銃弾が腕に、心臓に──アフガニスタン、戦闘下で続けた治療

2021年09月21日
クンドゥーズで外科治療に当たるMSFの医師 © MSF
クンドゥーズで外科治療に当たるMSFの医師 © MSF

「いますぐ手術が必要な人がいるのに、銃撃が続いていて患者の元へ行けない──」

7月から8月にかけて武装勢力タリバンと政府軍の戦闘が続いた、アフガニスタン北部のクンドゥーズ。多数の人びとが負傷し、国境なき医師団(MSF)はオフィスを臨時の外傷治療施設に変えるなどして緊急対応に当たった。その後、タリバンは8月15日に首都カブールを制圧し、アフガニスタンの実権を掌握。緊張が続くアフガニスタンで、MSFはクンドゥーズをはじめ5つの地域で活動を続けている。

クンドゥーズで戦闘が続くなか治療に当たった医師が、その時の状況を語った。 

手術室に駆け込む

戦闘が始まった日の夜は砲撃と銃撃が続き、急いでシェルターに入って一晩過ごしました。翌朝、「銃弾を受けて手術が必要な患者さんがいるので、大至急来てほしい」と同僚から連絡が入りました。何人もの負傷者が運ばれてきているにも関わらず、宿舎と病棟をつなぐ道路で戦闘が止まないため、私は行くことができませんでした。

 
銃声がやや静まって動けるようになった瞬間、私たちは3人で道路の反対側にある手術室に駆け込みました。脈が途絶えたばかりの患者さんに、私は心臓マッサージを行い、麻酔科医は気道の確保に当たりました。そして胸に2つの穴を開けました。血液を外に出し、肺を膨らませられるようにするためです。別の同僚は胸骨の下の出血を止めようとしていました。しかしすぐに分かったのは、銃弾が心臓に当たっているらしく、助かる見込みはないことでした。 
 
それが地獄の日々の始まりでした。銃で撃たれて負傷した人、爆弾で負傷した人……。銃撃戦に巻き込まれた多くの人びとが搬送されてきました。

戦闘の負傷者が増え、7月に臨時の病棟を立ち上げた=2021年7月 © Prue Coakley/MSF
戦闘の負傷者が増え、7月に臨時の病棟を立ち上げた=2021年7月 © Prue Coakley/MSF

流れ弾が当たった男の子

患者さんの中に、戦闘の流れ弾に当たって負傷した幼い男の子がいました。男の子はお父さんに連れられて、腕に包帯を巻いた状態で救急処置室に運ばれてきたのです。泣きもせず静かに前を眺めていて、緊急な状態ではないように見えました。

 
包帯から出ている指は血行がよく、温まっているように見えたので、私は時間を取ってスタッフに手の神経の損傷を正しく調べる方法を説明しました。しかし、その子は手全体に何も感じていないようでした。手に通う神経が切断されていたのです。
 
包帯をそっと外して腕を見た瞬間は忘れられません。前腕部にぽっかりと穴が開いていたのです。残っている組織よりも、穴の方が大きいとは……。スタッフ全員が「まさかそんな!」という表情でした。私たちは傷口を再びふさいで、手の状態を安定させようとしました。なぜか指までの動脈だけは残っていましたが、神経は全て切れていました。
 
医学的には、切断が最善の選択だろうという点で皆の意見は一致したものの、父親は納得しませんでした。息子にチャンスを与えたかったのです。私たちは、感染を起こした傷や壊死した組織を切除して傷をきれいにし、組織を生かすことに全力を尽くしました。そして、創外固定器を付けて骨を決まった位置に固定することで、組織が再生し、治るまでできるだけ長く時間をとれるようにしました。それでも、もう二度と元のようには動かせないでしょう。

爆撃で脚を負傷した男性=2021年7月 © Stig Walravens/MSF
爆撃で脚を負傷した男性=2021年7月 © Stig Walravens/MSF

新しい病院への移転

ここクンドゥーズ州で、MSFは2018年から外傷センターの再建を行っています。地域の人たちは、この病院を待ち望んでいました。2週間前、仮設診療所の患者を初めて新しい病院に移したところです。新たな局面の始まりです。

新しい外傷センターの建設が進む<br> =2019年5月 © MSF
新しい外傷センターの建設が進む
=2019年5月 © MSF
いま来院する患者さんは、激しい銃撃戦や爆撃の負傷者に代わって、バイクなどの交通事故や、以前治療を受けた後に合併症が起きてさらなる治療が必要な人たちが増えています。社会活動が再開してきたためです。
 
クンドゥーズ外傷センターでは、再建工事をしながら医療活動を行っています。建設チームをはじめとするスタッフの動きの速さには驚かされます。担架で患者を運ぶ通路ががれきだらけでこぼこになっていると、あっという間に何人かががれきの上にコンクリートを流し込んでいました。
 
この場所で医療援助を何とか続けるために、いま、スタッフ全員が助け合い、力を尽くしています。  

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