引き継がれた技術と知識が、子どもたちの命を守り続ける
2018年07月10日
子どもたちが、治るはずの病気で命を落とすことのないように——。その思いを胸に、国境なき医師団(MSF)が西アフリカの小さな国、ギニアビサウのバファタ州で2014年から続けてきた小児医療プロジェクトが、3年半の役割を終えた。MSFがここに残せたものは何か。プロジェクトの最後の医療チームリーダーとして活動したスウェーデン人医師、アーリン・ラーソン医師が、活動の成果と今後の課題を語っている。
MSFがバファタ州で活動を始めた理由は
MSFの活動により、どのような成果がありましたか
MSFの活動は確実にバファタ州の死亡率低減に貢献しました。マラリアや下痢など、この地域でよくある病気の診断と治療は、国家の保健衛生事業に入っていましたが、実施に至っておらず、MSFが地域レベルで支援に入りました。
ギニアビサウで季節性のマラリア治療に化学的予防法を実施したのは、MSFが最初です。化学的予防法は予防目的で抗マラリア薬を子どもに与えるもので、マラリア流行がピークに達する数ヵ月間に行います。MSFのプロジェクトが終了した後も、この戦略はバファタ州と近隣の州で続いていきます。
一緒に活動している現地の医療従事者向けに、重要な研修も行っています。専門的で組織だった医療サービスとはどのようなものか、彼らは3年半の間にしっかりと目にすることができました。ギニアビサウの体制では、医療従事者はほとんどサポートを受けられず、必要な機器や医薬品も、上司の監督もありません。こうした若い医師や看護師がMSFとともに働き得た知識は、今後も役立っていくでしょう。
なぜバファタ州での活動を終了するのですか
緊急人道援助団体として、MSFは最も危機的で切迫したニーズがある場所での活動を優先しています。バファタ州は、ニーズはあるものの安定していて、他の援助団体も活動が可能です。地域レベルでの活動を別のNGOに引き継ぐことができ、今後はそこが地域保健担当者を支援し続けます。診療所と病院の活動は保健省が引き継ぎます。
ギニアビサウでは人材が不足していますから、特に病院では、MSFが入っているときと全く同じレベルのケアを維持していくことは難しいとは思います。プロジェクトの終了は、運営がうまく行っているからこそ難しいこともありますが、向き合わなければなりません。
地域の反応はどのようなものでしたか
MSFは地域の保健・政治当局と会合を重ね、プロジェクトを引継ぐ計画について何ヵ月も前から伝えてきました。また、地域のリーダーと宗教指導者とも話をしました。ギニアビサウは公共システムが整っていないため、彼らが地域のまとめ役として中心的な役割を果たしています。例えば、教師が長い期間給与を支払われていない場合、リーダーが地域で集金して教師を続けられるようにしています。リーダーたちは、MSFがプロジェクトを終了することを快く思っているわけではありませんでしたが、その理由を理解し、地域住民への説明も手伝ってくれました。
診療所と病院に医薬品と医療物資を寄贈した際は、地域のリーダーと宗教指導者の目の前で寄贈を行い、大いに喜ばれました。物資があり、それがきちんと活用されていくことがいかに重要か、理解してもらえました。診療所と病院内で行われていたロジスティック活動は、長期にわたってバファタ州の人びとの役に立っていくでしょう。
ギニアビサウでは、他にどんな活動をしていますか
MSFは現在、首都ビサウにあるシモン・メンデス国立病院で活動を続けています。ここには全ての州立病院から子どもたちが搬送され、治療を受けています。また、合併症のある子どもをバファタ州からシモン・メンデス病院に紹介して、治療を続けられるようにしています。
MSFはバファタ州を離れます。しかし、また医療・人道危機が起こり対応が必要な場合に備え、今後とも状況を見守っていきます。