栄養失調に関する5つの疑問-

2005年09月02日掲載

  1. 飢えと栄養失調の違いについて
  2. 栄養失調の段階、種類について
  3. 栄養失調が引き起こす痛みや不快感について
  4. 栄養失調の人の食事について
  5. 「飢えで死ぬ」ことは、現実にあるのかについて

1 飢えと栄養失調の違いについて

飢えは危険信号で、絶食するとその日から、胃が空であったり血糖値が下がったときに身体が発するさまざまな信号に続いて現れる。

一方栄養失調は、順応の結果として生じる。危険信号が発せられた後も栄養が長期にわたって不足すると、身体はエネルギー消費量を減らすよう機能を調整するのである。

ほとんどの場合、栄養失調は飢えと関連している。栄養失調の主な原因は以下の3点である。

・カロリー(食品に含まれるエネルギー価)の不足
・一定の食品に含まれる特定の栄養素(アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどの「微量栄養素」)の不足
・食欲の低下や体重の減少をともなう病気(下痢などの場合に顕著)

たいていの場合、食事の量が少ないこと、栄養に乏しいこと、そして病気の間には関連がある。

この飢えと栄養失調の違いから、食糧危機の場合に子どもがまっ先に犠牲となる理由が説明できる。第1に子どもは成長期にあるため、食事の質的・量的変化の影響をとりわけ受けやすい。第2に子どもの免疫システムは不完全で、身体や臓器も未発達なため、感染症にかかりやすい。貧困によりマラリアが風土病となり衛生状態も悪い地域では、子どもの体力はますます弱まってしまう。

2 栄養失調の段階、種類について

慢性的な栄養失調は、身体の成長の速度を遅らせる。成長期の子どもと若者に見られ、身体は体重と身長の増加を抑えることで反応する。慢性の栄養失調は、成長の遅れの程度に応じて中程度と重度に分けられる。慢性の場合、年齢に見合った身長との比較がもっとも明確な指標となる。

急性の栄養失調は、体内に蓄積されたエネルギーを消費してしまうことに起因し、大人もかかることがある。生存に必要なエネルギーと栄養素を補給するために、身体は自らを消費し、筋肉と脂肪が溶解し始める。

急性の栄養失調も中程度と重度に分けられる。患児の身長に対する体重の比率を、健康な子どもの場合の平均値と比較する一覧表を用いることで、栄養失調の深刻さを即座に見極めることができる。身長対体重の比率が平均値を20~29%下回っている場合は、中程度の栄養失調である。30%以下の場合は重度と診断される。

緊急時には、別の指標を用いて子どもの栄養状態を調べることも多い。腕の周囲を測る方法で、肩とひじの中間の位置の周囲径を測定する。周囲径が110mmを下回る場合、子どもは急性栄養失調に陥っており、命を落とす危険があると診断される。

急性の栄養失調に見られる症状として、筋肉と脂肪が溶解するマラスムスと、細胞組織内に水が溜まったり、栄養性浮腫が現れるクワシオルコルがある。同時に両方を発症する子どももいる。

栄養失調と関連した症候としては、鉄分もしくはその他の微量栄養素の不足による貧血、ヨウ素の不足による甲状腺種、ビタミンAの欠乏による眼球乾燥症、壊血病、ナイアシン欠乏症、ビタミンBの欠乏による脚気、ビタミンDの欠乏によクル病などの欠乏症があげられる。それほど特徴的ではないが、頭髪の褪色も欠乏症の1つである。

3 栄養失調が引き起こす痛みや不快感について

食べないことで気力が失われ、極度の疲労が生じる。次第に無表情になり、反応を示さなくなる。食物が入ってこないために胃は萎縮し、ますます少量の食物しか受けつけなくなる。胃の容積により管理されており、食欲や満腹感などの感覚に関連しているすべてのメカニズムが鈍る。衰弱が激しいために飢えや渇きの感覚を失い、しばしば脱水状態に陥る。

しかし極度に衰弱しても、苦痛を感じる能力まで鈍るわけではない。筋肉が萎縮しているため、あらゆる動きは痛みを伴う。皮膚組織が乾燥して皮膚が裂けることによる痛みもある。当然、感染症も痛みを引き起こす。極度に衰弱しているため、あらゆる病気に感染する危険がある。例えば消化管の内壁にカビが発生することがよくある。そのため飲み込むときに、口内炎ができた状態でレモンを食べるような激しい痛みをともない、飲食が極めて困難になる。

