「自由を返してください」11歳の娘は車いすに……壮絶な家族の話

2018年08月24日

末娘ラシダ(8歳)末娘ラシダ(8歳)

 「政府から脅され、拷問されました。よりよい教育を受けたければ、国を出なければなりませんでした。政府に知られたら、捕まるからです。移動も厳しく制限されていました。決められたエリアしか動けませんでした。僧侶だったり、別の民族だったりすれば、どこでも自由に行けるというのに」

これはアブー・アマド(52歳)の証言だ。下半身まひの娘ルキア(11歳)を含む8人の子の父だ。2017年8月、ミャンマー軍による武力行使を引き金に、70万を超すロヒンギャの人たちが隣国バングラデシュに逃れた。それ以前から避難していた人を含めると計90万人を超す。アブーもその一人。障害がある娘の世話をしながらの逃避行と難民生活を想像できるだろうか。

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子どもたちを置いて

父アブー(52歳)父アブー(52歳)

「戦闘が広がりました。村人は殴られ、刺され、家屋に火を放たれました。娘ルキアの体はまひしてしまいました。原因はわかりません。痛みを訴え、腰から下の感覚を失ったのです」

「ある晩、子どもたちを呼び集め、話し合いました。希望はありません。捕まるか殺されるのが落ちでしょう。長男が切り出しました。『戦闘が悪化すれば、ルキアを連れては逃げられなくなる。そうなれば命はない』『父さんと母さんは今すぐルキアをバングラデシュに連れていくべきだ。僕たちは後で追いつくよ』」

「そこで私は妻サラと娘ルキアを連れて、出発しました。残る子たちに準備を整えるように言って」 

バングラデシュへ

「村は武器を持った政府の人間だらけでした。見つからないように出発しなければなりませんでした。山の中を何キロも歩き続け、途中で男性を雇って、ルキアを運んでもらいました。ようやく岸辺にたどり着いたのは深夜。対岸はバングラデシュでした」

「あたりには20~30人がいました。ボートが近づいてきて、全員を無事渡してくれました。バングラデシュ国境警備隊が待っていて、手厚く助けていただきました。水とビスケットをくれたんです。翌朝、バスでクトゥパロン難民キャンプへ連れてきてくれました」

「バスを降り、不安でした。バングラデシュは初めてだったからです。病気の娘をどこへ連れていけばよいのでしょう。行き交う人に聞いたところ、国境なき医師団(MSF)の病院を教えてもらいました。病院の医療スタッフは私の腕からルキアを抱え上げ、診てくれました」

「この病院でルキアは7ヵ月半ほどを過ごしました。医師らは日に何度も回診に来てくれ、レントゲンや輸血も受けました。妻と私も食事をいただきました」

妻サラ(46歳)妻サラ(46歳)

再会

「妻サラ、娘ルキアと共に家を出たとき、故郷はこんなひどいことにはなっていませんでした。事態はその後、想像を超えて悪化しました。置いてきた7人の子とはずっと音信不通でした。自宅は火をつけられ、子どもたちは逃げ出したと人づてに聞きました。電話も何も連絡手段はなく、不安でいっぱいでした」

「子どもたちと再会できたのは2ヵ月後でした。子どもたちは難民キャンプに無事着いて、ルキアのことを尋ね、国境なき医師団の施設にいた私たちを探し当てたのです。ようやく気持ちを落ち着けることができました。子どもたちが手元に戻って本当にうれしい。人生を取り戻したかのように感じます」 

車いすで

「難民キャンプでのルキアと一緒の生活はとても大変です。数日おきにキャンプの居住区を抜けて、病院へ送り迎えしなければなりません。坂だらけで、娘を抱えて運ばなければなりません」

「もしルキアが動き回れたら、どんなに幸せでしょう。車椅子であちこち連れていってと頼まれますが、坂道だらけで、そうもいかないのです。体にこたえて無理なんです」

「検査も治療を受けましたが、まひの原因は分からないままです。娘が歩けるように助けてくださいと、神様に祈っています。ルキアはときどき海外に連れていってほしい、治療を受けて、勉強できるようになりたい、と頼みます。いたたまれなくなります」

帰る日は

「不安でいっぱいです。将来の不安。食べ物、着るもの、平和。この苦しみは頭から離れません。1ヵ月、4年、5年、10年になるでしょうか。ずっとこの苦しみに耐えなければならないのです」

「私たちには故国、先祖の土地があります。平和が戻れば、帰るつもりです。ただ、条件があります。自由を返してください。家を返してください。土地、ウシ、ヤギを返してください」 

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