を治療した。2018年初頭にはMSF以外の人道援助団体も参入したため、これらの活動を段階的に引き継ぎ、他の緊急事態に焦点を移した。 

MSFは1977年からコンゴで活動。紛争や暴力の被害者、国内避難民、コレラ・はしか・HIV/エイズといった感染症に対応している。エボラ出血熱の流行にも、最前線で医療援助にあたってきた。 

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