4 栄養失調の人の食事について

萎縮した胃はもはや何も受けつけなくなるので、最小の容量で最大のカロリーを身体に供給することが必要になる。栄養失調の子どもに対し、すぐにたくさん食べることを求めてはならない。重度の栄養失調の子どもの回復は、衰弱のあまり普通の食物を代謝できなくなった身体に負担をかけることを避けるため、たいてい段階的なプロセスを要する。

飢えにはいくつもの段階がある。その中で最も衝撃的なのは飢餓で、人をいわば生ける屍に変えてしまう。そこまで事態が悪化した場合、解決策は1つしかない。大量の食糧の迅速な配給である。国境なき医師団(MSF)が行うのは、1人1人の命を救う治療行為である。それは飢餓の原因そのものを解決するものではなく、その結果にとりあえず対処することでしかない。治療行為は、すべての人に施すことはできなくとも、速効性があり、非常に重要な手段である。またMSFは人道的な組織として、その援助が政治的に利用されることのないよう、常に注意を払っている。

 

■飢餓の発生と初期の対応

5人家族の1月分の食糧を90kgとすると、2万家族、つまり10万人を救うには、トラック164台で1,800トンの食料を輸送する必要がある。飢餓がすでに広がっている場合、このようなプログラムを実施できるのは世界食糧計画(WFP)のような大規模な物資輸送手段を持つ機関だけである。

しかし飢餓はそれほど頻繁に生じるものではなく、しかも突然起こるわけではない。飢餓はまず、不安定な状況にある人々、特に避難を強いられた人々を襲う。干ばつ、洪水、ばったの襲来などは、これらの人々を崖っぷちに追いつめる「引き金」である。飢餓の前兆は、数多く明らかにされている。食糧備蓄の減少、家畜の売却、採集・狩猟への依存、急性栄養失調にかかる子どもの出現などである。MSFのチームはこの段階で、活動範囲を限定して行動を開始する。チームの最初の任務は、栄養状態の調査を行い、食糧危機を感知することである。

これらの調査には、結果が客観的な数字(高い乳幼児死亡率など)で表れるという長所がある。しかし調査だけでは不十分で、MSFのチームは村のリーダーや、主婦、農民や、商人らと話す時間を設ける。こうして食糧危機が間近に迫っているのか、あるいはすでに始まっているのかを「感じ取る」のである。「数字をリアルに感じるには、その背景を深く知る必要があります。しかし、危機が迫っているかの見極めは簡単なことではありません」と、MSF緊急対応班の医療コーディネーター、マリー=クリスティーヌ・フェリールは述べる。

■希望のもてる結果

こうして集められ現場で確認された情報から状況が深刻であることが判明すると、MSFは被害が最も深刻な地域で、対象者を絞った栄養プログラムを開始する。もっとも頻繁に対象となるのは5才未満の子どもたちである。中程度の栄養失調*に苦しむ子どもは「栄養補給センター」で治療を受け、重度の栄養失調*を患う子どもは「集中栄養治療センター」で集中的な継続治療を受ける。

この方法が効果的であることは明らかである。MSFは2005年1月初頭から6月末の間に、ニジェールのマラディ県とタウア県で重度の栄養失調に陥った子ども9千人以上を治療した。センターに到着したときには瀕死の状態だったこれらの子どもたちの85%は、治療を最後まで続けて回復し、子どもらしい表情を取り戻すことができた。

MSFは新たな治療の提供方法として「通院治療センター」を開始した。この方法で、より多くの患者の受け入れが可能となる。「ビタミンやたんぱく質、ミネラル分の強化された治療用食品の進歩のおかげで、今日では重度の栄養失調のケースでも、合併症を併発していなければ入院をせず、通院で治療を受けられようになりました。母親は子どもを入院させるかわりに、MSFのチームが毎週検診に来る近くの村まで連れて来ます。このシステムで、患者にとっては治療が受けやすくなり、MSFにとってはより多くの人を受け入れられるようになる上、母親は他の子どもたちを家に残して、長い間留守番させずにすむのです。結果はたいへん良好です。」とフェリールは続ける。

MSFの栄養専門家パスカル・デルシュヴァルリーは次のように言う。「それぞれの状況に合わせるよう、常に柔軟であり続けることが必要です。私たちは治療だけでなく、対象者を絞った食糧配給も行っています。例えばリスクの高い地域の5才未満の子ども全員を対象とした配給です。もちろん対象者を限定した配給は、全住民を対象とした場合のようなインパクトはありませんが、限られた手段で、効果的かつ迅速な対応ができるのです。」

