引き継がれた技術と知識が、子どもたちの命を守り続ける

2018年07月10日

バファタ州立病院で乳児患者を診るMSFの医療スタッフバファタ州立病院で乳児患者を診るMSFの医療スタッフ

子どもたちが、治るはずの病気で命を落とすことのないように——。その思いを胸に、国境なき医師団(MSF)が西アフリカの小さな国、ギニアビサウのバファタ州で2014年から続けてきた小児医療プロジェクトが、3年半の役割を終えた。MSFがここに残せたものは何か。プロジェクトの最後の医療チームリーダーとして活動したスウェーデン人医師、アーリン・ラーソン医師が、活動の成果と今後の課題を語っている。 

MSFがバファタ州で活動を始めた理由は

医療チームリーダーのアーリン・ラーソン医師医療チームリーダーのアーリン・ラーソン医師

このプロジェクトは2014年11月に始まり、ギニアビサウの公衆衛生体制を強化して乳児の死亡率を低減することを目標にしていました。この国は何年も政治が安定していないため、外国からの資金援助もかなり減らされ、もともと資金や人材に乏しいなかで公共システムに大きな打撃を与えています。

この3年半、MSFはバファタ州立病院で新生児室と小児科のほか、5歳未満の子ども向けの栄養治療プログラムを運営してきました。また、州の農村部にある診療所の支援や、マラリア・下痢・急性呼吸器感染の診断と治療ができるよう地域の保健担当者の研修も行いました。また、搬送体制も導入して地域から病院に患者を運べるようにしました。

MSFの活動により、どのような成果がありましたか

プロジェクトでは現地の医療スタッフとともに活動したプロジェクトでは現地の医療スタッフとともに活動した

 MSFの活動は確実にバファタ州の死亡率低減に貢献しました。マラリアや下痢など、この地域でよくある病気の診断と治療は、国家の保健衛生事業に入っていましたが、実施に至っておらず、MSFが地域レベルで支援に入りました。

ギニアビサウで季節性のマラリア治療に化学的予防法を実施したのは、MSFが最初です。化学的予防法は予防目的で抗マラリア薬を子どもに与えるもので、マラリア流行がピークに達する数ヵ月間に行います。MSFのプロジェクトが終了した後も、この戦略はバファタ州と近隣の州で続いていきます。

一緒に活動している現地の医療従事者向けに、重要な研修も行っています。専門的で組織だった医療サービスとはどのようなものか、彼らは3年半の間にしっかりと目にすることができました。ギニアビサウの体制では、医療従事者はほとんどサポートを受けられず、必要な機器や医薬品も、上司の監督もありません。こうした若い医師や看護師がMSFとともに働き得た知識は、今後も役立っていくでしょう。

なぜバファタ州での活動を終了するのですか

バファタ州は公共インフラが整わないものの、情勢は安定しているバファタ州は公共インフラが整わないものの、情勢は安定している

緊急人道援助団体として、MSFは最も危機的で切迫したニーズがある場所での活動を優先しています。バファタ州は、ニーズはあるものの安定していて、他の援助団体も活動が可能です。地域レベルでの活動を別のNGOに引き継ぐことができ、今後はそこが地域保健担当者を支援し続けます。診療所と病院の活動は保健省が引き継ぎます。

ギニアビサウでは人材が不足していますから、特に病院では、MSFが入っているときと全く同じレベルのケアを維持していくことは難しいとは思います。プロジェクトの終了は、運営がうまく行っているからこそ難しいこともありますが、向き合わなければなりません。

地域の反応はどのようなものでしたか

地域リーダーをはじめ住民にも理解を得て、MSFは役割を終えた地域リーダーをはじめ住民にも理解を得て、MSFは役割を終えた

MSFは地域の保健・政治当局と会合を重ね、プロジェクトを引継ぐ計画について何ヵ月も前から伝えてきました。また、地域のリーダーと宗教指導者とも話をしました。ギニアビサウは公共システムが整っていないため、彼らが地域のまとめ役として中心的な役割を果たしています。例えば、教師が長い期間給与を支払われていない場合、リーダーが地域で集金して教師を続けられるようにしています。リーダーたちは、MSFがプロジェクトを終了することを快く思っているわけではありませんでしたが、その理由を理解し、地域住民への説明も手伝ってくれました。

診療所と病院に医薬品と医療物資を寄贈した際は、地域のリーダーと宗教指導者の目の前で寄贈を行い、大いに喜ばれました。物資があり、それがきちんと活用されていくことがいかに重要か、理解してもらえました。診療所と病院内で行われていたロジスティック活動は、長期にわたってバファタ州の人びとの役に立っていくでしょう。

ギニアビサウでは、他にどんな活動をしていますか

MSFは現在、首都ビサウにあるシモン・メンデス国立病院で活動を続けています。ここには全ての州立病院から子どもたちが搬送され、治療を受けています。また、合併症のある子どもをバファタ州からシモン・メンデス病院に紹介して、治療を続けられるようにしています。

MSFはバファタ州を離れます。しかし、また医療・人道危機が起こり対応が必要な場合に備え、今後とも状況を見守っていきます。
 

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