MSFは全住民を対象とした食糧の配給はごく稀にしか行わない。「私たちは、インドネシアの津波災害の直後のように、MSFが現地の緊急の需要に対応できる唯一の団体であるときなど例外的な場合を除いて、医療団体という特性を守るようにしています。一方で、状況を監視し、他団体に働きかけることは医療と並んでMSFの重要な役割です。大規模な配給を行う能力と権限を持つ組織に対し、行動を起こすよう呼び掛けるのです。」とデルシュヴァルリーは言う。

最近ではMSFはニジェールで食糧の無料配給を行うよう度々呼びかけたが、ニジェール政府と援助供与国はこれをためらった。数千人もの人々が死の危機に瀕しているにもかかわらず、現地の市場を不安定にしてはならないというのがその理由だった。

しかしニジェールの食糧市場は、不足につけ入って投機を行う大手の商人のせいで、すでに非常に不安定な状態にある。これは現実の食糧不足というよりは購買力の問題である。マラディやタウアの市場の陳列台にはミレット(イネ科の雑穀)が豊富に並んでいるが、人々にはこの基本食品を買うお金がない。そもそも食糧危機は食糧の絶対的な不足ではなく、食糧の入手手段の欠如によって起こるものが多い。

■戦争の駆け引きに利用される飢餓

政府の対策の欠如や遅れによって食糧危機が深刻化し飢餓に至ることもあるが、飢餓は別の要因によって悪化することもある。戦時下の国では、農地は前線になったり地雷がばら撒かれたりして荒地になる。攻撃を避けて農民が耕作地を放棄してしまうこともある。安全が確保できないために、人道援助団体が被害の甚大な地域へ行けなかったり、支援の規模が限られたりすることもある。

デルシュヴァルリーは続けてこう語る。「私たちの活動の期間はしばしば安全性に左右されます。これは戦争の副次的な影響、意図せざる影響です。しかし意図的に作り出される飢餓もあります。紛争当事者が支配している地域の住民を故意に飢餓に陥れ、ジャーナリストを呼び、国際的な援助を集めて、それを横領する場合です。その場合、飢餓は戦争の駆け引きに利用されているのです。」

20年前のエチオピアでは、首都アディスアベバを拠点とするメンギスツの全体主義政権がエリトリアのゲリラ兵およびティグライ人民解放戦線と戦っていた。この軍事政権は、反対勢力の占領下にあった農村地帯の住民に支援が届けられるのを妨害した上、強制移住作戦を行い、数十万に上る農民が犠牲になった。当時エチオピアで栄養プログラムを実施していたMSFは、この暴挙を告発したために、1985年同国から追放されることになった。

MSFは、政治的に利用されることなく、危険にさらされた人々を支援するため、活動の場所と方法を選択する自由を常に要求している。そのため政府と力ずくの交渉になることも度々だ。しかし、時折生じる援助の失敗や、市民から生存の権利を奪う犯罪的行為を前に、MSFは証言することのリスクを引き受ける。

デルシュヴァルリーが言うように、「追い出されるのを覚悟の上で告発することと、犠牲者の傍にとどまり治療をするために口をつぐむこと、もしくは告発の声を弱めることとの間で、バランスをとらなければならない」のである。

*身長に対する体重の値が、標準値の80%に満たなければ中程度の急性栄養失調。身長に対する体重の値が、標準値の70%に満たなければ重度の急性栄養失調。

5 「飢えで死ぬ」ことは、現実にあるのかについて

理論的には、身体組織が消費しつくされ、生存に必要なエネルギーや栄養素を供給できなくなった場合、飢えで死ぬことはあり得る。しかし実際は重度の栄養失調に関連した死のほとんどは、それ以前の段階で、たいていは病気が原因で生じる。栄養失調が悪化するにつれて身体は衰弱し、感染症や代謝性の合併症から自らを防御することができなくなってしまうのである。

集中栄養治療センターにおける死亡率は5%である。つまり、重度の栄養失調児の95%は救うことができるのである。それぞれの状態によるが、重度の栄養失調の子どもは入院から3〜6週間で健康を取り戻すことができる。子どもの回復は毎回、母親にとってだけでなくMSFチームにとっても、「奇跡」のように感じられる。衰弱しきっていた子どもが、数週間のうちに再び笑い、食欲や生きる力を取り戻すことにMSFのチームも驚かされるのである。治療を受ける前もしくはその最中に合併症を起こさなければ、急性の栄養失調によって死に至ることはない。

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